2022.07.15
2022年7月15日
一般財団法人東京顕微鏡院
学術顧問 伊藤 武
毒キノコや有毒物質を含むスイセンなどの山菜や野草を食べて、食中毒を起こすことがあります。これを植物性自然毒食中毒と呼びます。また、有毒フグや有毒になった貝などの動物による食中毒を動物性自然毒食中毒と呼んでいます。
食中毒統計が整備された1952年(昭和27年)頃では、微生物による食中毒は「サルモネラ属菌」と「ぶどう球菌」が知られるにとどまり、年間130件程度ありました。それに対して自然毒による食中毒が多発し、年間209件、うち64件が植物性自然毒食中毒として届けられ、死亡例が13件ありました。動物性自然毒食中毒は145件あり、56名が死亡していました。
自然毒による食中毒が多発していることから、国や地域の保健所などから自然毒に対する食中毒防止が積極的に啓発されて、減少してはきましたが、1967年(昭和42年)頃までは年間100件以上の自然毒による食中毒が届けられていました。
しかし現在でも自然毒食中毒は多数報告され、その殆どが家庭で調理された料理で発生していることから、今回は家庭での発生が多い植物性自然毒による食中毒の現況と具体的な対策について述べます。
近隣の山や野原を散策し、自然に親しむことが多くなり、食べられる植物と思ってキノコや山菜・野草を採取する機会も多くなってきました。有毒な食物を天ぷら、味噌汁、和え物、お浸し、混ぜご飯などの料理により喫食することで食中毒を起こしてしまいます。有毒植物によっては油で炒めると毒素が溶出することもあり、汁を飲んだことで食中毒を起こすこともあります。
発生状況:2012年の報告では70件中58件が家庭による植物性自然毒食中毒です。2013年では42件、2014年でも39件が家庭の料理で起きています。最近ではやや減少してきましたが、相変わらず家庭での発生が続いています(図1)。
自然界には有毒な食物が200種ぐらいあるといわれています。原因となった植物は表1に示すように、採取したキノコを食べられると誤解して家庭で料理した例が多いです。
2012年から2021年の10年間で家庭での自然毒食中毒425件のうち、260件が毒キノコです。キノコの種類は多くが判明していませんが、ツキヨタケ、テングタケ、クサウラベニタケが多いです。ツキヨタケはヒラタケ、ムキタケ、シイタケなどと間違えています。
山菜・野草ではスイセンをニラやノビルと間違えることが多く、52件と多発しています。その他にバイケイソウ(18件)、イヌサフラン(16件)クワズイモ(13件)、チョウセンアサガオ(10件)などとなっています(表2、表3)。
10年間の有毒植物食中毒で19名の死亡が報告されています。キノコが3例、有毒山菜が16例(イヌサフラン11例、トリカブト3例、スイセン1例、グロリオサ1例)です。
潜伏時間や症状は、毒キノコの種類や有毒食物の種類により含まれる毒性物質が異なることから様々です。 潜伏時間は一般には短く、食べてすぐから30分から3時間以内で発病します。なかにはドクササコのように早くて6時間から遅くて1週間の後に発症することもあります。
ツキヨタケ、クサウラベニタケ、テングタケ、カキシメジによる症状は主に嘔気、嘔吐、下痢などの消化器症状の他に幻覚痙攣、 唾液分泌、脈拍数の減少など様々です。
スイセンによる症状は悪心、嘔吐、下痢、流延、発汗、頭痛、昏睡などです。バイケイソウによる症状は嘔吐、下痢、手足のしびれ、めまいなど、トリカブトによる症状は嘔吐、めまい、口や手などのしびれ、不整脈、血圧低下など、重症化することもあります。
(参考資料)