食品添加物 各論①保存料

2017.09.07

2017年9月7日更新
一般財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品理化学検査部 食品添加物・容器包装チーム 科長 松野 伸広

はじめに

巷はそろそろ食欲の秋。美味しい食材も増える季節ですが、皆様はどのような食材に思いを馳せていらっしゃるのでしょうか。また旬の食材を用いた様々な加工食品も出回ることでしょう。
これら加工食品は食品原材料に種々の手を加えて、人の嗜好に合うようにしたり、一定の品質が保持されるようにした製品です。そのような味覚や品質を得るために食品添加物が利用されることがあります。
そこで今回は食品添加物の各論①保存料というテーマで、その役割や種類、また先人たちの知恵等についても少しご紹介しましょう。

食品の保存と保存料

今更言うまでもありませんが食品は傷みます。食品が傷む原因は熱、湿度、空気(酸素)、光、熱、金属、酵素などの影響による劣化と微生物による腐敗の二つに大きく分けられます。そのうち後者、つまり微生物による食品の腐敗を抑制する食品添加物が保存料です。
現代社会に暮らす我々は、食品の保存のためにこの添加物を様々な場面で利用しています。しかし保存料を持たず、また冷蔵・冷凍保存という手段も持たなかった昔の人たちはどのような工夫をして食品を腐敗から守ったのでしょうか。
先人たちは食品の腐敗に対抗するために長きに渡る経験から次のような方法を編み出しました。

  1. 食品を乾燥させる:
    食品から水分を奪うことで微生物の増殖を抑える。
  2. 食塩、砂糖、酢を使用する:
    塩化ナトリウムや砂糖による浸透圧の作用や食品の水分活性の低下により微生物の増殖を抑える。また酢でpHを下げることで微生物の増殖を抑える。
  3. 食品を醗酵させる:
    発酵によって生じた乳酸、プロピオン酸等の有機酸が抗菌作用を有する。
  4. 食品を煙で燻す:
    燻煙中に存在するフェノールや有機酸が殺菌作用や抗菌作用を有する。
  5. 植物の成分を利用する:
    植物由来の香辛料成分や安息香酸が抗菌作用を有する。

この例の②~⑤に登場する化学物質の中には現在保存料やその他の添加物として利用されているものもあります。わが国で使用できる添加物は厚生労働大臣が指定したもの(指定添加物)もしくは昔から使われ続けているもの(既存添加物)などがあります。国際的に安全性が評価され使用されているもの、消費者に有用なもの、更に分析法が確立していることが指定添加物としての条件です。既存添加物についても安全性に問題のあるものは添加物として使用を禁ずる措置が取られています。
添加物の安全性関連情報は厚生労働省のウェブサイトでも紹介されています。

現在許可されている保存料

現在我が国で使用できる保存料を表に示します。

表.わが国で保存料として指定されている保存料

保存料名称 主な対象食品 主な特徴
安息香酸
安息香酸ナトリウム
キャビア、果実ペースト、マーガリン、清涼飲料、シロップ、醤油など 各種の細菌類、カビ類、酵母類に抗菌作用を示す。その作用は酸性域では強いが高いpH域では弱まる。
ソルビン酸
ソルビン酸カリウム
ソルビン酸カルシウム
チーズ、魚肉練り製品、食肉製品、いかくん製品、あん類、果実ペーストなど 抗菌作用は強力ではないが細菌類、カビ類、酵母類に対して一様に広い抗菌作用を示す。作用は酸性域で顕著だが中性付近のpH域では効果が期待できない。
デヒドロ酢酸ナトリウム チーズ、バター、マーガリン 乳酸菌など一部の細菌には効果がないが、他の細菌類、カビ類、酵母類に抗菌作用を示す。酸性~中性付近のpH域で効力を有する。
ナイシン 食肉製品、チーズ、ソース類、ドレッシングなど グラム陽性菌に対して効力を有する。
パラオキシ安息香酸
(イソブチル、イソプロピル、エチル、ブチル、プロピル)
醤油、果実ソース、酢、清涼飲料水、シロップ、果実又は果菜 カビ類、酵母類、一部の細菌類に対して抗菌作用を示す。その作用はpHによってあまり変化しない。イソブチル・イソプロピル・ブチルの混合物は水に対する溶解度が高くなるため使用されることが多い。たん白質により作用が阻害される。
プロピオン酸
プロピオン酸カルシウム
プロピオン酸ナトリウム
チーズ、パン、洋菓子 カビ類、細菌類に抗菌作用を示すが、乳酸菌や酵母に対する作用が弱い。その性質からパンや洋菓子に使用される。

注 : この他に既存添加物としての保存料に「カワラヨモギ抽出物」及び「しらこたん白抽出物」等があります。

もちろん全ての食品に保存料が必要という訳ではありません。十分に殺菌したのち瓶め、缶詰、レトルトパック等の容器に適切に納められた食品は微生物が増殖しないため保存料は不要です。また冷凍食品も同様です。ただし一度開封すると微生物に汚染される恐れがあるので、その後の保管には十分に注意することが必要となります。更に、保存料が用いられている食品についても、食品の包装等に表示されている保存
方法をよく読み、適切に保管することが大切です。いずれにせよ早めに消費することが一番です。

食品流通との関わり

現代は食品の購入や喫食に対して、いつでもどこでも消費者の要望に応えるために、国内外を問わず広域での食品流通が求められています。
そのため、コールドチェーンによる低温管理が進んでいますが、科学的にも安全性が確認され、食品腐敗のメカニズムに対する効果が明らかにされている保存料は、多種多様な食品の長期的な保存には有効な添加物であると思われます。
なお、食品添加物全般についてはトピックスのバックナンバーにも詳しく紹介しておりますので、そちらも参考にして下さい。

[トピックス:食品添加物の安全性について]

参考文献

「食品危害微生物のターゲット制御」松田敏生 著  幸書房
「食べ物サイエンス」古川秀子 編  幸書房
「さらにやさしい食品添加物」湯川宗昭 著  食品化学新聞社
「図解 食品衛生学」市川富夫 他 共著  講談社
「別冊フードケミカル 保存料総覧」 食品化学新聞社
「第8版 食品添加物公定書解説書」㈱廣川書店

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