2017年度に食品従事者から検出されたサルモネラ属菌の血清型と薬剤耐性

一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター 臨床微生物検査部
馬場洋一 柿澤広美 津藤通孝 岡元 満 安藤桂子 小林理香
高橋奈央 田原麻衣子 加藤明子 鈴木智子 渡辺由美子
根津さゆみ 浦野敦子 伊藤 武

目的

 1980年代頃から抗菌薬の効かない薬剤耐性 (Antimicrobial Resistance:AMR)をもつ細菌が増加し、感染症の治療に大きな問題が生じてきた。世界保健機関(World Health Organization:WHO)によると、このまま対策を取らない場合2050年には感染症による死亡者が全世界で1,000万人に達すると予測した。このため、2015年にWHOは薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを提言し、世界に向けて調査や制御対策を要請した。
 当法人の臨床微生物検査部では以前より食品従事者の健康管理として腸内細菌検査を受託してきたところ、近年サルモネラ属菌の保菌者の増加が認められ、年間1,000菌株以上検出されてきた。今回、2017年度に分離された200菌株を対象にアクションプランに従って血清型ごとの薬剤耐性頻度の調査を行った。

材料と方法

【 材料 】

 当検査部では、2017年4月から2018年3月にかけて腸管系保菌者検索の検査を行った1企業の350,815検体からサルモネラ属菌279菌株を分離した。陽性率は0.0798%であった。このうち全体のO群の検出比率に応じて選別を行い、200菌株を調査に供した。
 調査にあたり、保存培地にて保管していた菌株200菌株をDHL寒天培地(栄研化学)に分離培養を行い、発育した平板上の定型的集落をTSI寒天培地(日水製薬)及びLIM培地(日水製薬)を用いてサルモネラ属菌の生化学的性状と運動性の確認を行った。
 また、同一人から複数回検出されたサルモネラ属菌の血清型と薬剤耐性パターンについて7名16菌株についても調査を行った。

【 方法 】

1)血清型別試験

 O抗原の型別試験は被検菌を普通寒天培地(栄研化学)に接種し、37℃、18時間培養後、サルモネラ免疫血清O群血清(デンカ生研)を用いてスライド凝集法にて行なった。
 H抗原の型別試験は被検菌をトリプトケ-スソイブロス(BBL)6mLに接種し、37℃、18時間静置培養後1%ホルマリン加生理食塩水を6mL等量加え抗原液とし、サルモネラ免疫血清H血清(デンカ生研)を用いて型別試験を行った。
 また、運動性の弱い試料は、クレイギ-管を入れた半流動培地を最大3回通過させ運動性を増強後、再度試験を実施した。相誘導は、濾紙法により最大3回行い血清反応を実施した。

2)薬剤感受性試験

 米国臨床検査標準委員会(Clinical and Laboratory Standards Institute :CLSI)の試験法に準拠し、『ドライプレ-ト‘栄研’(QJ1E)』(栄研化学)を用いた微量液体希釈培養法により薬剤感受性試験を行い、最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration :MIC)を測定した。
 対象薬剤は、国内の家畜衛生分野におけるモニタリング調査で採用されている薬剤、および内閣府食品安全委員会平成27年度食品安全確保総合調査で用いられた薬剤を参考にABPC(アンピシリン)、CEZ(セファゾリン)、CTX(セフォタキシム)、SM(ストレプトマイシン)、GM(ゲンタマイシン)、KM(カナマイシン)、TC(テトラサイクリン)、CP(クロラムフェニコール)、CL(コリスチン)、NA(ナリジクス酸)、CPFX(シプロフロキサシン)およびST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤)の12薬剤とした。
 普通寒天培地(栄研化学)に純培養した菌体を釣菌し、1mLの滅菌生理食塩水にMcFarland標準濁度液1と同じ濁度になるよう懸濁した。この菌液0.025mLを、陽イオン調整を行ったミュラ-ヒントンブイヨン(OXOID)12mLに加え均等に浮遊させ接種用菌液とした。接種用菌液0.1mLずつドライプレ-ト(栄研化学)の各ウェルに接種し35℃、18時間培養を行った。接種菌の発育が完全に阻止された最小濃度をもって薬剤のMICとして結果判定を行った。
 判定に用いるブレイクポイントについては表2に示すようにCLSIの試験法に準拠し設定した。ただし、CLのブレイクポイントはCLSIによると16μg/μLではあるものの、近年海外で調査が進むにつれ4μg/μLでも耐性遺伝子を持つことが確認されているため、今回は4μg/μLと設定した。
 また、薬剤感受性試験の精度管理として精度管理用菌株(Staphylococcus aureus ATCC29213、Enterococcus faecalis ATCC29212、Escherichia coli ATCC25922、及びPseudomonas aeruginosa ATCC27853)を用い、発育が精度管理限界値(MIC範囲)の規定範囲内であることを確認した。

結果

1)分離菌株の血清型

 試験に供した200菌株は表1に示すように50種類の血清型に型別された。このうち検出上位血清型の検出率はSchwarzengrund が40株(20.0%)と最も多く、Newport が14株(7.00%)、Thompson が12株(6.00%)、Saintpaul が11株(5.50%)、StanleyおよびBraenderupが8株(4.00%)、Manhattan が7株(3.50%)、O4:1相:i、2相(-)およびBareilly が6株(3.00%)、Mbandaka、Narashino、Carvallis、EnteritidisおよびCubanaが5株(2.50%)ずつ、Infantis、Anatum が4株(2.00%)ずつ、Typhimurium、Agona、Colindale、Montevideo、Winston、BlockleyおよびWeltevredenが3株(1.50%)ずつ検出された。

