ミネラルウォーター類の規格基準改正について

2015.05.01

2015年5月1日
一般財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
理化学検査部 技術専門科長 今澤 剛

ミネラルウォーターとは

ミネラルウォーターとは、容器詰めされた地下水や湧水などの自然の水を原水とするものです。ヨーロッパでは古くより飲泉の習慣があり、17世紀にイギリスのマルバーンの水を瓶詰めにして販売したのがミネラルウォーターのはじまりとされています。19世紀になると瓶詰めにかかるコストが軽減したことで、水道水よりも安全な水として普及しました。

わが国の農林水産省局長通達の品質表示ガイドライン1)では、特定の水源から採水された地下水を原水とし、沈殿、濾過、加熱殺菌以外の物理的・化学的処理を行わないものは、「ナチュラルウォーター」と記載されます。ナチュラルウォーターのうち鉱化された地下水〔地表から浸透し、地下を移動中又は地下に滞留中に地層中の無機塩類が溶解した地下水(天然の二酸化炭素が溶解し発泡性を有する地下水を含む。)をいう。〕を原水としたものは、「ナチュラルミネラルウォーター」と記載されます。

また、複数の水源から採水したナチュラルミネラルウォーターの混合等が行われているものや、品質を安定させる目的等のためにミネラルの調整、ばっ気が行われているものは、「ミネラルウォーター」と記載されます。そしてナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーター及びミネラルウォーター以外のものは、「飲料水」又は「ボトルドウォーター」と記載することになっています。

現在、スーパーやコンビニエンスストアに行くと様々なミネラルウォーターを目にすることが出来ます。また、ミネラルウォーター専門店もあり、ミネラルウォーターに関する専門知識を持ったアクアソムリエがいる店舗も増えてきています。

ミネラルウォーターの統計資料2)によると、国内生産の推移は、1990年には約15万kL(kL:キロリットル)、2000年には約90万kL、2010年には約210万kL、2014年には約300万kLと近年2000年前と比べるとおおよそ3倍に増加しています。輸入の推移は、1990年には約2万5千kLでしたが、2000年には約20万kL、2010年には約42万kL、2014年には約35万kLと減少はしたものの、2000年前と比べるとおおよそ2倍に増加しており、国内生産と輸入量と合わせると1985年の約8万4千kLから2014年の約326万kLとおおよそ39倍にもなっており、近年のミネラルウォーターへの関心度が高まっていることの証明にもなっています。

本稿では今回の改正に関わる厚生労働省通知3)4)5)6)を基に、改正の概要の内容、施行時期、運用の注意等について記述します。

改正の概要

ミネラルウォーター類は、水のみを原料としていることから、その製造において殺菌又は除菌以外の処理を行わないものがほとんどであるため、これまでの原水基準と成分規格の双方による規制は、必ずしも必要ではなく、後者のみにより規制することが合理的であることから、その規制の内容の見直しが行われました。

また、現行の水道法で規定される水質基準等とも乖離が生じていたため、コーデックス委員会におけるナチュラルミネラルウォーター等の規格の設定及び我が国の水道法の水質基準改正の動きを受け、食品衛生法(昭和22年法律第233号)第11条第1項に基づき、乳等省令及び告示の一部が改正されました。

(平成26年12月22日食安発1222第1号「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令及び添加物等の規格基準の一部改正について」)

改正の内容

  1. 乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令上記省令の別表中の「飲用適の水」を「食品製造用水」に、「飲用適の流水」を「流水(食品製造用水に限る。)」に改正されました。
  2. 食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件
    1. 「ミネラルウォーター類、 冷凍果実飲料及び原料用果汁以外の清涼飲料水」の製造基準において規定されていた「飲用適の水」の基準を「食品一般の製造、加工及び調理基準」において規定し、その名称を「食品製造用水」としたこと また、告示中「飲用適の水」を「食品製造用水」に、「飲用適の流水」を「流水(食品製造用水に限る。)」 に、「飲用適の冷水」を「冷水(食品製造用水に限る。)」に改正されました。
    2. 「ミネラルウォーター類」について、「ミネラルウォーター類(殺菌・除菌無)」と、「ミネラルウォーター類(殺菌・除菌有)」に区分し、それぞれに規格基準を設定されました。
    3. 「ミネラルウォーター類(殺菌・除菌有)」について、成分規格として別表1のとおり、亜鉛、銅、鉛、マンガンなどの金属類、シアン、水銀、ヒ素などの有害物質類、クロロホルム、ジクロロメタンなどの揮発性物質類等39項目の基準値が規定されました。
    4. 「ミネラルウォーター類(殺菌・除菌無)」について、成分規格として別表2のとおり、上記39項目の中から14項目の規格基準が規定されました。なお、その際、製造基準として、泉源の衛生性等に関する規定を別添1の1. から11. のとおり規定されました。
    5. 「ミネラルウォーター類、 冷凍果実飲料及び原料用果汁以外の清涼飲料水」の製造基準における原水(飲用適の水)に係る規定を削除し、原料として用いる水として、水道水の他に「ミネ ラルウォーター類(殺菌・除菌有)」又は「ミネラルウォーター類(殺菌・除菌無)」の成分規格等を満たす水を規定されました。
    6. 清涼飲料水及び粉末清涼飲料におけるカドミウムの成分規格を削除されました。
    7. 清涼飲料水及び粉末清涼飲料におけるスズの成分規格を金属製容器包装入りのものに限定して適用されました。
    8. 清涼飲料水の成分規格において規定されていたパツリンに係る試験法が削除され、別途通知で示されました。

