遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞 授賞式

平成23年2月8日(火)、ホテルメトロポリタンエドモントにて「遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞 授賞式」が開催されました。

この賞は、当財団の創業者で初代院長である医学博士、遠山椿吉の公衆衛生向上と予防医療の分野における業績を記念し、その生誕150年、没後80年 である平成20年度に創設した新しい顕彰制度です。公衆衛生の領域において、ひとびとの危険を除き、命を守るために、先駆的かつグローバルな視点で優秀な 業績をあげた個人または研究グループを表彰するものと位置づけています。遠山椿吉賞は「遠山椿吉記念 食と環境の科学賞」、「遠山椿吉記念 健康予防医療 賞」の2部門あり、隔年で選考顕彰いたします。平成22年度は「食と環境の科学賞」において食品衛生と生活環境衛生、感染症対策を重点課題としました。

「遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞」は『魚介類アレルゲンの同定と分子生物学的性状の解明ならびに検査法開発に関する研究』というテーマで塩見 一雄氏(東京海洋大学 教授)が受賞しました。

また、選考委員会の推薦により設けられた「特別賞」は『食と環境の難分解性環境汚染物質の長期モニタリング』というテーマで小泉 昭夫氏(京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野 教授)が受賞しました。

『遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞』を
塩見 一雄氏に授与。右は当財団・医療法人の
山田匡通理事長。
『遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞 特別賞』
を小泉昭夫氏に授与

授賞式ではまず、当財団の山田洋輔公益事業担当理事・当医療法人副理事長が開式の辞を述べ、選考委員長の柳沢 幸雄氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授)による講評と受賞者の紹介がありました。

続いて、当財団および医療法人の山田匡通理事長から塩見氏に「遠山椿吉記念 第1回 食と環境の科学賞」、小泉氏に「特別賞」が授与されました。

山田匡通理事長は、塩見先生のご研究について、「学問的な深さと、臨床現場に対する貢献、その両方を達成されていることは、まさに遠山椿吉賞に値す る素晴らしい研究」と述べ、小泉昭夫先生のご研究については、「わが国の環境施策に多大な貢献をし、地域環境汚染源対策に実績を挙げられた」と述べまし た。「東京顕微鏡院が創業されて、今年120周年を迎えます。お2人のご貢献は、120周年というこの記念すべき年の遠山椿吉賞に誠にふさわしいと、深く 感銘を受けた次第です。お2人の先生方のますますのご活躍、ここにおられる皆さまのご健勝を祈念いたしまして、私のごあいさつとさせていただきます。」と 結びました。

祝辞を述べる山田匡通理事長

山田理事長による祝辞の後、さらに来賓として社団法人日本水産学会会長、国立大学法人東京海洋大学理事・副学長の竹内 俊郎氏が祝辞を述べ、それに応えて塩見氏と小泉氏からそれぞれ、受賞についての挨拶があり、授賞式は終了しました。

続いて行われた塩見氏、小泉氏による受賞記念講演会には、100名を超す参列者が熱心に聴き入りました。

塩見氏による記念講演
小泉氏の記念講演
迫力ある記念講演に熱心に聞き入る皆さん
高橋副理事長の発声による乾杯

小泉氏の記念講演会終了後、会場を変えて行われた受賞記念レセプションでは、選考委員の挨拶に続き、高橋利之当財団副理事長の発声で乾杯が行われました。参加者は大いに交流を深め、レセプションは盛況のうちに終了しました。

レセプション会場にて

授賞式祝辞、受賞者あいさつ

開式の辞より

山田 洋輔

当財団公益事業担当理事、医療法人副理事長

当財団および医療法人の基本理念は、「すべての人びとのいのちと環境のために尽くす」ということです。東京顕微鏡院は、明治の細菌学者、遠山椿吉博 士が120年前に創業し、35年かけてその基盤を築き、財団として後世に託したわけですが、戦後に再建された当財団がこれまで実践してきた保健衛生の事業 は、すべての人びとに分け隔てなく、健康ないのちと、これを保てる生活環境を作り上げる、ということを究極の目標としてきました。

