平成27年2月17日(火)、ホテルメトロポリタンエドモントにて「遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞 授賞式」が開催されました。
この賞は、当法人の創業者で初代院長である医学博士、遠山椿吉の公衆衛生向上と予防医療の分野における業績を記念し、その生誕150年、没後80年である 平成20年度に創設した顕彰制度です。公衆衛生と予防医療の領域において、ひとびとの危険を除き、命を守るために、先駆的かつグローバルな視点で優秀な業績をあげた 個人または研究グループを表彰するものと位置づけています。
平成26年度は「食と環境の科学賞」において、食品の安全、感染症、生活環境衛生を重点課題としました。
「遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞」は「環境疫学手法によるPM2.5等の大気汚染物質の健康影響の評価に関する研究」というテーマで新田裕史氏(独立行政法人国立環境研究所環境健康研究センター センター長)が受賞されました。
また、「遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞 奨励賞」として「real-time on-siteモニタリングによる生活環境における衛生微生物学的安全の確保」を研究テーマとした山口進康氏(大阪大学 大学院薬学研究科 衛生・微生物学分野 准教授)が選ばれました。
授賞式ではまず、当法人の高橋利之副理事長・公益事業担当理事が開式の辞を述べ、選考委員長の柳沢 幸雄氏(東京大学名誉教授)による選考の経緯および講評、受賞者の紹介がありました。
山田匡通理事長は、まず、学識経験豊富な一流の選考委員の先生方が、厳正な審査に携わっていただいていることに感謝を述べ、選考委員長ならびに選考委員各位をご紹介し、心からの敬意を表しました。
続 いて、新田氏のご研究について、「大気汚染というグローバルに拡大しつつある公衆衛生の課題について、長年にわたる環境疫学のご研究業績は、国際的に高い 評価を得たと同時に、わが国の大気汚染防止対策の立案や環境基準設定などに大きく貢献された」と述べ、深い敬意と祝辞を述べました。
山口氏のご研究については、「微生物のモニタリングに、非常に新しい手法を開発された」と、感銘の意を表し、15の非常に優秀な応募業績のなかから選ばれ た価値にふれ、一般に知ることの少ない、公衆衛生向上にまい進される研究者のご貢献に、光をあてることができる喜びを語り、創業者、遠山椿吉博士に感謝を 捧げました。「われわれとしても、今後とも貢献できるよう努力を積み重ねていきたい」と述べ、「新田先生、山口先生、ご臨席の皆様のますますのご活躍・ご 健康を心より祈念申し上げましてお祝いの言葉とさせていただきます」と、結びました。
来賓として横浜国立大学大学院教授で一般社団法人室内環境学会理事長の中井里史氏、国立感染症研究所主任研究官の倉文明氏が祝辞を述べ、それに応えて新田氏、山口氏からそれぞれ、受賞についての挨拶があり、授賞式は終了しました。
続いて行われた新田氏、山口氏による受賞記念講演会には、100名近い参列者が熱心に聴き入りました。
記念講演会終了後、会場を変えて行われた受賞記念レセプションでは、塩見幸博 当法人統括所長が挨拶し、当法人の安田和男理事の発声で乾杯が行われました。参加者は大いに交流を深め、レセプションは盛況のうちに終了しました。
開会の辞
高橋利之(当財団 副理事長、公益事業担当理事、当医療法人 理事)
選考委員長講評より
柳沢幸雄(東京大学 名誉教授)
授賞式来賓祝辞より (登壇順)
中井里史(横浜国立大学大学院 教授、一般社団法人室内環境学会 理事長)
倉 文明(国立感染症研究所 主任研究官)
受賞者あいさつより
遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞 受賞
新田裕史(独立行政法人国立環境研究所 環境健康研究センター センター長)
遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞 奨励賞 受賞
山口進康(大阪大学大学院 薬学研究科 衛生・微生物学分野 准教授)
高橋 利之
当財団副理事長、公益事業担当理事、当医療法人理事
開式にあたりまして、一言ご挨拶と、式辞を述べさせていただきます。本日は大変お忙しい中、「遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞」の授賞式にお集まりいただきまして、本当にありがとうございます。この遠山椿吉賞はご存じの方もおられると思いますが、今から7年ほど前に、遠山椿吉博士の公衆衛生と予防医療の領域における偉業をたたえ、博士の生誕150年没後80年を記念して創設させていただきました。
