2014.03.28
2014年3月28日
一般財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
環境検査部 技術専門科長 今澤 剛
平成26年2月28日付け厚生労働省令第15号「水質基準に関する省令の一部改正」により、水質基準項目に亜硝酸態窒素の新しい基準値が設定されました。
亜硝酸態窒素って水質基準項目に前からあるのに、今更どういうこと?と感じると思います。旧省令の水質基準では硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の合計値として10mg/Lの設定があります。しかし今回の改正では、単独の亜硝酸態窒素として0.04mg/Lの基準値が設定されました。今までの250分の1という非常に低い基準値です。ではなぜこんなに低い基準値が設定されたのでしょうか?
亜硝酸態窒素について、近年の知見からきわめて低い濃度でも健康に影響があることがわかってきました。そこで今回、メトヘモグロビン血症を発症させることがないように定められた硝酸態窒素との合計量とは別に、亜硝酸態窒素は単独できわめて低い評価値を定めることが適当とされました。
しかしその際、WHOの飲料水水質ガイドラインでは亜硝酸塩のヒトへの影響及びヒトの感受性については不確実性があるため暫定値とされたことを踏まえて、亜硝酸態窒素の評価値を水質基準とするかどうかの議論が行われて来ました。
平成24年には食品安全委員会から食品健康評価値が示されたことから、厚生科学審議会生活環境水道部において、亜硝酸態窒素の検出状況について評価が行われました。その結果、水質基準への見直し要件に適合することから、亜硝酸態窒素を水質基準として位置づけるとともに、今回の関係する省令の改正になりました。
硝酸態窒素を含む肥料等により汚染された地下水や井戸水を飲料した場合、体内の腸内細菌によって硝酸態窒素が還元され亜硝酸態窒素に変化します。亜硝酸態窒素を含む水を飲用しても同様ですが、体内に吸収された亜硝酸は血液中のヘモグロビンと反応してメトヘモグロビンになります。
メトヘモグロビンは酸素を運搬できないため、これが体内に過剰になると酸素欠乏状態に至り、いわゆるメトヘモグロビン血症を引き起こします。特に注意が必要なのは乳児で、乳児は胃酸が成人より中性側にあるため、硝酸還元腸内細菌が増殖しやすく亜硝酸を生成しやすいため、成人よりもメトヘモグロビン血症を引き起こしやすいとされています。
亜硝酸態窒素を含む水を飲用した場合、上記のメトヘモグロビン血症とは別に、亜硝酸が体内で食品中のアミン類やアミド類と反応しN-ニトロソ化合物を生成します。このN-ニトロソ化合物の中にニトロソアミンが含まれています。ニトロソアミンは胃ガンをはじめ消化器系のガンへの危険性があるとされています。
ごはんを炊くのにも、おかずを作るのにも水は必要で、成人に必要な1日分の水は最低で1~1.5Lとされています。メトヘモグロビン血症を例に挙げると、きわめて低い濃度でも健康に影響があるという知見から、亜硝酸態窒素として0.04mg/Lという非常に低い基準値が設定されたものと考えます。
検査方法は今までのイオンクロマトグラフ(陰イオン)による一斉分析法と同じです。ただし亜硝酸態窒素の基準値が0.04mg/Lであることから、定量限界値はその10分の1である0.004mg/Lとなり、電気伝導度検出器では感度不足のため測定が困難だと考えられます。そして、亜硝酸態窒素は塩素イオンピークの影響で分離測定が難しいとされています。これらを解決するには紫外部吸収検出器が必要となります。
また、旧省令の方法との相違点として、亜硝酸態窒素は塩素処理された水道水の場合、亜硝酸態窒素から硝酸態窒素へ速やかに酸化されてしまいます。その抑制のためには、検査対象となる水の採水時には必ずエチレンジアミン溶液を添加する必要があります。
硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素は水道水、地下水、井戸水のほとんどから検出されます。飲用や食品製造用の原水として使用されるそれらの水からも、水道水より高い濃度で亜硝酸態窒素が検出することがあります。
今回の省令改正により、亜硝酸態窒素として0.04mg/Lという非常に低い基準値のため、省令改正後は亜硝酸態窒素の検出事例が増加する可能性があります。そのため水質検査には高い精度が求められます。
当センターでは水道水をはじめ、地下水、井戸水等について、亜硝酸態窒素を含めた水質基準項目(51項目)の検査を受託しております。
(参考文献)