2018.12.26
2018年12月26日更新
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
微生物検査部 部長 難波 豊彦
厚生労働省は「食中毒統計資料」としてホームページに過去の食中毒発生状況と速報を公表しています。この統計の食中毒の事件数では、例年、細菌のカンピロバクターとノロウイルスが圧倒的に多い傾向が続いていました。図1はその統計資料を基に作った過去10年間の病因物質別の食中毒事件数です。
ノロウイルス食中毒は毎年冬季になると大規模な事例が発生してよくニュースとなります。鶏の生食が原因となることが多いカンピロバクターは長期に渡り細菌性食中毒の病因1位です。また、フグや貝、キノコなどの自然毒による中毒も毎年100件前後の報告があります。
その中で著しい増加を示すのが寄生虫のアニサキスです。2013年からこの統計の独立項目となりました。グラフには示していませんが2007年まで年間10件以下であった発生件数は、2008年以降次第に増加し2017年には230件に急増しており、2018年も更に増えることが確実です。(2017年の患者数は242人で、細菌やウイルスのように多数の患者が発生することはありません。)
我々が行っている食品微生物検査では細菌やノロウイルスを主な検査対象としていますが、この状況には注目せざるを得ません。アニサキスはどのような微生物で、なぜ増加しているのでしょう。
アニサキスは寄生虫の一種で、本来はクジラやイルカに代表される海洋ほ乳類の消化管に生息しています。人に食中毒を起こすのはその幼虫で、長さ2~3 cm、幅は0.5~1 mmくらいで、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの魚介類に寄生します。寄生している生鮮魚介類を生(不十分な冷凍または加熱のものを含む)で食べることで、 アニサキス幼虫が胃壁や腸壁に刺入して食中毒(アニサキス症)を引き起こします。
食中毒の防止には新鮮な魚を選び、速やかに内臓を取り除くことや目視で確認して、アニサキス幼虫を除去すること、冷凍 (-20℃で24時間以上)や加熱(70℃以上、または60℃なら1分)することが有効です。
本メルマガコラムのバックナンバー平成27年度 1月号「アニサキスって何?」もご覧ください。
アニサキスって何?(元気プラザだより 平成27年度 1月号より)
https://www.genkiplaza.or.jp/column_health/column_health_011.html
統計での急増の背景には、アニサキスの感染を食中毒として届出をするという認識が医療関係者の間で普及したからと考えられており、近年に急増したわけではないといわれています。
また、生鮮食品の低温流通システムの発達により、遠隔地で水揚げされた新鮮な生の魚介類を容易に食べることができるようになったことも、被害増加の要因と考えられています。
統計資料では原因食品が判明しているものではサバが最も多く、他にサンマやカツオ、アジなどがあり、食中毒発生は夏以降に多い傾向でした。しかし、2018年はカツオが豊漁であったためか、これまでと異なりカツオが原因食品となった事件が急増し、時期も春夏に多くなっています(図2)。
近年はテレビなどの報道で取り上げられる機会が増え、有名人の発症例なども紹介されるようになり、消費者の認知度が上がっています。そのせいか私が利用するスーパーの鮮魚コーナーにも寄生虫に注意の表示が見られるようになりました。
アニサキスによる食中毒は統計に現われなくても古くから多くの発生があり、有効な予防手段もあるので、消費者は正しい知識を持って対応することが大切です。
(参考資料)