東京顕微鏡院は、もともと検査部門と医療部門と2つございまして、10年前に医療部門が分かれて2つの法人になっておりますが、現在も両法人一体経営で事業運営を行っております。そのため、この遠山賞も隔年で、それぞれの法人の事業テーマである「健康予防医療」「食と環境の科学」に焦点を当てて、公衆衛生と予防医療の向上に優れた成果を挙げた研究者の方を選考顕彰させていただいております。今回は食と環境の科学賞の第4回目ということでございます。
今回は新田裕史先生と山口進康先生と、お2人の方が受賞されまして、本当におめでとうございました。心からお喜びを申し上げます。
ここに至るまでには大変長い間、柳沢選考委員長をはじめ選考委員の先生方にはお力添え賜り、本当にお世話になりました。また、それを支える関係者の方々のご尽力によって、今日を迎えることができましたことに、心から厚く御礼を申し上げたいと思います。誠にありがとうございました。では、ただ今より式典を開催させていただきます。
柳沢 幸雄
選考委員長、東京大学名誉教授
第4回の選考委員長を申しつかりました柳沢です。選考の過程および講評を申し上げます。昨年の2月から募集活動を始め、主催者のホームページをはじめ学会、大学および研究機関、媒体に広く告知するとともに全国の大学の関連学部学科300カ所にも応募書類一式を送って、この賞の存在を広く告知したわけです。
6月末の締め切りまでに15件(前回は8件)が集まりました。今年度の重点課題である食の安全と、それから生活環境にほぼ半々の応募者があり、そして若い研究者も増え、質量ともに充実した応募状況だったと評価することができます。
非常に多くの応募資料をお送りいただきました。
選考プロセスは、書類の審査、選考委員会という2つのステップで実施いたしました。審査に際しては、選考委員がまず、本賞の趣旨である遠山椿吉先生の業績、今年の重点課題を確認し、7月から8月に、選考委員長を含めて7名の選考委員全員が、個別に、お送りいただいた書類の審査を行いました。
そしてそれぞれの応募者に対して、5つの項目について評価をいたしました。どういう評価項目かといいますと、審査の軸としてまず第1番目は公衆衛生への貢献度。2番目が研究技術の独自性。3番目が技術の普及の可能性。4番目が社会へのインパクト。そして総合評価になります5番目として、この応募が推薦したいテーマであるかどうか。その総合評価の点を5段階でつけることといたしました。
全員の審査票を集計した資料は事務局によってまとめられて、あらかじめ各委員に送付されました。そして、9月に選考委員会を開催したわけです。9月の選考委員会では、7名の選考委員全員で討議を行いました。まず第1段階として、お送りいただいた15件の応募の中で高い評点を得た4件を、その選考委員会での審査の対象とするという合意が選考委員の間で得られましたので、その4件について慎重に審議をいたしました。
続いてその候補者について、遠山賞の目的という観点で受賞に適合するか、あるいは否定的な見解があるかを、各委員からご意見をいただきました。その結果、非常に素晴らしい業績であると認めたわけです。そこで、最後にあらためて本賞の趣旨を確認して、その4件について1件1件非常に細かな議論を行い、最終結論は選考委員7名の投票によって決めました。
その結果、新田裕史先生を遠山椿吉賞に推薦し、また山口進康先生を奨励賞に推薦することにいたしました。新田先生は、もう皆さん既にご存じのように、環境疫学に一貫して取り組んでこられた研究者です。PM2.5および黄砂等の越境大気汚染による健康影響に関する疫学研究を、複数の研究機関の研究者と実施して、その中心的な役割を担ってこられました。PM2.5はアメリカにも基準がありますが、統計的手法でデータをまとめ上げ、わが国の環境基準を出されたことは、国際的にも高く評価されております。大気汚染の測定とそのモデル構築等を通して、健康被害への影響を推測し、行政施策に結び付けてきたところは、非常に大きな貢献だったということができます。
山口進康先生は生菌を迅速にその場(リアルタイム、オンサイト)で検出できる蛍光活性染色法を開発されました。新たな衛生微生物管理法、微生物モニタリングとして、水環境分野、医薬品や食品製造分野、また宇宙ステーションにおける展開も視野に入れた、極めて可能性の大きな研究であるということができます。この技術を発展させて、公衆衛生へのさらなる貢献につながることを強く期待しております。ちなみに、奨励賞を受賞した研究課題が本賞の対象から外れることはありませんので、実施例が積み重なり、素晴らしい成果として本賞につながることを強く期待しております。
