平成31年2月5日(火)、ホテルメトロポリタンエドモントにて「遠山椿吉記念 第6回 食と環境の科学賞 授賞式」が開催されました。
遠山椿吉賞は、当財団の創業者で初代院長である医学博士、遠山椿吉の公衆衛生向上と予防医療の分野における業績を記念し、その生誕150年、没後80年である平成20年度に創設した顕彰制度です。公衆衛生の領域において、ひとびとの危険を除き、命を守るために、先駆的かつグローバルな視点で優秀な業績をあげた個人または研究グループを表彰するものと位置づけています。
平成30年度は「食品の安全」「食品衛生」「食品の機能」「食品媒介の感染症・疾患」「生活環境衛生」を重点課題としました。
「遠山椿吉記念 第6回 食と環境の科学賞」は「環境における薬剤耐性菌・耐性遺伝子の公衆衛生学的研究」というテーマで鈴木聡氏(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター 教授)が受賞しました。
また、50歳未満の研究者を対象とした「遠山椿吉記念 第6回 食と環境の科学賞山田和江賞」は「食品からのエピジェネティック変異原性の検出:酵母凝集反応を指標とした新規毒性試験法の開発」というテーマで杉山圭一氏(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部 室長)が受賞しました。
授賞式ではまず当法人の髙橋利之副理事長が開式の辞を述べ、選考委員長の渡邉治雄氏(国際医療福祉大学大学院 教授、(国立感染症研究所 名誉所員〈前所長〉))による講評と受賞者の紹介および、各選考委員からの挨拶がありました。
山田匡通理事長は、まず遠山椿吉博士の業績と本賞ならびに山田和江賞の趣旨を述べ、受賞されたお二人に祝福の言葉を贈りました。
鈴木氏のご研究については、「耐性遺伝子が水環境に普遍的に分布することを示し、ワンヘルスの観点からリスク低減策の提言、予防衛生上の方向性を発信しており、国際的な獣医・公衆衛生分野への貢献が高く評価される」と述べ、深い敬意を示しました。
杉山氏のご研究については、「エピジェネティック変異原同定法のプロトタイプを世界に先駆けて開発し、アカネ色素アリザリンを被検物質に同毒性を検知したことは大変大きな業績であり、動物実験代替法や実用化が期待できる点は非常に評価される」と述べ、今後のご活躍に大いに期待を寄せました。
さらに遠山椿吉賞のテーマ(公衆衛生向上のための創造性、臨床現場での予防医療の実践、人材の育成)を紹介し、若い研究者からますます積極的な応募を期待するとともに、わが国の公衆衛生、予防医療に大きな貢献をしたいと本賞の発展を願いました。最後に、選考委員の先生方の厳正かつハイレベルな審査に心からの感謝を述べ、結びとしました。
山田理事長による祝辞の後、来賓として東邦大学医学部 教授の舘田一博氏と内閣府食品安全委員会 委員長代理の山本茂貴氏が祝辞を述べ、それに応えて鈴木氏、杉山氏からそれぞれ、受賞についての挨拶があり、授賞式は終了しました。
続いて行われた鈴木氏、杉山氏による受賞記念講演会には、100名を超す参列者が熱心に聴き入りました。
講演会終了後、会場を替えて行われた受賞記念レセプションでは、当法人「食と環境の科学センター」の宮田昌弘所長代理の挨拶に続き、当法人の安田和男理事による乾杯が行われました。参加者は大いに交流を深め、レセプションは盛況のうちに終了しました。
髙橋利之
当法人副理事長、公益事業担当理事、医療法人理事
遠山椿吉賞は開設以来、早いもので11年が経過いたしました。食と環境の科学賞と健康予防医療賞との隔年の開催でございますので、今回の食と環境の科学賞は第6回になります。おかげさまで、両賞ともに順調に推移をし、大勢の方々の応募もいただけるようになりました。これからもどうぞ、この遠山椿吉賞をよろしくお願いいたします。
渡邉治雄
国際医療福祉大学大学院 教授
(国立感染症研究所 名誉所員〈前所長〉)
「遠山椿吉記念 第6回 食と環境の科学賞」の選考経過について、お話しさせていただきます。選考委員会では、公平性を保つため、選考委員が応募者と利害関係者に当たる場合には評価から外れます。①公衆衛生への貢献度、②研究技術の独自性、③技術の普及およびその可能性、④社会へのインパクトという四つの選考基準から厳正に評価を行いました。
遠山椿吉賞には、愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授、鈴木聡先生(「水環境における薬剤耐性菌・耐性遺伝子の公衆衛生学的研究」)に決まりました。
まだ報告が少なかった1990年代から、ヒト病原体に存在するものと同じ薬剤耐性遺伝子テトラサイクリンやマクロライド耐性遺伝子などが日本のみならず熱帯アジア、アフリカなどの環境中、排水、河川水、沿岸海水等に存在することを、分子疫学的研究において明らかにされたことや、海洋細菌の99%以上を占める未培養菌が薬剤耐性遺伝子のプールおよび伝播の源として重要であることを報告し、水環境が巨大な薬剤耐性菌遺伝子リザーバであるということを示すという、極めて独創的な研究成果を挙げておられます。
