平成29年2月7日(火)、ホテルメトロポリタンエドモントにて「遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞 授賞式」が開催されました。
この賞は、当法人の創業者で初代院長である医学博士、遠山椿吉の公衆衛生向上と予防医療の分野における業績を記念し、その生誕150年、没後80年である 平成20年に創設した顕彰制度です。公衆衛生と予防医療の領域において、ひとびとの危険を除き、命を守るために、先駆的かつグローバルな視点で優秀な業績をあげた 個人または研究グループを表彰するものと位置づけています。
平成28年度は「食と環境の科学賞」において、食品の安全、食品衛生、食品の機能、食品媒介の感染症・疾患、生活環境衛生を重点課題としました。
「遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞」は「オーダーメイドで飲用水の安全性を評価できる技術の開発と実践」というテーマで加藤昌志氏(名古屋大学大学院 医学系研究科 環境労働衛生学 教授)が受賞されました。
また、50歳未満の研究者を対象とした「遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞 山田和江賞」には、「福島第一原子力発電所事故による食品・環境からの放射線被ばくのリスク評価」を研究テーマとした原田浩二氏(京都大学大学院 医学研究科 環境衛生学分野 准教授)が選ばれました。
続いて行われた加藤氏、原田氏による受賞記念講演会には、およそ100名の参列者が熱心に聴き入りました。
記念講演会終了後、会場を変えて行われた受賞記念レセプションでは、当法人食と環境の科学センター 安田和男所長の挨拶で乾杯が行われました。参加者は大いに交流を深め、レセプションは盛況のうちに終了しました。
開会の辞
高橋利之(当財団 副理事長、公益事業担当理事、当医療法人 理事)
選考委員長講評より
渡邉治雄(国際医療福祉大学大学院 教授、国立感染症研究所 名誉所員(前所長)
授賞式来賓祝辞より (登壇順)
小泉昭夫(日本衛生学会 理事長)
佐藤 洋(内閣府食品安全委員会 委員長)
受賞者あいさつより
遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞 受賞
加藤昌志(名古屋大学大学院 医学系研究科 環境労働衛生学 教授)
遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞 山田和江賞 受賞
原田浩二(京都大学大学院 医学研究科 環境衛生学分野 准教授)
高橋 利之
当財団副理事長、公益事業担当理事、当医療法人理事
開式にあたりまして、一言ご挨拶と、式辞を述べさせていただきます。本日は大変お忙しい中、「遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞」の授賞式にお集まりいただきまして、本当にありがとうございます。
早いもので、「遠山椿吉記念 食と環境の科学賞」としては第5回目を迎え、「遠山椿吉記念 健康予防医療賞」と通期にいたしますと、丁度9年目になります。そこで、もう一つ、遠山椿吉賞に応募する若い研究者を奨励する賞をということで、長い間、理事長ならびに名誉理事長職を務めて参りました山田和江の賞を設け、遠山椿吉賞授賞式で2つの賞を授与するということにさせていただきました。
今回は加藤昌志先生と原田浩二先生と、お2人の方が受賞されまして、本当におめでとうございました。心からお喜びを申し上げます。
ここに至るまでには大変長い間、渡辺選考委員長をはじめ選考委員の先生方にはお力添え賜り、本当にお世話になりました。また、それを支える関係者の方々のご尽力によって、今日を迎えることができましたことに、心から厚く御礼を申し上げたいと思います。誠にありがとうございました。では、ただ今より式典を開催させていただきます。
渡邉治雄
国際医療福祉大学大学院 教授(国立感染症研究所 名誉所員(前所長)
「遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞」の選考について、お話させていただきます。「食と環境の科学賞」の対象は、食品の安全、食品衛生、食品の機能、食品媒介の感染症・疾患、および生活環境衛生に関する研究業績であります。今回もたくさんの応募をいただきました。まずは、応募いただきました先生方に御礼申し上げます。