選考委員長として選考の過程を振り返りますと、この遠山椿吉賞の意義を非常に強く感じます。公衆衛生や予防医療は個人個人の先見的な発想力や、社会的使命に基づく地道な研究を必要としますけれども、基礎医学などとは異なり研究者個人に光が当たることが非常に少ない分野であることは否めません。この遠山椿吉賞が今後とも多くの優れた研究者の業績に光を当て、その偉業を公にたたえることで次世代を担う後進の育成につながれば、誠に幸いであると思います。お2人に、あらためて選考委員会を代表いたしまして心からお祝いを申し上げて、私の講評といたします。どうもありがとうございました。おめでとうございます。
中井 里史
横浜国立大学大学院 教授、一般社団法人室内環境学会 理事長
まずは新田先生、山口先生、遠山椿吉記念第4回食と環境の科学賞受賞おめでとうございます。私自身は新田先生の大学の後輩で、しかも先生は私が大学院の時に一番お世話になった方であり、さらに受賞対象の研究の、半分くらい絡んでいるはずですので、祝辞を言うイコール自分をほめるような形になってしまうと困っておりました。しかし、ご指名ですので、少し研究の意義についてお話しさせていただくことで、祝辞に代えさせていただければと思います。
おそらく公衆衛生とは、釈迦に説法のような形になろうかと思いますが、いろんな科学的知見・研究を集めて、それを生活環境、どちらかというと人々の暮らしの中で、それぞれの方々がより良い環境あるいは生活をどんどん向上させていくような研究領域が多いのではないかと思います。
ただ、環境、特に今回授賞対象となった、大気の研究については少し違う側面もあって、環境基準の設定や、公害健康被害補償法に関する、どちらかというと行政的な対応にも充分関わっていかなければいけません。もちろん食の安全についても同じようなところがあろうかと思いますが、かなりほかの領域とは違うアプローチをしなくてはいけないわけです。
そのためには、単純に医学あるいは公衆衛生だけの中ではなくて、もう少し違う分野、工学の方、理学の方などなど、あるいは環境基準等々の話になりますと行政の方なども含めた形で、いろんな対応を取っていかなければいけない研究領域と考えられると思います。
新田先生は、PM2.5の環境基準、そして、そらプロジェクトという中で、その両方に、全体に関わる形での統括をしていただいた、ということが非常に大きなポイントになっているかと思います。
このようなことはなかなか大変な作業で、全然分野の違う人の集まりですので、まず言葉が通じない、考え方が違うというところをまとめていただいたことが、われわれとしては非常に助けになった、ありがたかったと存じます。ただ、残念ながら新田先生がここで受賞してしまわれたので、われわれはどうしたらいいのだろうと若干思わないでもありません。しかし後輩として、これからも精進していきたいと考えております。本日はおめでとうございます。
倉 文明
国立感染症研究所 主任研究官
山口進康先生、遠山椿吉記念第4回食と環境の科学賞奨励賞受賞おめでとうございます。「朋有り遠方より来たる。亦た楽しからずや。」と、論語の学而第一にあります。論語を見ると、最初に出てくる言葉ですね。環境細菌の研究を志す者がこのような機会や学会に集まりまして、健闘をたたえ議論できることは素晴らしいことと思います。
私は東京にある国立感染症研究所で呼吸器系細菌感染症であるレジオネラ症や、その起因菌の研究を担当してきました。生活に身近な環境、循環式浴槽や冷却塔、修景水の普及により、水を介した呼吸器感染症が増えてまいりました。その中のレジオネラ症の起因菌について研究しているということで、いろんな機会に山口先生、あるいは先生の指導されている大学院生の皆さんと、学会等で会ってまいりました。
山口先生と初めてご一緒したのは、2009年3月に名古屋で開催された第82回日本細菌学会総会のワークショップ「環境改変と感染症」でした。その後2012年9月にも、豊橋で開催された第28回日本微生物生態学会のシンポジウム「環境改変と微生物生態系」でもご一緒しました。
ご存じのように、レジオネラ属菌は培養では増殖が遅いので、迅速検査が求められています。現場で菌がどの程度いるのかすぐ分かれば、衛生管理上非常に有益です。われわれはレジオネラ属菌に特異的な遺伝子迅速検査法のほかに、ATP測定、フローサイトメトリーで従属栄養細菌の菌量を測定して、レジオネラ汚染率を予測して、環境水の衛生管理をする方法を提唱しています。
そのような環境微生物の迅速検査の分野で、山口先生は先駆的な方法を開発され、多くの論文を発表され、マイクロ流路デバイスを用いたオンサイト・モニタリングを提唱されています。現在は蛍光抗体を用いた検出ですけども、今後レジオネラ菌の検出をさらに改善され、良い装置をご提供していただきたいと思います。
