2017.03.06
2017年3月6日更新
一般財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品理化学検査部 技術専門科長 柴田 博
ここ数年食品業界での異物混入事故が多く報道されています。
食品中の異物より健康被害が発生したという事例は多くはありませんが、マスコミで異物混入事故が大きく報道されると、連鎖的に食品中の異物に関する相談や問い合わせ、検査機関への検査依頼が増える傾向があります。
また、消費者の食品の安全性に関する関心の向上やSNSの普及もあり、今まで公表されていなかった健康への影響がない又は食中毒の可能性がないと考えられる案件についても、企業側は謝罪とともに発生した事実と原因の特定及び対策を公表し、ダメージを最小限に留める迅速な対応を求められています。
企業は食品中の異物混入を防ぐためにさまざまな対策を行っていますが、食品の異物混入を「ゼロ」にすることは不可能です。
食品中の異物にはさまざまな事例がありますが、どういうものが食品中の異物に該当するのか。食品中の法規制と食品中の異物分析の手順および実際の食品中の異物の測定事例についてまとめました。
食品中の異物とは生産、貯蔵、流通、販売の過程における不適切な取り扱いに伴って、食品中に混入、侵入あるいは迷入した有形外来物を指し、主に以下の3種類に分類されます。
また、製品保存中に生成した固形物や加熱の際にできる「焼きこげ」、動物の尿、
かじり跡、足跡なども食品衛生上異物として取り扱います。
食品衛生法では、「次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
と記載されており、食品中にプラスチック片やガラス片等が混入したことにより健康被害が発生した場合、4に抵触し改善命令や営業停止を命じられるおそれがあります。
また製造物責任法(PL法)は「その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。」とされており、製造物の欠陥によって被害を被った場合に、被害者は製造業者等に対して損害賠償を求めることができる法律です。食品中の異物により健康被害が発生した場合も適用されます。
目視または実体顕微鏡や光学顕微鏡で形状、大きさ、色調、柔らかさなどの性状を観察し、虫系、カビ等の微生物系、木片などの植物系、人毛または獣毛、プラスチック系、鉱物系などのある程度のふるい分けを行います。プラスチック系、鉱物系以外の異物は外観観察のみでほぼ判定できることが多いです。
プラスチック系、鉱物系の異物は、外観だけでは判定が困難なため、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)、蛍光X線分析装置(EDX)を使用します。
合成樹脂、ゴムなどの金属以外のものはFT-IRで調べます。FT-IRは試料に赤外線を照射し、得られる赤外吸収スペクトルを用いて物質を特定する方法で、異物分析において最も多く利用されています。
EDXは、試料にX線を照射した時に発生する蛍光X線を検出し元素の判定をします。FT-IRで測定が困難な金属等の鉱物を特定する場合に用います。
機器分析では判定が不十分な場合に行われる試験で、主に以下の試験があります。
ヨウ素-デンプン反応 :デンプンの確認
キサントプロテイン反応 :タンパク質の確認
フロログルシン反応 :木片の判定
ルミノール反応 :血液の判定
カタラーゼ試験 :加熱処理の確認