近年の甘味料の動向

2015.10.30

2015年10月30日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
理化学検査部 技術専門係長 山本 信次

はじめに

甘味料という言葉から、皆さんは何を想像されますか? 従来から家庭の調理でよく使われる砂糖を思い浮かべる人がいる一方、アスパルテームやアセスルファムカリウムなど加工食品や飲料によく使われる食品添加物を連想する人もいらっしゃることと思います。

砂糖以外の甘味料は本来、砂糖の代替品として開発されたものですが、近年では、その低カロリー、抗う蝕性、腸内環境の改善などの機能が注目され、使用される甘味料も多様化しています。現在使用されている甘味料を甘味の程度で分類すると低甘味度甘味料と高甘味度甘味料に大別されます。甘味料の分類を表に示しました。

低甘味度甘味料

低甘味度甘味料は砂糖の甘味を1とした場合、0.5~1.0程度の甘味度を有するものをいいます。そのうち糖類にはブドウ糖と果糖からなる二糖類の砂糖の他、でん粉を分解して生成する単糖類としてのブドウ糖や果糖、ブドウ糖と果糖を主成分とする異性化糖などが含まれます。いずれも他の甘味料に比べて高いカロリーを有しています。

オリゴ糖は単糖類が3個以上つながったもので胃腸で消化されにくく、大腸にまで達してビフィズス菌の栄養になるという特徴があります。オリゴ糖は低カロリーで虫歯になりにくいという砂糖とは異なった性質を持った糖ということができます。

その他、乳糖やトレハロースも糖類に属する甘味料ですが、トレハロースはブドウ糖が2つ結合した二糖類で自然界にも広く分布し、キノコ類、エビ類、海藻類などに含まれ、甘味度は砂糖の45%程度です。甘味料としてばかりでなく保湿や味の矯正を目的として使われることもあり、和・洋菓子、パン、冷凍食品、氷菓、加工食品等に使われます。

糖アルコールは糖類に水素を添加して作られた化合物ですが、天然にも存在します。その中のソルビトールはブドウ糖に水素を添加して還元することによって得られますが、天然にはナナカマドの実やリンゴ、プルーンなどの果実類中に多く含まれています。甘味度は砂糖の60~70%で、アミノ酸との褐変反応を起こさず、保湿性や保香性もあることから食品の品質改良も兼ねて使用されることがあります。主な用途は漬物、佃煮、魚肉練製品、甘納豆やカステラなどの菓子類に比較的よく使われます。

キシリトールはキシロースから作られますが、天然にはプラムやイチゴ、カリフラワーなど多くの果実や野菜に含まれています。砂糖と同等の甘味度を有しますが、口の中で強い清涼感、爽快感を感じるという特徴があります。また、口腔内の細菌に利用されず、細菌による酸の産生がほとんどないことから、虫歯の予防効果が期待され、主にチューインガム等の菓子類に使用されています。しかし、小腸で吸収されにくくカロリーになりにくい反面、過剰に摂取をすると下剤として働くことが知られています。

エリスリトールはブドウ糖を酵母で発酵分解して得られる甘味料で、ワイン、清酒、しょう油,みそなどの発酵食品に含まれる他、キノコなどにも含まれています。甘味度は砂糖の75%で、冷涼感の得られる甘味料であるため、清涼飲料水などに用いられます。糖アルコールの中ではカロリーの最も低い甘味料です。

高甘味度甘味料

近年の消費者の健康志向によりカロリーを低減した加工食品が増加しており、それに合わせるように高甘味度甘味料の需要が増える傾向にあります。高甘味度甘味料とは砂糖の甘味度の数百倍以上の甘味度を持つ甘味料のことで、合成甘味料と天然甘味料に大別できます。

合成甘味料は化学的合成品であることから国による安全性の評価が終了し、指定添加物名簿に収載されたもののみの使用が認められています。そのうち、使用対象食品と使用量が設定されているものにアセスルファムカリウム、サッカリン及びその塩類、スクラロースなどがあります。使用基準のないものにはアスパルテーム、ネオテームなどがあります。