山口先生の今後のますますの研究のご発展を祈念いたします。本当におめでとうございます。
新田 裕史
独立行政法人国立環境研究所 環境健康研究センター センター長
このたびは第4回食と環境の科学賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。この賞はわが国における衛生学の先達の1人であります遠山椿吉先生の業績を記念したものであり、衛生学から派生したとも言える環境疫学の研究者として、この上ない喜びでいっぱいです。選考委員の先生方ならびに東京顕微鏡院の関係の皆さまに、心より御礼を申し上げます。
すべての仕事において、同僚や仕事相手なしには何事も成し遂げることができないと同様に、研究においても職場の先輩、同僚等の支援、多くの共同研究者の協力がなければ、研究成果を得てそれを世に発信することはできないわけです。学術の世界でも、スポーツの世界でも、このような晴れがましい場で、受賞者は仲間や家族に対する感謝を述べるということが通例でございますけれども、環境疫学の場合にはまさしくすべてが共同作業、チームとしての研究であります。私の業績とされましたすべてが共同作業のたまものであります。共同作業に関わった多くの研究者を代表して、この賞をいただいたものと考えております。
私は大学院時代からほぼ一貫して、大気汚染の健康影響に関する疫学研究に従事してまいりました。ただ、私の研究業績には、誰も気が付かないような大気汚染物質の健康影響を発見したというような、はなばなしいものは全くないといってもいいかもしれません。一般的に健康影響が疑われているような大気汚染物質につきまして、現実の人々を対象としてその影響の程度、具体的な内容を明らかにしたというものです。自分自身では、有意義な面白い研究分野であると思っておりますが、ある意味非常に地味な研究分野でございます。このような環境疫学の分野に注目していただいたことにつきまして、重ねて感謝を申し上げ、私の受賞が環境疫学を目指す若い研究者の励みになれば、これ以上の喜びはございません。本日は誠にありがとうございました。
山口 進康
大阪大学 大学院 薬学研究科 衛生・微生物学分野 准教授
このたびは遠山椿吉記念第4回食と環境の科学賞奨励賞を授与いただき、誠にありがとうございます。選考委員の先生方、また関係いただきました皆さまに、心より感謝いたします。
私は現在、環境微生物分野で、見えない微生物を可視化する、バイオイメージングの研究に携わっております。私が実際にミクロの世界に出会ったのは、小学生の頃です。両親に簡単な顕微鏡を買ってもらい、水槽の中の水草を観察したとき、目に見えない世界があることを知りました。それ以来、顕微鏡観察にのめり込み、ミクロの世界を知る喜びを実感いたしました。
大学では微生物を研究対象とする現在の研究室に分属し、大学生・大学院生時代を通じて、顕微鏡を用いる研究に携わってきました。当時はまだ珍しかった蛍光顕微鏡で、蛍光染色した細菌を眺めてみると、真っ暗な中に細菌がきらきらと光る粒子として見え、宇宙を眺めているようで、とても感動したことを覚えております。宇宙と同じような光景が、ミクロの世界にもあり、ミクロの顕微鏡の世界とマクロの宇宙のつながりを感じました。
私は子供の頃より星空を眺めることも非常に好きで、夜空を見ては宇宙の広さを実感しており、宇宙に関係する仕事に就きたいと考えておりました。蛍光顕微鏡との出会いから、環境微生物学分野に進みましたが、縁あって現在、国際宇宙ステーションの微生物モニタリングに関する研究に従事しております。
ですので、私は自分の経験から、学生には常々「夢を持つことを大事に」と伝えており、「夢を持ち続けていれば、いつかかなえるチャンスが来る」という話をしております。近頃の学生はゆとり世代、さとり世代ともいわれ、一心不乱に研究を進めるというより、周りを見ながら協調して物事を進めることを好む学生もおります。しかし、個人個人と話をしますと、非常に熱い夢を語ってくれる学生もおり、彼らの夢がかなうように役立ちたいという思いで接しています。
今回の業績につきましては、私個人の力では決してありません。御指導いただきました先生方、先輩、一緒に研究を進めてくれた後輩、すべての方々のご協力の賜物と実感し、あらためて感謝しております。
また、今回の受賞にあたり、両親が非常に喜んでくれました。小さい頃から私に色々なことを学ぶ環境を与えてくれた両親に、今回の受賞で少し恩返しができたかと、ありがたく思っております。今回は栄誉ある賞をいただき、本当にありがとうございました。
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