今年度の遠山椿吉賞(遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞)は、生活環境衛生と食品の安全を重点課題とし、幅広い分野からの応募を呼びかけました。

選考の過程を申し上げますと、昨年1月より募集告知を始め、6月末日には15件の応募が集まりました。そのひとつひとつが、たいへんレベルの高い、優れたものでした。
選考プロセスは、一次・二次・選考委員会という3つのステップで執り進めました。まず一次審査で10名に絞り込んだ後、二次選考では、各委員に5つの軸で 五段階評価をつけていただきました。そして選考委員会では、充分に討議を重ね、塩見一雄先生に本賞、小泉昭夫先生を「特別賞」の受賞者に推薦することと結 論し、両法人の経営会議においてお二方の受賞が決定しました。

百年以上前、創業者・遠山椿吉が伝染病の脅威に立ち向かった時代から、公衆衛生の分野では、科学を駆使して研究室で日々新たな課題にチャレンジしつ つ、その成果を人びとの幸せと暮らしに生かすために普及啓発をはかることが肝要といわれてきました。この賞の狙うところ、その意義についてご理解いただけ れば誠に幸いでございます。

本日はお忙しい中、遠山椿吉賞授賞式にご参列いただきましたことに、改めて御礼申し上げると共に、今回のお二人の受賞が、日本の公衆衛生のますますの発展につながることを、心から祈念申し上げ、開式の辞と致します。

選考委員長 講評より

柳沢 幸雄

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授

塩見一雄先生のご研究は、魚介類の安心・安全の確保を目指して、魚介類のもつ危害成分に関する研究に長年取り組んでこられた成果ですが、中でもわが 国の魚介類消費量の多さから魚介類アレルギー研究に先見の明を持って着手された革新性、アレルギー予防とアレルギー患者のQOL向上に多大な貢献をされた 社会性・公益性に着目しました。

また、塩見先生は研究成果を数多くの原著論文として公表し、食品系・医学系雑誌における総説、書籍、各種講演会などを通して魚介類アレルギーの正し い知識の普及に努めておられます。また、人材育成にカを注がれ、その教えを受けた皆さんが、わが国の大学、公的検査機関、民間企業における魚介類アレル ギー研究を牽引しています。

遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞の重点課題には、「食品の安全に関する調査研究やこれらの分析法の開発など」、と例示されております。塩見 先生のご研究は、甲殻類特異的アレルゲンの発見、その検出法の開発、およびアレルゲンの除去法の開発など包括的であり,食の安全を守り危害を未然に防ぐ点 で社会的貢献が高く、このたびの受賞に最もふさわしい研究テーマであると結論いたしました。

遠山椿吉賞は、一名を顕彰することになっておりますが、今回ご応募いただいた中に、見過ごしにできないご立派な研究成果がありました。小泉昭夫先生のご業績です。
小泉昭夫先生のご研究は、多くの食料を海外に依存しているわが国の実情に鑑み、環境で分解を受けない有機フッ素化合物やDDTやメラミンなど難分解汚染物 質について、食事および血液や母乳など生体試料バンクを構築して系統的、継続的にモニタリングを行い汚染の進行を証明してこられました。

小泉先生のご研究は、難分解環境汚染物質の汚染の実態を明らかにし、我が国のみならず、アジア各国での経年変化とともに国際間比較も行い、社会へ警 鐘を鳴らしてきた点で、社会的貢献度が極めて高いという評価に一致しました。そこで選考委員会では、長年にわたる地道な研究によって、公衆衛生の向上に貢 献されてきたことに深く敬意を表し、特別賞に推薦した次第でございます。

魚介類アレルゲンに関する研究をされてきた塩見一雄先生、また、特別賞として、難分解環境汚染物質のモニタリングを長期に亘って行ってこられた小泉昭夫先生の受賞に、こころより、お祝い申し上げます。

選考委員長として、選考の過程を振り返りますと、この遠山椿吉賞の意義を強く感じます。公衆衛生や予防医療は、個人個人の先見的な発想力や社会的使 命に基づく地道な研究を必要としますが、基礎医学などとは異なり、研究者個人に光があたることの少ない分野であることは否めません。この遠山椿吉賞が、今 後とも多くの優れた研究者の業績に光をあて、その偉業を公に称えることで、次世代を担う後進の育成にもつながれば誠に幸いであると思います。

