2017.07.04
2017年7月4日更新
一般財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
調査研究室 森 哲也
サルモネラ属菌は動物の腸管、自然界(川、下水、湖など)に広く分布している食中毒起因菌です。厚生労働省の「平成28年(2016年)食中毒事件発生状況」によると、平成28年にはサルモネラ属菌が病因物質とされた食中毒が31事件発生しており、患者数は704名とされ、細菌性食中毒としてはカンピロバクター、ブドウ球菌に次ぐ事件数となっています。原因食品としては、卵、またはその加工品、食肉、うなぎ、すっぽん、乾燥イカ菓子や、二次汚染によると考えられる各種食品など多岐に渡っています。
サルモネラでは、複数の抗菌剤に耐性の多剤耐性化が問題となっており、その代表的なものとして、アンピシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、サルファ剤、テトラサイクリンの5薬剤に耐性を示すS. Typhimurium definitive type 104があります。この菌は1984年に英国で初めて分離され、その後急速に増加し1990年代初頭には世界各地で広がりが確認されています。国内の状況を見てみると、1992年から2012年にかけて国産鶏肉から検出されたサルモネラ属菌の血清型と薬剤耐性の調査結果では、血清型Infantisが最も高頻度に検出され、Harbar、Typhimurium、Manhattan、Schwarzengrund、Agonaなど15種の血清型が検出されています。検出された株のうち約8割が多剤耐性株で、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、カナマイシンなどの薬剤耐性頻度が高かったことが報告されています。また私共が協力した平成27年度の内閣府食品安全委員会の調査結果では,血清型InfantisとSchwarzengrundが高頻度に分離され、Manhattan、Typimuriumなど9種類の血清型が検出されています。検出されたInfantisの6割以上、Schwarzengrundでは8割以上が多剤耐性株でテトラサイクリン、ストレプトマイシンなどの薬剤耐性頻度が高い傾向が認められています。
畜産分野において選択される薬剤耐性菌が、食品を介してヒトに伝播し健康に影響を及ぼす可能性について、国内外の関心が集まっており、薬剤耐性が国際的な課題となっています。このような中、2015年5月の世界保健機関(WHO)総会において「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」が採択され、日本でも2016年4月に「薬剤耐性対策アクションプラン2016-2020」が決定されています。アクションプランでは、ワンヘルス・アプローチの視野に立ち、①普及啓発・教育、②動向調査・監視、③感染予防、④抗微生物薬の適正使用、⑤研究開発・創薬、⑥国際協力、の分野について「目標」「戦略」「具体的な取組」が掲げられ、総合的な対策が重要になってきています。
2015年11月には、医療上重要な抗菌性物質であるコリスチンに耐性を持つ大腸菌(MCR-1という遺伝子を持つ)が中国で発見され、世界を震撼させました。このような薬剤耐性菌も適切な加熱調理をすることで死滅させることができますので過度に心配する必要はありませんが、継続的な出現実態を調査する必要があると考えられます。当院でも,食品安全委員会や農林水産省などが実施している薬剤耐性菌の調査などに協力しています。