2016.11.30
2016年11月30日更新
一般財団法人東京顕微鏡院 理事
食と環境の科学センター 名誉所長 伊藤 武
食肉には腸管出血性大腸菌以外にもカンピロバクター、サルモネラ属、ウェルシュ菌、黄色ブドウ球菌などが汚染していることからこれらの病原菌による食中毒が多発しています(図1)。
特にカンピロバクターによる健康被害が多く報告されている。次いで腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌の食中毒です。
腸管出血性大腸菌の食中毒の発生状況は図2に示すごとく年間15~25事例、患者数は年間300名程度ですが、500名以上の大規模な発生もみとめられ、18年間で死亡例が29名みられます。
原因食品が究明できた事例はそれほど多くはありませんが、牛肉や臓器の生食(ユッケ、レバーなど)やタンブリングやテンダライズなどの調理肉の加熱不足、焼肉があります。また、白菜やキュウリなどの淺漬、冷やしキュウリなど野菜が原因食品となった事例も少なくありません。
今年発生した高齢者施設のO157食中毒では「キュウリのゆかり和え」が原因食品でした。原料のキュウリの洗浄や熱湯処理した施設では患者発生がないことから、このキュウリがO157で汚染されていたのかもしれません。
冷凍メンチカツによるO157食中毒では冷凍メンチカツから患者と同一のO157が検出されており、原料の牛肉にO157汚染が考えられます。患者発生状況から広範囲な二次汚染あるいは惣菜工場でO157が増殖を起こす環境があったのかもしれません。業務用ではなく、各個人の家庭用に販売された製品であること、加熱は包装紙のラベルでは凍結のまま170-180℃の油で揚げることになっていますが、家庭においては十分に加熱しないで喫食した場合があるのではないでしょうか。
これまでの多くの研究者や農水省の報告から、牛が高率に腸管出血性大腸菌O157やその他の血清型菌を保有していることが報告されています。O157以外にもサルモネラやカンピロバクターなどの病原菌を保有していることから、と畜場では腸管の結紮やナイフの殺菌など新たな衛生管理が推進されてきました。
牛肉の生食によるO157食中毒が多発したことから、厚労省は食品衛生法により生食する牛肉には厳しい衛生管理と成分規格を制定しました。また、牛と豚の肝臓の生食も禁止されており、加熱して提供しなければなりません。これらの法的な衛生管理が推進されてからは牛肉や肝臓の生食による腸管出血性大腸菌食中毒は確かに減少してきました。
農場では人に重篤な病気を起こすO157の保菌率低減化対策が求められます。しかし、牛から腸管出血性大腸菌感染を制御する技術もないことから、農場での効果的な対策が推進できていない現状です。
高度な衛生管理が推進され、安全性の高い食肉生産の努力が進んできましたが、腸管出血性大腸菌以外にもサルモネラ属菌やカンピロバクターなどの病原菌汚染もあり、と体表面から完全にこれら汚病原菌を防止するためにはHACCPの導入が必須でしょう。
国内の約20%の牛農場からO157が検出されていることから、牛糞便から堆肥へのO157汚染を避けることはできません。O157は乾燥に極めて抵抗性が高く、耕地においても数ヶ月は生存可能であると考えられることから、未熟な堆肥により耕地が腸管出血性大腸菌で汚染され、農産物への腸管出血性大腸菌汚染が推察されます。堆肥における腸管出血性大腸菌汚染状況の継続的な監視体制構築と検査の実施により、農産物へのO157低減化対策が望まれます。
今後HACCPの義務化によりもう一度基礎に戻り、人に健康被害を及ぼす危害の解析と対策の構築が必要となるでしょう。
今回発生した冷凍メンチカツは凍結食品であって、食品衛生法による厳しい製造基準や成分規格を必要としない凍結されたものであるともいわれています。凍結食品は製造基準や衛生管理が明確でないこともあり、少なくとも家庭用に販売されている凍結食品については冷凍食品に類似する製造基準や新たな成分規格の制定も考えなくてはならないでしょう。
安易な生食肉の提供は慎むべきでしょうし、食肉・調理肉などの調理には従来から言われている75℃、1分以上の加熱の励行、二次汚染防止として食肉を取り扱う場所と生野菜の処理を行う場所とは区別し、調理器具・機器はそれぞれ専用とすることなど、もう一度衛生管理を見直す必要があります。