2014.08.06
2014年8月6日
一般財団法人 東京顕微鏡院
食と環境の科学センター 微生物検査部 柿澤広美
健康保菌者とは『検便により対象となる菌を保有していることが確認されているが、菌による症状を発症していない者』を指します。症状を発症していないため、一見健康そうにみえますが、糞便とともに病原菌を排菌しているため感染源となりうる可能性が高く注意が必要です。
このことから、食品取扱い等調理業務事業者は食中毒事故の危険を回避するために、従事者の検便検査が義務づけられています。
食中毒の病因物質は大きく細菌、ウイルス、化学物質、自然毒等に分類できます。厚生労働省食中毒統計による食中毒発生状況では、サルモネラ属菌による食中毒事件は細菌別事例過去10年間において常に上位を占めています(図1)
当財団では、食品取扱い業務従事者からの検便(腸内細菌検査)の受託を行っています。2004年から2013年において、主な検査項目であるサルモネラ属菌と腸管出血性大腸菌O157の陽性率の推移を比較してみるとサルモネラ属菌の陽性率は2004年には0.019%でしたが2013年には0.053%まで上昇し、この10年間で年次ごとに高くなる傾向にあります。
これに対し腸管出血性大腸菌O157の陽性率にさほど変化はありません。サルモネラ属菌の感染経路はその殆どが食品からの感染によるものと推察されることから、国内流通食品のサルモネラ属菌汚染率が高まりつつあるのではないかと考えられます(図2)
食品取扱い業務従事者から検出されたサルモネラ属菌は通常デンカ生研のサルモネラ免疫血清(O群血清)を使用してO群型別を実施します。主要な血清型はO4群、O7群、O8群、O9群の4種類で全体の約90%を占めています(図3)
O7群は分離された菌株の約35%を占めており毎年検出率が高く、O4群がそれに続き25%前後となっています。O8群は徐々に増加する傾向にあり、逆にO9群は1996年頃までは約25%を占めていたものが暫時減少し、2013年では10%を下回る割合となっています。
この結果は食中毒患者から検出された病原体について、地方衛生研究所から国立感染症研究所感染症情報センターに報告されるサルモネラ属菌の検出数においてO9群のSEの検出傾向が減少しているのと同じ推移をたどっています。
しかしながら、食中毒事例にて原因の多くをSEが占めている状況に変わりはありません。サルモネラ食中毒の原因食品は卵類、肉類、野菜類、菓子類等多岐にわたっています。したがって、食品取り扱い業務従事者の検便検査は食中毒事故を防ぐために必要な手段の一つなのです。