2018.08.03
2018年8月3日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
微生物検査部 難波 豊彦
リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes 以降はリステリアと記載)は自然界に広く分布する細菌であり、食中毒であるリステリア症を発症させることがある。
当部では平成10年に食品のリステリア検査を受託して以来、検査数は年々増加し(図1)、近年は輸入食品検査の主要項目となっている。しかし、検査法となっている公定法は繁雑で労力を要する方法であるため、効率化を目的とし、遺伝子検出装置による迅速検査法の導入を検討した。
欧米などでは、リステリア症により毎年多数の患者や死亡者が報告されており、最近では南アフリカ共和国で2017~2018年にかけて、食肉加工製品が原因となった事例が発生し、約1000人が発症し、180人以上が死亡している。
統計手法は異なるものの、日本では過去の食中毒統計上でリステリアによる食中毒の報告例はない。しかし、日本でのリステリアによる食品汚染状況は欧米諸国とほぼ同じといわれており、免疫機能が低下している妊婦や高齢者は、重症化するリスクが高く注意が必要である。
海外での集団発生の原因となった食品は、チーズなどの乳製品が最も多く、次いでミートパティなどの食肉加工品、コールスローなどのサラダであり、スモークサーモンなどの魚介類加工品でも小規模ながら発生している。
非加熱で喫食する食品(いわゆるready-to-eat食品)のリステリアは、従来の検査法では検体 25g 中に菌は検出されてはならない(ゼロトレランス)という規格だったが、2008年国際規格委員会(Codex)が国際規格を定められたことから、日本でも内閣府食品安全委員会のリスク評価を経て、2014年12月にナチュラルチーズ(ソフトおよびセミハードに限る)と非加熱食肉製品について、検体1g当り100CFU(colony-forming unit:集落数)以下という規格基準が定められた。
これによりリステリアの規格適合性を調べるためには、定量的な試験法を用いて1ロットにつき5検体全てで100CFU/g以下であることが適合の条件となった。
厚労省は1ロット5検体検査(本試験)の負担を考慮し、予備試験として定性試験および予備定量試験を組み合わせることにより、検査開始時は1検体(25g)でも可能な方法を示した。
方法の組み合わせとして3通り(図2)考えられたが、当部では顧客が望む迅速な結果報告を優先し、検査日数が最短の①で検査を行っている。しかし1ロット5検体の培養であることから作業性と検査時間の面で大きな負担となっていた。
現在リステリアの迅速検出法には、リアルタイムPCR法、イムノクロマト法、核酸クロマト法など多くの方法があり、その一つとして等温遺伝子増幅法とATP検出法による発光検出系を組み合わせた3MTM病原菌自動検出システム(以降はMDS法と記載)がある。
輸入食品の検査は、公定法がある場合は通常これにより検査を行う。しかしリステリアは前述のように時間と労力がかかるため、検疫所は平成28年に自所が行うモニタリング検査において、検査時間の短縮のため、国際的な認証を受けたMDSによる方法を取り入れた。(リステリア、サルモネラ属菌対象)
これを機に、我々もこの装置導入を目的とし、メーカーの3M社に協力をいただき、食品検体を用いて公定法との比較検討を行った。
非加熱食肉製品28検体、ナチュラルチーズ30検体の合計58検体を用いてMDS法と公定法(定量・定性)を比較した。その結果から、MDS法でリステリア陰性と判定された検体は、培養法による定性試験でも陰性、定量試験では<10 CFU/gであった。MDS法で陽性であった検体はリステリアが存在するものの菌量が少ないため公定法では定性試験、定量試験とも検出されなかった。(表1)
よってMDS法はリステリア検査のスクリーニング法(図2③の定性試験をMDS法とする)として有用であると考えられた。
非加熱食肉製品19検体、ナチュラルチーズ13検体に、1グラムあたり100個未満のリステリアを添加しMDS法による定性試験を行ったところ、全ての食品で検出可能であったことから、食品中のリステリアの迅速検出法として有用であると考えられた。(これらの 検討は3M社との共同研究として、平成29年度の第38回日本食品微生物学会学術総会で発表した。)
MDS法による検査は、この検討をもとに営業部門との調整を行い、平成30年度から稼働させることとし、検査作業の大幅な効率化を図る。