お二人にあらためて審査員を代表して心からお祝いを申し上げまして、私の講評を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。

授賞式来賓祝辞より

竹内 俊郎

社団法人 日本水産学会 会長
国立大学法人東京海洋大学理事・副学長

財団法人東京顕微鏡院におかれましては、このたび、「遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞」の授賞式を迎えられたことに対し、心からお喜びを申し上げます。

本賞は平成20年に健康予防医学賞とともに創設され、以来隔年で開催され、今回は「食と環境の科学賞」として第2回目に当たると伺っております。

今回の「食と環境の科学賞」における受賞者として、東京海洋大学の塩見一雄先生が、同特別賞として、京都大学の小泉昭夫先生が、それぞれ受賞されたことは誠に喜ばしく、慶賀の至りであります。心からお祝いを申し上げます。

それでは、ここでお二人のご研究内容についてご紹介いたします。

塩見一雄先生は、東京海洋大学に奉職以来、イソギンチャクやオニヒトデなど海産動物のペプチド毒を含むタンパク毒に関する研究や魚介類に含まれるヒ素やカドミウムといった有害元素の代謝に関する研究を行ってまいりました。

今回の受賞テーマであります、「魚介類アレルゲンの同定と分子生物学的性状の解明ならびに検査法開発に関する研究」については、厚生労働省が 1996から1999年度に実施した「食物アレルギーに関する調査」よりも前から、魚介類のアレルギーに関する研究に着手しており、塩見先生はこの分野の 研究における中心的な役割を担っております。

特に、アレルギー症例が多いことが分かっているエビやカニなどの甲殻類のアレルゲンに関する検査法の開発は、厚生労働省通知法指定の甲殻類検査法と して採用されており、公衆衛生分野における貢献度が極めて高いといえます。また、魚肉の練り製品化によるアレルゲンの除去、甲殻類や貝類のエキスにおける アレルゲンの低減化は食物アレルギー予防とアレルギー患者のQOL向上に多大な貢献があります。

塩見先生は、研究成果を英文・和文による原著論文として数多く公表するだけでなく、高校生や一般にも分かりやすく解説した単行本から専門書まで幅広く執筆し、魚介類アレルゲンに関する知識の啓蒙に努められております。
以上の点において今回の授賞は、公衆衛生、特に食品の安全分野における塩見先生の多大なる貢献に対して誠に時節を得たものと言えます。

次に、小泉昭夫先生は、東北大学への助手奉職以来、秋田大学、その後京都大学において、血液、食事、母乳を用いて難分解性環境汚染物質の継続モニタ リングを実施して参りました。特に、1980年代から一貫して、日本、中国、韓国、ベトナムにおける血液などの生体試料を用いて、アジア各国間における経 年変化と国際間の比較を行っております。

今回の受賞対象となりました、「食と環境の難分解性環境汚染物質の長期モニタリング」は、血液などの経年変化を追跡することにより、急激な体内への 暴露の増加がみられるものをモニタリングによりいち早く察知し、汚染源の特定を行いました。そして、健康への影響を未然に防止するための予防原則に基づい た、行政への諸施策の策定となる基礎データを整えることを目的とした内容で、極めて国際的であり、今日的、かつ重要なテーマといえます。

これらの成果として、大阪府の環境行政を通じて地域環境汚染源対策を行い、実績をあげていることは特筆に値します。また、小泉先生は、本研究を遂行 する一貫として、環境汚染物質のリスク評価に向けた人体試料バンクの創出を図り、別途日立環境財団から環境賞優秀賞を受賞するなど、その功績は極めて高い といえます。

このように、今回受賞されたお二人のご研究は、遠山椿吉博士の生き方や精神を受け継ぐものであり、「食と環境の科学賞」受賞に大変ふさわしい内容と いえます。お二人の先生に対して、改めて敬意を表しますとともに、今後のさらなるご研究の発展をお祈りし、お祝いの言葉といたします。