選考委員会に置きましては、4つの観点から、つまり、(1)公衆衛生への貢献度、(2)研究・技術の独自性、(3)技術の普及の可能性、(4)社会へのインパクト、において厳正に評価を行いました。その結果、「遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞」は、名古屋大学大学院医学系研究科 環境労働衛生学 教授 加藤昌志先生の「オーダーメイドで飲料水の安全性を評価できる技術の開発と実践」に決定いたしました。また、50歳未満の研究者を対象とした 「遠山椿吉記念 山田和江賞」は、京都大学大学院医学研究科 環境衛生学分野 准教授 原田浩二先生に決定しました。
加藤先生は、開発途上国において井戸水を飲料水として利用する価値が高まっている現代において、その安全性の問題に長年取り組まれてきております。
アジア、アフリカなどで使用している飲用の井戸水には、バリウム、マンガン、鉄などの有害元素が含まれており、健康被害が発生しているといわれてきております。加藤先生らは、有害元素の種類別に汚染状況と健康リスクを評価する技術を開発し、アジア各地でフィールドワーク調査を設定し公衆衛生学的研究を展開してこられました。
特に、バングラデシュのがん多発地域の飲用井戸水には、ヒ素、バリウム、鉄などの濃度が異常に高いことを見出し、これらへの複合曝露が発がん毒性に相乗的に作用することを明らかにされました。また、特記すべきことは、現場で得た知見をラボにおいて実験的に証明する科学的技法を採られていることです。がん多発地域における慢性ヒ素中毒患者の尿中のPlacental Growth Factor (PIGF)濃度が高いことを見出し、それががんのprogressionに関与する事、および発がん予測マーカーになる可能性を提案しています。
さらに、ヒ素、鉄、バリウムなど複数の元素を吸着できる浄化剤の開発を行い、それが安価で現地生産も可能であることを示されました。この浄化剤は、世界各地の井戸水の安全性の向上に役立つものであり、公衆衛生の向上に貢献するものであります。
加藤先生らの実績は、アジア地域での健康被害の実態を調査する公衆衛生学的研究成果ばかりでなく、その結果をラボで科学的に実証し、かつその原因を除去する方法を開発するという、一貫性に富んだかつ多面的成果に基づき、人びとの健康・医療に貢献するものであり、まさに遠山椿吉賞の趣旨に合致するものであります。
山田和江賞を受賞されました、原田先生らは2011年東日本大震災後の福島第一原子力発電所の事故により発生した放射性ヨウ素、セシウムなどの多量の放射性核種の地域住民への健康に及ぼす影響を調査しました。
調査方法としては、一日の食事全体で摂取する放射性セシウムの測定、大気粉塵の吸入による被ばく、汚染土壌からの外部被ばく等から被ばく全体の評価を行いました。
それらの実態に基づく解析結果から、年間総被ばく量の長期予測を行い、年間平均被ばく量は、平常時の自然放射線や医療被曝以外の被ばく限度である年間1ミリシーベルトを超えることはほとんどないと予測しました。
本調査は、被災地域の復興支援でもあり、地域住民の長期被ばくレベルの予測も行い、将来の見通しを示した点でも行政的にも重要な研究であると評価いたしました。
遠山椿吉記念第5回食と環境の科学賞の受賞者の受賞業績を紹介させていただきました。加藤先生、原田先生の研究が、この受賞を契機に今後ますます発展されますことを祈念してお祝いの言葉とさせていただきます。
おめでとうございました。
小泉 昭夫
日本衛生学会 理事長
京都大学の小泉昭夫と申します。僭越ながら、日本衛生学会理事長として、日本衛生学会を代表して両先生には、ご祝辞申し上げるとともに、一般財団法人東京顕微鏡院様ならびに医療法人社団こころとからだの元氣プラザ様に御礼を申し上げさせていただきます。
まず、遠山椿吉記念第5回食と環境の科学賞を受賞されました、加藤昌志先生、同じく山田和江賞を受賞されました原田浩二先生、まことにおめでとうございます。御二人の先生ともども日本衛生学会の逸材で、加藤先生は2005年度に、また原田先生は2007年度に日本衛生学会奨励賞を受賞されておられます。また、加藤先生は理事として、原田先生は事務局長として衛生学会に貢献されておられます。内輪話ながら、原田先生が、山田和江賞を受賞されましたが、その裏には、財団の山田理事長の温かいご支援がありました。2011年に私が遠山椿吉賞特別賞をいただいた折に、「何か困ったことはないか」と聞いていただき、「福島の調査をしたいが資金がなく困っている」と申し上げたところ、支援を快諾していただき、ここに原田先生の研究が始まったわけでございます。非常に感謝しております。
