2017.01.10
2017年1月10日更新
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
理化学検査部 水野 竹美
脂質は炭水化物、たんぱく質と並んで生体にとって不可欠な成分で、食品を美味しくしたり食べやすくする役割もあり、多くの食品に含まれています。主成分はエネルギー源となる中性脂肪(トリアシルグリセロール)でその大部分は脂肪酸で構成されています。
脂肪酸は炭素数が鎖状に配列した分子構造で、その長さと結合方法によって多くの種類があります。長さの違いで短鎖・中鎖・長鎖脂肪酸、結合方法で飽和・不飽和脂肪酸、さらに結合位置でn-3系(オメガ3)・n-6系(オメガ6)脂肪酸などにグループに分類されています。個別の脂肪酸では、体内でエイコサノイドとしての生理的活性物質に変換され特殊な役割を持つようになるものがあり、体内で作ることが出来ないものは必須脂肪酸と呼ばれリノール酸、α-リノレン酸、アラキドン酸があります。一般的に、飽和脂肪酸は固体で安定、不飽和脂肪酸は液体で酸素により過酸化を起こしやすい不安定な構造だと言われますが、その酸化されやすさも一定ではありません。
天然の油脂は単独の脂肪酸で構成されるのではなく、いくつかのものが混ざり合って構成されています。動物油脂は飽和脂肪酸が多く固体で、植物油はリノール酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸が多く液体、魚は多価不飽和脂肪酸のEPA,DHAが多く含まれ液体です。しかし、植物油でも菜種油、大豆油を混合して調合されたサラダ油はリノール酸が多く、オリーブ油はオレイン酸、亜麻仁油、えごま油はα-リノレン酸、そして月見草油はγ-リノレン酸が豊富に含まれています。また、ココナッツオイルは飽和脂肪酸のラウリン酸と中鎖脂肪酸、乳脂は短鎖と中鎖脂肪酸が多いという特徴があります。
食品から脂質を抽出し、個々の脂肪酸に分解したのち誘導体化してガスクロマトグラフで分析します。短鎖脂肪酸から中鎖、長鎖脂肪酸の順で、一斉分析が可能です。
脂肪酸の組み合わせにより脂質の性状が異り、その生体調節機能は多岐にわたっていますが、過剰摂取すると肥満を招くという共通した過剰症があります。飽和脂肪酸の過剰摂取はメタボリック症候群や生活習慣病のリスクが高くなりますが、過少摂取でもリスクが高くなることが示唆されています。EPA、DHAも生活習慣病の予防に良いとされていますが、過剰摂取すると血液が固まりにくくなります。摂取量だけではなくその脂肪酸バランスが大切で、飽和脂肪酸:一価不飽和脂肪酸:多価不飽和脂肪酸の望ましい摂取割合は3:4:3を目安とする指針が出ています。