2021.07.15
財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
環境衛生検査部 部長 瀬戸 博
厚生労働省はシックハウス対策として、ホルムアルデヒドやトルエンなど13の化学物質について、室内空気中濃度の指針値を定めています。また、「学校環境衛生の基準」や「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(通称:ビル衛生管理法)で規定する室内空気質についても化学物質の濃度が規制されました。これに伴い、建築基準法の改正や建材の化学物質放散量規制も行われるようになりました。
その結果、ホルムアルデヒドとトルエンの指針値を超える新築住宅は劇的に減少しています(図1)。
図1:新築住宅の超過割合と平均濃度の推移
(国土交通省のデータから)
シックハウス症状を訴える方も以前より少なくなっていますが、時々マスコミをにぎわすことがあります。対策が進んでいるはずなのにどうしてでしょうか?この疑問にすべてお答えできるわけではありませんが、参考までに、平成19年に北海道の小学校で起きた事例を中心に最近のシックハウスの特徴を調べてみました。
この事例は、平成18年11月に竣工した北海道紋別市の小学校で生徒と教職員にシックハウス症状とみられる体調不良が生じ、新校舎使用開始後1ヶ月余りで代替校舎に移らざるを得なかったものです。本件については、北海道立衛生研究所が調査にあたり、原因物質の推定と発生源の特定を行いました。その後、低減化対策とフォローアップにより、安全が見込まれるとして、平成20年4月の新学期から新校舎を再開するに至っています。
本事例の特徴として以下の点があげられます。
竣工後と生徒が避難したあと、室内空気中の化学物質を測定しましたが、基準を超える物質はありませんでした。また、厚生労働省の指針値が設定されている農薬、可塑剤についても調査しましたが、いずれも指針値以下でした。
約100種類にのぼる化学物質を調べたところ、水性塗料溶剤に使われていた 1-メチル-2-ピロリドンとテキサノールという聞きなれない物質が厚生労働省の総揮発性有機化合物(TVOC)暫定目標値を上回る濃度で検出されました。
特徴1と2から最近は、基準や指針値が設定された物質を避け、別の物質を使う傾向があると考えられます。
本事例では、生徒や教職員らの体調不良の原因物質を特定したわけではありませんが、室内空気を汚染していた主な物質を割り出し、それが使用されていた建材を明らかにすることで、その後の対策が可能になった好事例と言えます。
「食と環境の科学センター」では、厚生労働省による室内空気濃度の指針値が設定されている13物質以外に総揮発性有機化合物(TVOC)の検査のご要望にもお応えしています。