話は変わりますが、日本衛生学会と遠山椿吉先生の関係は実は深いものがあります。日本衛生学会の源流は、明治35年の日本連合医学会に始まります。この連合部会の明治39年、明治43年の大会におきまして、遠山先生は、委員をされております。この意味で、遠山先生は、北里柴三郎先生とともども我々の日本衛生学会の礎を築かれた先達といえるともいます。また、遠山先生と京都大学の我々の関係は、さらに、深いものがあります。遠山先生は若手育成に取り組まれましたが、特に野口英世先生の例は有名です。野口先生は、後に、京都大学で医学博士の学位を受けられます。また日本衛生学会の理事長を長く務められた京都大学の故藤原元典名誉教授は、脚気の研究からアリナミンを発見されましたが、これも遠山先生が開発されました「うりひん」に通じるものがあります。
最後に、サイエンス以外の件でご支援を賜りたく一言申し述べさせていただきます。現在日本衛生学会では、社会医学専門医制度の樹立に参加し、我が国における予防医学、環境医学の専門性を高めるため努力しております。将来的には医師のみならず幅広く公衆衛生実務に関わる専門職制度を考えております。医療法人社団こころとからだの元氣プラザの事業内容はまさに公衆衛生実務そのものであり、是非に日本衛生学会にご加入頂き我が国における専門性の向上にご指導とご尽力を賜りたくお願い申しあげます。
簡単ではございますが、ご祝辞と御礼およびお願いの御挨拶とさせていただきます。
佐藤 洋
内閣府食品安全委員会 委員長
本日の栄えある「遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞」授賞式に当たり、一言祝辞を申し上げます。
まずは、「食と環境の科学賞」を受賞された名古屋大学の加藤昌志先生、並びに「山田和江賞」を受賞された京都大学の原田浩二先生のお二方に対しまして、心からお祝い申し上げます。おめでとうございます。
私が特に嬉しく思っておりますのは、先ほど、小泉理事長からの祝辞にもありましたが、受賞者お二方とも日本衛生学会の会員であるということです。日本衛生学会は、衛生・公衆衛生関連の学協会のなかでも最も歴史の古いものの一つであり、環境と健康の関連を明らかにし予防に役立てる科学を推進しています。私も大学院生の頃から今日まで会員であり、理事長をさせていただいたこともありました。その当時、日本衛生学会の将来を考えると若手の活躍が重要であるとの認識で、若手研究者活性化の手立てをとることとしました。その中心メンバーのお一人が原田先生であることを考えると、この度の受賞はより感慨深いものがあります。
皆さまご承知のように、食品安全委員会の主な役割は食品中に含まれるハザードのリスク評価であります。数年前には食品中のヒ素の評価を行いました。この際、アジアの疫学データも参考にしたのですが、我が国の推定ばく露量は、アジアのヒ素中毒が問題になっている地域のデータなどから求めた無毒性量等と比べて、大きく離れているわけではなかったと記憶しています。にもかかわらず、我が国においてはヒ素による健康被害が見られていないのはなぜか、気になっているところでした。今回、加藤先生が受賞された業績の一つであるヒ素以外の元素との複合ばく露の発がん性における相乗作用は、謎解きのひとつの糸口になるものかもしれないと思っている次第です。
原田先生は、福島第一原子力発電所事故後地道にばく露調査を続けて、現状において安全性が担保されていることを示したことは、大変重要なことと思います。私どもも、食品中の放射線物質についてリスク評価を行いましたが、その内容を消費者の皆様に正確に伝えることに、苦労しているところです。原田先生は、これまで同様今後も、被災地域の皆様方に安心してくださいと伝えることになるのでしょうが、そこでおそらく苦労なさることと思います。しかし、研究の成果をしっかり伝えないことには、社会医学としての意義が薄れてしまいますので、ぜひとも努力をしていただきたいと思います。
今回受賞されたお二人の先生の業績は、遠山博士が追求された公衆衛生向上と予防医療推進という目標に合致するものであり、広く学術の向上に寄与するものと確信しております。お二人の研究のさらなるご発展を祈念いたしますとともに、本顕彰事業を主催されました東京顕微鏡院、こころとからだの元氣プラザの山田理事長、渡邉選考委員長始め関係各位のご尽力に敬意を表しまして、私のお祝いの言葉とさせていただきます。
加藤 昌志
名古屋大学大学院 医学系研究科 環境労働衛生学 教授
「遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞」を付与いただきまして誠にありがとうございました。大変光栄なことと存じ、山田理事長をはじめとする理事の先生方、選考委員の先生方、事務局の皆様方等、関係者各位に厚く御礼申し上げます。
