令和2年2月4日(火)、ホテルメトロポリタンエドモントにて「遠山椿吉記念 第6回 健康予防医療賞 授賞式」が開催されました。
遠山椿吉賞は、当法人の創業者で初代院長である医学博士、遠山椿吉の公衆衛生向上と予防医療の分野における業績を記念し、その生誕150年、没後80年である平成20年度に創設した顕彰制度です。公衆衛生の領域において、ひとびとの危険を除き、命を守るために、先駆的かつグローバルな視点で優秀な業績をあげた個人または研究グループを表彰するものと位置づけています。
令和元年度は「健康予防医療賞」において、将来の予防医療のテーマに先見的に着手したものを重点課題としました。「遠山椿吉記念 第6回 健康予防医療賞」は、「本邦における子宮頸がん動向調査とHPVワクチン接種の効果の解析」というテーマで上田豊氏(大阪大学大学院医学系研究科 産科学婦人科学 講師)が受賞しました。
また、40歳以下(応募年の4月1日現在)の研究者を対象とした「遠山椿吉記念 第6回 健康予防医療賞 山田和江賞」は「保育園・幼稚園に通っていない子どもの社会・経済・健康面の特徴」というテーマで可知悠子氏(北里大学医学部公衆衛生学 講師)が受賞しました。
授賞式ではまず、当法人の髙橋利之副理事長が開式の辞を述べ、選考委員長の門脇孝氏(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科特任教授)による講評と受賞者の紹介および、選考委員からの挨拶がありました。
山田匡通理事長は、受賞者お二人を祝福し、遠山椿吉博士の業績と先見性に触れ、本賞の重要性が高まっていくことへの期待を寄せました。
上田氏の研究については、HPVワクチンの本邦における有効性を初めて明確に示され、子宮頸がん対策の重要な基礎資料となり、女性活躍社会の実現や少子化にもつながる極めて重要な研究であり、大変有意義であると述べ、深い敬意を示しました。
可知氏の研究については、全国データを用いて、日本の未就園の要因を明らかにした初めての研究であり、児童虐待防止対策、幼児教育・保育の無償化政策にも大きく貢献したことが高く評価されたものと述べ、今後の研究成果への期待を寄せました。
またこの賞を機会に上田先生、可知先生のますますの活躍が期待されるとともに、遠山椿吉博士の公衆衛生、予防医療で社会に貢献するという強い意識を受け継ぎ、本賞が発展していくことを祈念するとともに、門脇先生をはじめとする選考委員の先生方の厳正かつハイレベルな審査が非常に賞の価値を高めていることへの感謝の意を述べました。
山田理事長による祝辞の後、来賓として大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座環境医学教授の祖父江友孝氏と北里大学医学部教授の堤明純氏が祝辞を述べ、それに応えて上田氏、可知氏からそれぞれ、受賞についての挨拶があり、授賞式は終了しました。
続いて行われた上田氏、可知氏による受賞記念講演会には、100名に近い出席者が熱心に聴き入りました。
講演会終了後、会場を移して行われた受賞記念レセプションでは、医療法人の中村統括所長の挨拶に続き、医療法人の髙築勝義名誉所長による乾杯が行われました。参加者は大いに交流を深め、レセプションは盛会のうちに終了しました。
開式の辞
髙橋 利之(当法人副理事長、公益事業担当理事、医療法人理事)
選考委員長講評
門脇 孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科特任教授、帝京大学医学部病態栄養学講座常勤客員教授 )
授賞式来賓祝辞
祖父江 友孝(大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座環境医学 教授、日本疫学会 理事長)
堤 明純(北里大学医学部公衆衛生学 教授)
受賞者あいさつ
遠山椿吉記念 第6回 健康予防医療賞 受賞
上田 豊(大阪大学大学院医学系研究科 産科学婦人科学 講師)
遠山椿吉記念 第6回 健康予防医療賞 山田和江賞 受賞
可知 悠子(北里大学医学部公衆衛生学 講師)
髙橋 利之
当法人副理事長、公益事業担当理事、医療法人理事
本日は遠山椿吉記念第6回 健康予防医療賞授賞式に大勢の皆さまにご出席いただきまして、心から御礼を申し上げます。
遠山椿吉賞と山田和江賞は過去最多の応募の中から、門脇先生を委員長とする選考委員の先生方が慎重にご検討された結果の授賞でございます。受賞された上田先生と可知先生に心からお祝いを申し上げます。
応募者が過去最多となりましたのも、選考委員長をはじめとした委員の皆様、関係者の皆様のおかげでございます。誠にありがとうございます。
門脇 孝
東京大学 大学院 医学系研究科 糖尿病・代謝内科 特任教授
帝京大学 医学部 病態栄養学講座 常勤客員教授
遠山椿吉記念 第6回 健康予防医療賞の選考経過について、お話しさせていただきます。本年度は、将来の予防医療というテーマに先見的に着手したものを重点課題といたしました。37件という過去最多の応募があり、これまでに劣らず、本年度も優れた研究課題が多かったというのが選考委員一同の強い印象でございました。
評価方法としては、①公衆衛生への貢献度、②公衆衛生向上を図る創造性、③予防医療の実践、④これからの人材育成という四つの観点から多角的に評価し、選考を行いました。
まず若手の研究者を奨励する山田和江賞は、満場一致で北里大学医学部公衆衛生学講師の可知悠子先生が選出されました。研究課題は「保育園・幼稚園に通っていない子どもの社会・経済・健康面の特徴」であります。全国データを用いて、日本の未就園の要因を明らかにした初めての研究であり、児童虐待防止対策、幼児教育・保育の無償化政策にも貢献したことが大きく評価されました。また学術論文も、質・量とも大変優れており、このため、山田和江賞に誠にふさわしい研究者として選出させていただきました。