現在は環境、動物、食品、人というワンヘルスの観点から薬剤耐性の問題を論じることの重要性が指摘されており、鈴木先生らはこの点において先駆的な仕事をされており、選考委員会として大きな評価をいたしました。
続いて山田和江賞は、国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部室長、杉山圭一先生(「食品からのエピジェネティック変異原性の検出:酵母凝集反応を指標とした新規毒性試験法の開発」)に贈呈されることになりました。
変異原性試験としてのAmes試験は微生物を用いておりますけれども、杉山先生は、真核微生物の酵母細胞を用いてエピジェネティック変異を検出することで変異原性を評価できることを世界に先駆けて発表いたしました。特にアカネ色素アリザリンの変異原性毒性をエピジェネティクス法で検知することを示し、動物実験代替法の一つとして実用化の道を開いておられます。今後のさらなる発展が期待されることから、山田和江賞を贈ることに決定いたしました。
鈴木先生、杉山先生の研究が今後さらなる発展を遂げますことを祈念いたしまして、ご挨拶とさせていただきます。どうもおめでとうございます。
舘田一博
東邦大学医学部微生物感染症学講座 教授
日本感染症学会 理事長
日本臨床微生物学会 理事長
2016年に国から薬剤耐性菌対策のナショナルアクションプランが出され、耐性菌の蔓延防止策が模索されています。日本感染症学会でも耐性菌の問題は非常に大きく取り上げられています。
WHOは環境、動物、食品、水などすべてを取り込んでコントロールをするワンヘルスという概念を提唱しました。今から30年程前のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などは、病院の中で感染を起こす、原因菌としての認識でしたが、現在は元気な子供やお年寄りが耐性菌により感染症を起こす市中感染型耐性菌が問題となっています。
その原因がまさに環境、食品、水における耐性菌問題なのですが、鈴木先生はWHOがワンヘルスを提唱する以前からその問題を研究され、それは素晴らしい着眼点であり、医療現場への応用も期待できる研究であると思います。
これからも若手の指導を含めた学会への貢献を期待します。受賞、おめでとうございます。
山本茂貴
内閣府食品安全委員会 委員長代理
食品安全委員会は、農林水産省や厚生労働省から諮問を受けて食の安全に関するリスク評価をする機関です。
化学物質のリスク評価において毒性評価は非常に重要であり、杉山先生はそこに新しい手法を示してくださいました。原核生物ではなく真核生物の酵母を使用した点や、遺伝毒性発がん性物質以外の発がん物質について、しっかりと発がん性の有無を検出できるのは、世界で初めての方法です。また、この試験法を応用してアカネ色素中のアリザリンの発がん性の有無が検出可能となるという点も、素晴らしい業績です。
今後、一般的な試験法として活用できるよう、さらに研究業績を積み上げていただくことを期待しております。誠におめでとうございます。
鈴木 聡
愛媛大学沿岸環境科学研究センター 教授
このたびは、このような栄えある遠山椿吉賞をいただきまして、大変うれしく思っております。
私はプラクティカルな、人の役に立つ研究を心掛けてまいりました。B型肝炎の薬を開発し、そこからラミブジンができ、患者さんのお役に立てたと自負しております。また、アコヤガイの大量斃死の要因となるウイルスを分離同定したことは、養殖形態の改善に役立っていると思います。2000年に今の愛媛大学沿岸環境科学研究センターに赴任した際、人の健康と環境の微生物をリンクさせて仕事をしようと考え、この薬剤耐性菌、環境の薬剤耐性菌の研究を始めました。いろいろな人たちと世界中を調査し、データベースができあがり、今回はそれを評価していただきました。
今後も、この研究をさらに加速し、人の役に立つ成果を出してまいりたいと思います。本日はありがとうございました。
杉山圭一
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部 室長
国民の健康・福祉において、食の安全というのは非常に重要な課題です。エピジェネティックなレギュレーションは、食の安全上不可避な、発がん性に関係する機序ですが、このエピジェネティックな変異原の検出系を開発できる可能性を世界に先駆けて示したということを最大の評価点としていただきました。また、プロトタイプの検出系構築と有用性の証明ができたことを誇りに思います。
今後も食品、環境中の化学物質の毒性評価ができるよう、当賞を励みに研究に精進してまいります。研究に携わったすべての方に感謝いたします。