本研究は、到底私1人でできるものではございません。名古屋大学医学系研究科の環境労働衛生学教室の皆様をはじめとして、国内外の多くの共同研究者の皆様に、この場をお借りして、あらためて厚く御礼申し上げます。
私は飲用水に焦点を当てて研究を進めております。日本では、遠山椿吉先生の御尽力・御功績のおかげで、飲用水がヒトの健康に影響を与えるということは、ほとんどありません。しかし、開発途上国では、少し事情が異なります。WHOの健康ガイドライン値を超えるヒ素を含んだ水を飲用せざるを得ないヒトが億単位で存在すると試算した報告もあり、飲用水はヒトの健康に影響を与える大問題となっております。実際に、バングラデシュでは、飲用井戸水のヒ素汚染が原因で、多くの慢性ヒ素中毒患者や癌患者が発生していると考えられています。我々は、慢性ヒ素中毒患者の中に癌を発症しやすいヒト(ハイリスク群)と、発症しにくいヒトがいることに着目し、ハイリスク群を特定できる可能性のあるバイオマーカーの候補を探索しました。さらに、発癌毒性が高いにもかかわらず、従来の方法では除去に苦慮した3価ヒ素を吸着できる安価な浄化材を開発しました。しかし、現時点では、開発に成功したのみで、普及には至っておりません。ですから、今回の「食と環境の科学賞」の付与は、「まだまだ道半ばの研究ではあるが、少しは見込みがあるかもしれないので、これからも頑張ってください」という激励の意味だと、私なりに解釈しております。
普及に向けた作業は、行政や企業関係者を含めた国内外の多種多様の分野からのご協力が不可欠となってまいります。これからも国内外の各分野の専門家の皆様から御指導いただけることを、とても楽しみにしておりますので、もし興味を持たれた方がいらっしゃれば、忌憚なく、ご意見をいただくことができれば幸いです。私自身も本賞を励みとし、微力ではありますが、精進し続ける覚悟でおりますので、今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
原田 浩二
京都大学大学院 医学研究科 環境衛生学分野 准教授
このたびは、「遠山椿吉記念 第5回 食と環境の科学賞 山田和江賞」を授与いただき誠に光栄に存じます。理事長、選考委員会、関係者の皆さまに感謝の念に堪えません。
今回受賞させていただきました研究は、東日本大地震にともなう東京電力福島第一原子力発電所事故における地域住民の放射線被ばくの調査であります。2011年の当時、私は化学物質による環境汚染、リスク評価の研究を行っていました。来賓としてご列席されている日本衛生学会理事長の小泉昭夫先生が、この問題に取り組むことが衛生学の社会的使命の一つである、と調査プロジェクトを立ち上げられ、私も関わってまいりました。申し上げるまでもなく、これは沢山の共同研究者、地域の方々と仕事をさせていただいたものであります。そのようななか、「山田和江賞」をいただけたことは若手研究者にとって励みとなり、とてもありがたく存じます。
2011年7月にチームで福島県に入って、試料のサンプリングを行い、大学に帰って試料処理、測定を行ったとき、平均として、思っていたよりずっと放射性物質濃度が低いことに驚きました。原発事故といえばチェルノブイリ事故での経験をもとに語られることが多かったわけですが、福島の状況を定量的なデータにして、多くの人に伝えていくことができたと考えております。それらはWHO報告書、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)報告書にも引用されております。検査、測定はややもすればルーチンワークとみなされることがありますが、正しく数字にし、信頼性を確保すること、また継続的なモニタリングの中から異常を突き止めることは、地道な日々の積み重ねの上にあります。このような仕事を顕彰する「遠山椿吉賞」の理念に敬意を表します。
震災から6年になろうとしているところでありますが、福島の被災自治体はまだ復興途上であり、放射線被ばくのみならず、数々の課題を抱えております。この賞を励みに、今後も研鑽を重ね、微力ながらも被災地に寄り添う調査、研究を続けていきたいと考えております。
最後に、いつもご指導ご鞭撻いただいております先生方、支えていただいております同僚、家族に心より感謝を申し上げ、私のお礼の挨拶とさせていただきます。誠にありがとうございました。
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