続いて遠山椿吉賞は、慎重に審議した結果、満場一致で大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学講師の上田豊先生が選出されました。研究課題は「本邦における子宮頸がん動向調査とHPVワクチン接種の効果の解析」です。上田先生は、本邦における子宮頸がんの動向を初めて実証的に明確に示し、若年女性がさらされている子宮頸がんの問題点を明らかにされました。さらに社会問題化しているHPVワクチンの本邦における有効性を初めて明確に示され、このような議論に対する科学的な基盤となるデータを提供されました。
これらは今後の本邦における子宮頸がん対策の重要な基礎資料となり、国民の疾病予防による健康や生命の維持を通して、女性活躍社会の実現や少子化対策にもつながる極めて重要なものとして、選考委員会は満場一致で上田先生が授賞に最もふさわしい研究者であるとの結論に至りました。
以上、遠山椿吉賞、山田和江賞の選考の経過をご紹介いたしました。賞の価値はどのような方が受賞されるのか、そのことによって大きく増していくと一般的に言われています。本年度も素晴らしい研究者を選ぶことができ、遠山椿吉賞ならびに山田和江賞の価値がますます高くなったということに、選考委員、また選考委員長として、非常に大きな喜びを感じています。このたび受賞されたお2人の先生にあらためてお祝いを申し上げ、選考委員長の経過説明といたします。
祖父江 友孝
大阪大学 大学院 医学系研究科 社会医学講座 環境医学 教授
私は長らく国立がんセンターにおりまして、7年前に大阪に帰ってから大学で研究班をすることになり、そこで上田先生にHPVワクチンの有効性の部分を担当していただきました。研究に関して私が関与できたのは半年間程度でしたが、上田先生が、全国の市町村を相手にフィールドを拡大するというアクティビティを精力的に行われて、今ようやくデータが集まりつつあります。
上田先生は、臨床の先生にありがちな病院の枠というものが全くない先生です。臨床の先生がその壁を乗り越えて、市町村の方々と交渉し、データを提供いただくのは非常に苦労が多いと思いますが、そこを全く躊躇しない、公衆衛生マインドを強く持った先生だと思います。
現在、HPVワクチンに関して、日本は必ずしもいい状態にはない時にこうした賞をいただけるのは、今の状況を何とか打破していく後押しになると思います。1日も早くグローバルな状態に戻せるよう、ますます活躍を期待しております。本日はおめでとうございます。
堤 明純
北里大学 医学部 公衆衛生学 教授
可知先生の専門は、社会心理・経済、それから格差などを扱う、社会医学という分野で、その中でも子供の健康影響を扱っています。特に親の経済的な状況と子供の健康の関係にメスを当て、広く研究をしています。
彼女の着眼はユニークで、研究のデザインも精緻です。今回の研究は日本疫学会でも論文になっているほか、産業衛生学会では非正規労働者の健康問題について提言をし、公衆衛生学会でも政策提言をしています。
わが国は格差が少ない国、平等な国と言われていましたが、だんだん格差の問題が大きくなっております。それが経済だけでなく健康にも影響している中で、これからの世代を背負う子供の健康問題を扱うことは、今回の山田和江賞の趣旨に沿ったものであり、非常に喜んでいます。若い研究者を育てるという意味で、本人も大変励みになったと思います。
健やかに子供たちが過ごしていく、育っていく、そうした社会を作るために、頑張って研究をしていただきたいと私からも願っています。本当におめでとうございます。
上田 豊
大阪大学 大学院 医学系研究科 産科学 婦人科学 講師
本日は栄えある遠山椿吉賞を授与いただきまして、誠にありがとうございます。
HPVワクチンについては、多くの方に理解をいただきたい、どうすれば理解いただけるのか、何とか科学的なデータを出したいと、いつもその点に留意してまいりました。その点を今回評価いただいたことは大変ありがたく思っております。ご指導いただきました先生方、ご協力くださった皆さまに本当に感謝を申し上げたいと思います。
HPVワクチンは、まだ全くの道半ばどころか、スタートラインに戻った気すらしております。この賞を励みに頑張ってまいりたいと思いますので、引き続き、どうぞご指導いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。本日は誠にありがとうございます。
可知 悠子
北里大学 医学部 公衆衛生学 講師
私が大学の教員になってから10年目の節目になり、正直まだまだだなと思っているところに、この賞をいただきとても励みになります。今回の研究は、息子の育児がヒントになっています。育児と仕事の両立は容易ではありませんが、育児から学べること、得られるヒントはとても大きいものと感じています。
2016年1月末に息子を出産し、産後2カ月で保育園の「保活」をし、4月から入園することができました。すぐに職場復帰したのは、「バリキャリ」だからではなく、0歳の頃から準備をしないと入園できないからです。入園できたものの、家からは遠く、2カ月で疲弊してしまい、保育の問題に関心を持ちました。
3歳以降の保育園・幼稚園の利用は無償化されましたが、一部の子供が取り残されている状況を改善したいと、今回この研究を行いました。受賞させていただき、本当にありがとうございました。