食品からのノロウイルス検出法の課題

2017.02.06

2017年2月6日更新
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
微生物検査部 難波 豊彦

1. はじめに

ノロウイルスを原因とする食中毒は、例年食中毒患者総数の多くを占め、2015年の統計では65%でした。(下表)発生は毎年10月から翌年3月までが多く、最近もノロウイルスが原因と考えられる大規模な食中毒が発生しています。ノロウイルス対策が食品衛生上大きな課題であることがわかります。そのため、ノロウイルス食中毒の原因究明やリスク管理に有効な検査法開発は不可欠です。

2. ノロウイルス検査法の現状

食品からのウイルス検出法にはPCR法による遺伝子検出、ウイルス抗原を検出するイムノクロマト法、電子顕微鏡法などがありますが、検査の特異性や検出感度から厚労省通知法に従った遺伝子検査が広く実施されています。
通知法におけるノロウイルス遺伝子検出法は感度が高く、食中毒事例の原因究明などには有効ですが、感染性の有無にかかわらず遺伝子を検出する手法であるため、生食用カキなどから遺伝子が検出したとしても、感染リスクが存在するのか否かは不明です。
ウイルスは環境中で太陽光からの紫外線や下水処理時の消毒など、さまざまな要因で不活化されて感染性を失うことがあると考えられていますが、現在の検査法では感染性・非感染性ウイルスを区別できません。

3. 感染性ノロウイルスの検査法

ウイルス汚染のリスク評価やリスク管理のためには、感染性のあるウイルスに由来する遺伝子のみを検出する方法(感染性推定法)が求められ、様々な研究がされています。
感染性推定法の原理には大きく二つあり、その一つはウイルス粒子の蛋白が変性や破壊されていないかにより、感染性・非感染性粒子を選択することで、二つ目はウイルス遺伝子が損傷や切断されていないかにより感染性ウイルス由来の正常なゲノムを検出するというものです。
しかしこの方法はまだ検討課題が多く、開発段階とされているのが現状です。そのため、有効性について詳細なデータは公表されていませんが、市販カキについてこの方法を実施したところ、感染性を考慮しない方法に比べて陽性率の低下と、ウイルス定量値の大幅な減少など、感染性ウイルス量をより正確に反映すると考えられる結果が得られています。
最終的に感染性を評価するにはノロウイルスの培養方法の確立を待つしかないですが、現状では目的に応じた検査を実施して、得られた結果を正しく判断し、原因究明や予防に役立てること

参考文献
上間 匡 国立医薬品食品衛生研究所 「食品からのウイルス検出法の現状と課題」
食品微生物学会雑誌 Jpn. J. Food Microbiol., 33(3), 121‒126, 2016
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