2018.01.24
2018年1月24日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品理化学検査部 技術専門科長 柴田 博
製造、販売、調理、貯蔵など食品を取扱う際には必ず器具・容器包装が使用されます。紙、陶磁器、ガラス、金属、木など材質は様々ですが、最も広く使用されているのは合成樹脂製の器具・容器包装類です。これらの合成樹脂は、物理的・化学的な強度・特性・機能を向上させるため様々な化学物質を添加または反応させて製造されています。そこで我が国では器具・容器包装から合成樹脂に潜在する添加剤、未反応の原材料、副生成物、不純物などが食品に移行し健康被害を生じることが無いように、有毒又は有害な物質を製造に使用することを制限するため、食品衛生法で規格基準を定めています。
さらに食品用器具・容器包装を取扱う業界団体(ポリオレフィン等衛生協議会、塩ビ食品衛生協議会、塩化ビニリデン衛生協議会)では、自主基準を定め製造時に使用してもよい原材料物質、添加剤等のリストを作成し、使用を認めた物質ごとに、製品中の添加量、食品への移行量(溶出量)、使用用途等の制限を実施しています。
しかし近年の食品用器具・容器包装製品の多様化・輸入品の増加等により、食品衛生法の規格基準に定めた物質のみ使用制限を行うという現在の制度(ネガティブリスト制度:NL制度)では、欧米等で使用が禁止されている物質を含む製品を直ちに規制できず流通される可能性があります。
また業界団体による自主管理については、団体に非加入の事業者が管理の枠外になる問題があります。
そこで、厚生労働省は食品用器具・容器包装の安全性の確保について、我が国の食品の輸出促進も見据えて国際基準と整合的なポジティブリスト(PL制度)を検討しています。
PL制度とは合成樹脂等の食品用器具・容器包装の製造工程において、安全性が評価され、使用が認められた物質以外は使用を原則禁止するという仕組みのことです。
米国、EU、中国などがすでにこの制度を導入しており、日本と同じようなNL制度を実施している韓国、台湾、東南アジア各国もPL制度の導入に向けた検討を始めています。
厚生労働省は、2016年から「食品用器具・容器包装の規制に関する検討会」による討議を進め、2017年6月に取りまとめが公表されました。
具体的な枠組みとしては、
:国内や諸外国の状況を踏まえ引続き検討
:食品接触部分
:合理的で科学的かつ国際的な整合性を考慮した手法の早急な確立が必要
:既存物質は一定の条件を満たす場合には、引続き使用可
:重金属等の毒性が顕著な物質、不純物等はこれまでと同じリスク管理方法を維持
:ポジティブリストに適合した原材料であることを確認(製造管理の一環)
:器具・容器包装の製造事業者の求めに応じ、適切な情報を提供
:器具・容器包装の製造事業者から販売事業者等に対し、必要な情報を提供
:器具・容器包装の製造事業者に適正な製造管理(GMP)を行うことを制度として位置付け
:器具・容器包装の製造事業者把握のため、届出等の仕組みを検討
:監視指導については、まず事業者の把握、制度管理の状況の把握等を行うことが必要
また2017年7月には「食品用器具及び容器包装の製造等における安全性確保に関する指針(ガイドライン)」が策定されました。このガイドラインは今後の食品用器具・容器包装のPL制度の導入を見据えつつ、その円滑な導入及び運用の前提となるものです。
食品用器具・容器包装の安全性を確保するための、事業者自らが行う製造管理、輸出入、販売又は使用した製品の情報伝達等に関する基本的な事項を明確化し自主的な管理の推進を目的としています。このガイドラインには業界団体が自主基準として製造時に使用してもよい原材料物質、添加剤等としてリストに収載している物質の概要が参考資料として記載されています。
厚生労働省では2018年の通常国会で、食品用器具・容器包装のPL制度に関する法案を提出する予定です。法改正後、食品用器具・容器包装の安全性を確保する制度として従来のNL制度と新規のPL制度が併用される予定です。ガイドラインで示された業界団体の自主基準リスト収載物質は、一定の要件を満たす場合には引続き使用が可能になると思われます。
「食品用器具及び容器包装の規制に関する検討会」やガイドラインでは主に国内の製造販売業者に関する取組みについて議論や策定が行われ、輸入品に関する取組みについては、明確な回答は出ていません。輸入業者、通関業者、登録検査機関がPL制度導入後どのように運用するのかは今後の課題になっています。