受賞者あいさつより

遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞 受賞

塩見 一雄

東京海洋大学 教授

このたびは遠山椿吉先生の業績を記念した大変に名誉ある賞をいただき、感激いたしております。ご推薦いただいた日本水産学会、ご選考にあたられまし た諸先生、さらにこのような賞を設けておられます「東京顕微鏡院」と「こころとからだの元気プラザ」の両法人には、心からお礼申し上げます。

今回の受賞対象は魚介類のアレルゲンに関する研究ですが、われわれが研究をスタートした1990年代前半には、魚介類は食物アレルギーの原因食品と して重要視されていませんでした。そのため、魚介類のアレルゲンに関する研究はもっぱら欧米で行われ、わが国では皆無に近い状況でした。魚介類の消費量が 多いのでわが国でも近いうちに魚介類アレルギーは問題になることは間違いない、魚介類アレルギー問題への対応は医療現場だけでなくアレルゲンに関する基礎 研究が必須である、魚介類アレルゲン研究は水産分野が担っていく責務がある、という思いで研究をスタートした次第です。

スタート間もない1990年代後半に食物アレルギーに関する全国規模のアンケート調査が実施され、食物アレルギーの原因食品として魚介類の重要性がクローズアップされたことはわれわれの研究の追い風になりました。

こうして少しずつ研究成果が蓄積され、魚介類アレルギーをアレルゲンの面からある程度理解できるようになった、アレルギー表示制度の充実にも多少な りとも貢献できたと思っています。これもひとえに、多くの皆様の多大なるご支援、ご協力の賜物と感謝申し上げます。そして何よりも、現場で日夜こつこつと 実験に励んできたのは研究室に在籍していた大勢の学生さんです。彼らの汗と涙に対して格別の敬意と謝意を表するとともに、受賞の喜びを分かち合いたいと思 います。

私はこれまで、食品衛生あるいは公衆衛生の観点から、魚介類の自然毒、魚介類のヒ素化合物、魚介類のアレルゲンを3本柱として研究を行ってまいりま した。今回の受賞対象はアレルゲンに関する研究ですが、自然毒、ヒ素化合物に関する研究も含めて総合的に評価されたものと考えております。その意味でも、 今後とも引き続き3本柱で研究を推進し、魚介類による健康危害の防止に向けて微力を尽くして参りたいと申し述べて、受賞の挨拶の結びとさせていただきま す。

遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞 特別賞 受賞

小泉 昭

夫京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野 教授

我が国の食料自給率はカロリーベースで40%程度であり、多くの食料を海外に依存しています。食の安全を確保するために、我が国では多くの施策が国際的協調の中で挿入されていますが、規制外の物質や諸外国での不正な使用が行われてきました。

特に環境で分解を受けない有機フッ素化合物や、使用が禁止されているDDTなどのPOPs(Persistent organic compounds)や メラミンなどは捕捉できない可能性があります。そこで、適切なリスク管理には、主な生産国および我が国でランダムサンプリングによる食事および血液や母乳 など生体試料からの曝露評価の情報も活用することが安全確保には必要となります。また将来予測のためには、大規模な地球規模での動態のコンピュターによる モデルが必要となります。

我々の主な研究成果は、生体試料バンクを継続し発展させて、1)難分解性有機フッ素化合物、臭素化物の汚染の検出と汚染源の解明、2)アジアでの環 境および生体試料のモニタリング、3)地球規模のコンピュターによるモデルによって環境試料およびヒトにおける生体試料中濃度の予測を行ったことです。

われわれの研究は、地道な研究であります。このような研究に光を当てていただいた選考委員の先生方に感謝いたしております。今回の特別賞の受賞は、地道な環境研究者達に、希望を与え、新たに 研究の意義を再認識して、若い研究者が育つものと思っております。

今回の受賞は本日同席しております原田浩二准教授、新添多聞研究員をはじめとする我々の教室員一同ともに行ってきたものであります。研究仲間とこの喜びを分かち合いたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻をお願いいたしまして、私の挨拶とさせていただきます。

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