2017.06.02
2017年6月2日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
微生物検査部 難波 豊彦
HACCPとは食品の製造や加工において、原材料の受入から最終製品までの各工程ごとに、微生物による汚染や異物の混入などの潜在的な危害を予測した上で、危害の防止につながる特に重要な工程を連続的・継続的に監視し記録することにより、製品の安全性を確保する衛生管理手法です。
下の図は一般的な食品の製造工程例ですが、ハンバーグの製造をあてはめて考えてみると、潜在的な危害として、①原料の生肉や野菜はサルモネラや腸管出血性大腸菌等の汚染や残留抗生物質、調味料類は芽胞菌やカビ毒等、③保管と⑤冷却では不適切な温度管理による微生物の増殖、④加熱では焼く際の加熱不足による微生物の生残、⑥包装後の金属探知機の不具合等が考えられます。
これら危害に防止措置を設けますが、製品の安全性上、特に重要なポイントは加熱工程とその後の冷却です。加熱はおいしいハンバーグを作るために重要な工程であるとともに、食品衛生上重要な微生物のコントロールを行う工程です。もし食中毒の原因菌が存在しても加熱工程で死滅または低減できるからです。HACCPとは、このように、各工程で管理方法を明らかにし、加熱のような重要な管理点を連続的に監視することにより、より安全な製品を造るという管理方式です。
従来の抜き取り検査による衛生管理に比べ、問題のある製品の出荷をより効果的に防ぐことができます。
厚生労働省では、平成28 年12 月に公表した「食品衛生管理の国際標準化に関する検討会」最終とりまとめを踏まえ、製造・加工、調理、販売等を行う全ての食品等事業者を対象として、HACCPによる衛生管理の制度化の検討を進めていくこととしています。制度化に際しては、事業者の負担軽減を図る観点から、各食品等事業者団体が食品の特性や業態を踏まえた手引書を作成するよう推奨し、厚生労働省は、その作成過程で技術的助言や内容の確認を行うこととしています。
食品の製造・加工での危害には、有害な微生物、化学物質、金属異物等がありますが、特に食中毒の原因となる微生物は、最も重要管理点に設定される項目と言ってよいと思います。HACCP方式では、従来の抜き取り検査による微生物管理でなく加熱や冷却などの工程中の管理点を連続管理することで、すべての製品を監視するため、完成品の微生物検査は不要になります。
ただし、監視条件となる加熱や冷却等の条件が危害を確実に除くことができることを科学的根拠をもとに、あらかじめ綿密に検証することがHACCP実施には重要です。有害微生物はどのようなものが考えられ、保管中の増殖抑制はどのように行い、健康に影響が無い状態に減少させるにはどのような加熱条件が必要かを確認することが不可欠です。
微生物検査は、危害要因の分析(原料の微生物汚染状況、保管状況での微生物の増殖等)、管理方法の設定(微生物低減のための加熱条件)、監視(適切な運用状況確認)等の検証、更に衛生管理の基本となる従事者の手洗い方法や施設・設備の洗浄・消毒の有効性を確認するなど製造環境の清浄度の管理のためにも必要です。
従来の抜き取りによる微生物検査は、製品の非連続的な評価のための方法と言えますが、HACCP運用における微生物検査は、全工程の安全性を高度に管理するために必要な科学的根拠を得るための重要な手段となります。