ノロウイルス検査法とその応用

2014.10.03

2014年10月3日
一般財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品微生物検査部 技術専門科長 鄒 碧珍

1. ノロウイルスの特徴について

ノロウイルス(以下「NoV」)は、表面がカップ状の窪みをもつ構造蛋白で覆われ、直径30~40nm前後で球形を呈し、内部に長さ約7,500塩基のプラス1本鎖RNAを持つウイルスです。

NoVのゲノムには3つの蛋白質コード領域(open reading  frame; ORF)があり、ORF1はウイルス複製に必要な非構造蛋白質を、ORF2はウイルス構造蛋白質(カプシド蛋白質;VP1)を、ORF3は構造蛋白質(VP2)をコードしています。

NoVのゲノム塩基配列の相同性に基づき5つの遺伝子群(genogroup、GⅠ~GⅤ)に分けられ、食中毒や感染症の原因となっているのは主にGⅠとGⅡの2つの遺伝子群です。さらに、NoVには30以上の遺伝子型(genotype)が分類され、GⅠには14種類の遺伝子型(GⅠ/1~GⅠ/14)、GⅡには17種類の遺伝子型(GⅡ/1~GⅡ/22)が報告されています1)

日本では2010年~2014年に検出されたNoVの大部分はGⅡで、2010年はGⅡ/3が約50%を占め、2011年以降はGⅡ/4が最も多く検出されました2)

2. 公定法によるノロウイルス検査

NoVはこれまで培養系が確立されていないため、発見当初は電子顕微鏡で形態観察によりウイルスの検出を行っていました。

1990年以後、Jiangら3)によるNoVのゲノムの構造と全塩基配列の解明により、NoVの特定の核酸領域の遺伝子増幅法:RT-PCR法(Reverse Transcription-PCR法、逆転写酵素によりRNAからcDNAを合成した後PCRを行う方法)やリアルタイムPCR法が開発され、高感度なノロウイルスの遺伝子検査が可能となりました。これらの方法は現在食中毒や集団感染の原因究明などの目的で、行政機関や研究機関等で一般的に用いられています。

食品のNoV検査は、平成15年11月5日付けの厚生労働省通知(食安監発第1105001号)による方法(以下「通知法」)によって実施していますが、本法は、カキなどの二枚貝を検査材料とするNoV検出法が示されています。通知法には、RT-PCR法とリアルタイムPCR法が収載されています。

RT-PCR法ではその増幅産物の確認検査において遺伝子配列を調べる方法を用いた場合の最大のメリットは確認検査と同時に遺伝子型まで判明するという点です。リアルタイムPCR法は、RT-PCR法よりも検出感度や特異性に優れています。PCR増幅産物に蛍光プローブが高い特異性で反応することから、DNAの増幅と定量、そしてハイブリダイゼーションが同時に行われ、RT-PCR法で必要となる電気泳動による増幅産物の確認や、陽性になった場合の確認試験も行う必要がなく、短時間で高精度の結果が得られるという利点があります。デメリットは遺伝子群までしか分からないことや試薬が高価であることです。

3. 高感度な公定法による食品のノロウイルス検査

現在のNoV食中毒は、調理従事者からの食品の二次汚染を原因とする事例が多数を占め、多種多様な食品や食事が原因となっています。食中毒の原因特定には、食品からのNoVの検出が重要です。しかし、通知法では原因食品として最も重要視されるカキ等の二枚貝中心に記載されており、他の食品については基本的にはこの方法に準ずるとされています。  

NoVは貝類では中腸線に蓄積されるため汚染度が高いが、他の食品においては表面だけの汚染であるため貝類に比べ汚染度が低く、また夾雑物(増幅反応阻害剤)等の要因により検出が阻害されることもあり、原因食品の特定や汚染経路の究明が困難な状況でした。食品からの新たなウイルス検出法の確立は急務であったため、厚生労働省では平成19年から食品の安心・安全確保推進研究事業「食品中のウイルスの制御に関する研究」がスタートしました。

その結果、多種多様な食品からノロウイルスを検出することができるパンソルビン・トラップ法を開発し、ルーチンの食品検査として実施が可能となっています。

本法はパンソルビン(免疫グロブリン結合性蛋白質プロテインAを持つ黄色ブドウ球菌菌体)を使用し、NoV-抗体-菌体の複合体を形成させ、NoVを特異的に濃縮するものです。本法の特徴は、多種多様な食品に対して同一の手技で実施できること、多検体処理が可能であること、高速遠心機等特殊な機器を必要としないことなどです。

厚生労働省は昨年10月に、この方法を従来法に追加して通知しました。この方法を実施することでNoVにより汚染食品を介した食中毒の原因究明や汚染の防止がこれまで以上に向上することが期待されます。

4. 簡易、迅速な糞便のノロウイルス検出用キット

近年、遺伝子解析技術が進み、ノロウイルス遺伝子構造が解明したことにより、遺伝子組み換え技術を用いて、ノロウイルスと同じ形態を持つ粒子(内部に遺伝子を持たないのでウイルス様中空粒子と呼ばれている)を作ることができます。

その粒子を動物に免疫して得られる抗体を利用した抗原検出法(ELISA法や、BLEIA法、イムノクロマト法)が開発され、免疫学的手法によるノロウイルスの簡易、迅速検出が可能になっています。

現在日本で市販されている糞便を対象とした主な免疫学的検出キットおよび遺伝子検出キットを表に示しました。

糞便には通常大量のウイルス(1gあたり106~109個)が排泄されますので、上述の方法により比較的容易にウイルスを検出することができます。これらのキットはそれぞれに特徴がありますので、食中毒などの集団感染・発生時の対応に最適な検査法を選択する必要があります。

表:市販の主なノロウイルス検出キット

(参考文献)

  • 篠原美千代 日本微生物学会雑誌、21(4), 238-242, 2004
  • 病原微生物検出情報 Vol.35 No.7 173-174, 2014
  • Jiang X, et al., Science 250 (4987): 1580-1583, 1990

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