2)分離菌株の薬剤感受性

 薬剤ごとの耐性株数は、ABPC:12株(6.0%)、CEZ:2株(2.0%)、CTX:1株(0.5%)、SM:98株(49.0%)、KM:40株(20.0%)、TC:63株(31.5%)、CP:3株(1.5%)、CL:2株(1.0%)、NA:8株(4.0%)、およびST合剤:37株(18.5%)であった(表2)。GM、CPFXにおいては全株が感受性であった。血清型ごとの耐性パターンを表3に示す。

 試験に供した200株のうち107株(53.5%)が1薬剤以上の耐性、38株(33.5%)が2薬剤以上の耐性であった。その内訳としては6薬剤耐性がBlockley 1株、5薬剤耐性がSchwarzengrund 2株、Manhattan 2株およびO4:1相:i、2相(-)1株の計5株、4薬剤耐性がSchwarzengrund 23株、Blockley 1株、を含め28株などであった。また、検出上位血清型の耐性パターンは、Schwarzengrund 40株のうち39株(97.5%)が1薬剤以上の耐性が見られた。同様にNewport 14株のうち2株(14.3%)、Thompson 12株のうち5株(41.7%)、Saintpaul 11株のうち4株(36.4%)などであった。

同一人から複数回検出されたサルモネラ属菌の血清型と薬剤耐性パターンについての結果を表4に示す。7名のうちBareillyが2株、Colindale、Manhattan、Narashino、ThompsonおよびSchwarzengrundが1株ずつであった。7名のうちa、dおよびfはSMのみの耐性、cはSM、TCの2薬剤、gはSM、TC、KMおよびSTの4薬剤の多剤耐性株であった。初検査と再検査の血清型および薬剤耐性パターンはすべて同一であった。

考察

 今回の調査では、血清型別検出率上位ではSchwarzengrund が40株と最も多く、Newport が14株、Thompson が12株、Saintpaul が11株と続いた。当検査部の2002年度の調査においてはEnteritidis、Newport、 Infantisが上位を占めていた1)
 また、2016年度の国内患者から検出されたサルモネラ属菌は、Saintpaul、Thompson、Enteritidis、Schwarzengrundが上位となっている2)
 京都市による肉用鶏の調査では、検出されたサルモネラ属菌のうちSchwarzengrundが65.6%と高率に検出されている3)。今回、食品従事者から最も多く検出されたSchwarzengrundは鶏肉由来であることが推測される。

 薬剤感受性試験では200株のうち107株(53.5%)が1薬剤以上の耐性が見られ、41株(20.5%)が3薬剤から5薬剤の耐性が認められた。これは1980年で11.7%、1990年で27.7%という松下らの過去の成績と一致し、耐性菌の比率が著しく増加していることが指摘できる4)5

 CL(コリスチン)は人の医療分野では副作用が大きく使用されていなかったが、近年問題となってきているカルバペネム耐性腸内細菌科細菌に有効な抗菌薬の一つとされWHOでも極めて重要な抗菌薬であるとされている。コリスチン耐性遺伝子mcr -1は2015年に中国で初めて確認されその後世界中で確認されてきた。プラスミド上にあることから他の細菌に急速に伝達拡大する恐れがあったため、CLの家畜の飼料添加物として使用が禁止された(平成30年7月1日) 6。今回の検討においてCL耐性はSaintpaul 、Enteritidisそれぞれ1株ずつ認められたので、耐性遺伝子の確認を今後進めたい。

 同一人から複数回検出されたサルモネラ属菌の血清型別と薬剤耐性パターン結果は、初検査と再検査の血清型と薬剤耐性パターンがすべて同一であったことから同一のサルモネラ属菌を長期間保菌していたことが明らかになった。

まとめ

 今回、食品従事者から検出したサルモネラ属菌の血清型と薬剤耐性の興味深い成績を明らかにすることができた。本調査を毎年継続することによって、サルモネラ属菌の薬剤耐性頻度や年次推移を明らかにすることが可能であり、モニタリング事業として社会貢献に資することができる調査である。
 なお、本調査は公益事業の活動として実施した。


参考資料

  1. 山縣文夫ら:保菌者検索で検出されたSalmonellaの血清型,財団法人東京顕微鏡院平成15年度事業年報,1: 36(2002)
  2. 特定非営利活動法人食の安全を確保するための微生物検査協議会:ヒト由来サルモネラの主要検出血清型日本,食の安全と微生物検査,世界における食中毒情報,3:174 (2017)
  3. 京都市衛生環境研究所微生物部門,鶏肉から分離されたサルモネラの血清型および薬剤耐性について, 京都市衛生環境研究所年報,84:91-95(2018)
  4. 松下秀ら:東京において1980~1989年に分離された海外および国内由来サルモネラの血清型と薬剤耐性,感染症誌,66:327-339(1992)
  5. 松下秀ら:東京において最近5年間(1990~1994年)に分離された国内および輸入事例由来サルモネラの血清型と薬剤耐性,感染症誌,70:42-50(1996)
  6. 農林水産省動物医薬品検査所検査第二部安全性検査第一領域:薬剤耐性について(2017)
    http://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/koenshiryo/pdf/170518_Countermeasures_AMR.pdf
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