アセスルファムカリウムは2000年にわが国での使用が許可された合成甘味料で、砂糖の200倍の甘味度があり、甘みを早く感じ、後味のない甘味質を持っています。砂糖に近い甘味とするためにアスパルテームなどと併用する場合があります。

サッカリンは1948年に食品添加物に指定された現在の合成甘味料の中ではもっとも歴史のある甘味料といえます。甘味度は砂糖の500倍であり、持続性のある甘味を有していますが、年々使用量が減少している甘味料です。

スクラロースは1999年に食品への使用が許可された比較的新しい添加物で、砂糖(ショ糖)の3か所の水酸基が塩素原子に置き換わった構造をしています。甘味度は砂糖の600倍ですが、砂糖に似た後味のない甘味をもっています。アセスルファムカリウムと併用するケースが多くなっています。以上の合成甘味料はノンカロリー、低カロリーを目的として使われますが、それもうなずけることと思います。

使用基準のないアスパルテームは1983年に指定添加物となり、アミノ酸であるアスパラギン酸とフェニルアラニンから合成されたアミノ酸系甘味料です。砂糖の200倍の甘味を有し、苦みが少なく、砂糖に似たすっきりとした甘味を持っています。カロリーは砂糖と同じですがが、高甘味度であるため少ない使用量で済むことから、食品全体として低カロリーに抑えられることになります。

さらに、アスパルテームに続くアミノ酸系高甘味度甘味料として2007年にネオテームが、2014年にはアドバンテームの使用が許可されました。ネオテームの甘味度は砂糖の7,000~13,000倍、アドバンテームは砂糖の実に14,000~48,000倍とまさにスーパー甘味料といえるでしょう。

もう一つ、高甘味度甘味料には植物から抽出した天然の甘味料に分類されるものがあります、代表的なものにステビア抽出物と甘草抽出物があります。

ステビア抽出物は南米原産のキク科植物のステビアの葉に含まれる甘味成分を抽出して作られる甘味料です。甘味成分にはステビオサイドやレバウディオサイドAなどが知られており、これらは清涼感のある甘味をもち、甘味度はステビオサイドで砂糖の200倍といわれています。カロリーは砂糖と同じですが、使用量が少ない分、低カロリーにおさえることができます。虫歯の原因にもなりません。ステビア甘味料は塩慣れ効果をもち、酸味を和らげる効果があるとされることから、漬物、佃煮、水産練製品、飲料、氷菓、ヨーグルト類などに使用されます。

甘草抽出物はマメ科甘草の根から抽出したもので、主成分グリチルリチンの甘味度は砂糖の200倍といわれ、塩慣れ効果や旨味を出す効果があるといわれています。清涼飲料水、氷菓、乳製品、漬物、佃煮、しょう油、みそ、魚肉練製品等々、いろいろな食品に使用されています。

おわりに

近年の食生活の変化により、肥満や生活習慣病に悩まされる人が増えています。そのため、消費者の摂取エネルギーを抑制しようという低カロリー志向も年々高まってきています。それらを背景に体内で消化されにくく、結果として砂糖より低カロリーとなる甘味料や砂糖の数百倍の甘味度を持ち、使用量が少ないため、結果として低カロリーとなる甘味料などが開発されてきました。

いずれにしても、砂糖が甘味の質の基準になりますが、砂糖に近い甘味質を得ようとするなら、糖類や糖アルコールなどの低甘味度甘味料、また砂糖に由来するカロリーを低減したいなら、高甘味度甘味料ということになるかと思いますが、現実にはこれらの組み合わされることが多いようです。これらの解説が食品を選択する際の参考になれば幸いです。

当法人では、このような甘味料のアスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン等の検査およびわが国では使用が許可されていないサイクラミン酸やズルチンの検査を受託しています。


参考文献

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