(改正前後の比較表「別表3」参照)

施行・適用期日

  1. 乳等省令
    公布日(平成26年12月22日)から施行されます。
  2. 告示
    公布日から適用されます。ただし、平成27年12月31日までに製造され、又は輸入される清涼飲料水及び粉末清涼飲料については、なお従前の例によることができます。

運用上の注意

  1. 乳等省令及び告示の「飲用適の水」に係る改正は、あくまで法令上の整理を行うものであり、個別食品の製造基準等に変更を生じるものではありません。
  2. 告示の化学物質等に係る試験法の削除は、分析技術の進歩に迅速に対応するためのものであり、別途通知により示される化学物質等の試験法については従前と同等の運用がされます。
  3. 原料として用いる水は、水源から取水した時点の水ではなく、製造において原料として用いる時点の水です。

その他の留意事項

  1. ミネラルウォーター類以外の清涼飲料水及び粉末清涼飲料に係るカドミウムの成分規格を削除したのは、「ミネラルウォーター類、 冷凍果実飲料及び原料用果汁以外の清涼飲料水」におけるカドミウム含有量の調査の結果、これらを通じたカドミウム摂取は非常に限られているためです。
  2. 今回の改正において、スズの含有量の規定は金属製容器包装入りの清涼飲料水及び粉末清涼飲料にのみ適用するものとしているが、これは同食品中のスズは専ら容器包装として用いる金属から溶出するものであるからです。
  3. 既存の通知等については、別途の通知等が発出されない限り、「飲用適の水」や「飲用に適する水」とあるのは「食品製造用水」と読み替えるなど、必要な読替えを行った上で、引き続き適用されます。

おわりに

当法人では改正後の内容にて検査を受託しております。検査料金等は お問い合わせフォーム で「食品全般」を選んでお問い合わせください。
2018年の基準再改正後のコラム「ミネラルウォーター類の分類と市場の現状及び規格基準改正について」もご参照ください。


(参考文献)

1) 平成2年3月30日 農林水産省局長通達 食流第1071号「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」PDF: 635KB

2) 日本ミネラルウォーター協会HP「ミネラルウォーター類 国産、輸入の推移」

3) 平成26年12月22日 食安発1222第1号「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について」PDF: 270KB

4) 平成26年12月22日 食安発1222第4号「清涼飲料水等の規格基準の一部改正に係る試験法について」PDF: 1MB

5) 平成26年12月22日 食安発1222第7号「食品中の有害物質等に関する分析法の妥当性確認ガイドラインについて」PDF: 398KB

6) 食品別の規格基準について「清涼飲料水」PDF: 298KB


別表1 ミネラルウォーター類(殺菌・除菌有)の化学物質等の成分規格

別表1 ミネラルウォーター類(殺菌・除菌有)成分規格

別表2 ミネラルウォーター類(殺菌・除菌無)の化学物質等の成分規格

別表2 ミネラルウォーター類(殺菌・除菌無)成分規格

別添1 ミネラルウォーター類(殺菌・除菌無)の製造基準

  1. 原水は、自然に、又は掘削によって地下の帯水層から直接得られる鉱水のみとし、泉源及び採水地点の環境保全を含め、その衛生確保に十分に配慮しなければならない。
  2. 原水は、その構成成分、湧出量及び温度が安定したものでなければならない。
  3. 原水は、人為的な環境汚染物質を含むものであってはならない。ただし、別途成分規格が設定されている場合にあっては、この限りでない。
  4. 原水は、病原微生物に汚染されたもの又は当該原水が病原微生物に汚染されたことを疑わせるような生物若しくは物質を含むものであってはならない。
  5. 原水は、芽胞形成亜硫酸還元嫌気性菌、腸球菌、緑膿のう菌及び大腸菌群が陰性であり、かつ、1ml当たりの細菌数が5以下でなければならない。
  6. 原水は、泉源から直接採水したものを自動的に容器包装に充塡した後、密栓又は密封しなければならない。
  7. 原水には、沈殿、ろ過、曝気又は二酸化炭素の注入若しくは脱気以外の操作を施してはならない。
  8. 採水から容器包装詰めまでを行う施設及び設備は、原水を汚染するおそれのないよう清潔かつ衛生的に保持されたものでなければならない。
  9. 採水から容器包装詰めまでの作業は、清潔かつ衛生的に行わなければならない。
  10. 容器包装詰め直後の製品は1ml当たりの細菌数が20以下でなければならない。
  11. 5及び10に係る記録は、6月間保存しなければならない。

別表3 改正前後の比較表

別表3 改正前後の比較表
お電話でのお問い合わせ