2013.09.25
2013年9月25日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品微生物検査部 技術専門科長 鄒 碧珍
リステリア食中毒は、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes) による食中毒です。本菌は土壌、河川水や家畜、家禽、野生動物など自然界に広く分布しており、4℃以下の低温でも増殖する芽胞非形成グラム陽性の短桿菌です。また、10%の高い塩分濃度でも増殖が可能です。この菌は生乳、生肉、植物などから普通に分離されます。
食品の製造ラインなどに定着することも知られていて、定着してしまうと長期にわたり食品を汚染し続け、食中毒の原因となることがあります。海外では、未殺菌乳から作られたチーズをはじめとする乳製品、野菜サラダ、加熱不足の食肉、魚介類など調理済みの食品(表)を媒介したリステリア食中毒が多数報告され、食品衛生の分野で重要視されています。日本では、2001年に北海道でリステリア感染症の集団発生事例があり、原因はナチュラルチーズでした。
リステリア検査の主な対象はナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモン等加熱しないでそのまま食べる調理済み食品(ready-to-eat食品)です。日本では、非加熱食肉製品及びナチュラルチーズからリステリア菌が検出された場合には、食品衛生法第6条第3号に基づき、輸入や販売等が禁止されます。
また、EU加盟国からの一部の非加熱食肉製品及びナチュラルチーズについては、食品衛生法第26条第3項に基づく輸入時の検査命令の対象とされています。
感染を起こしやすい人は、妊婦(胎児)、新生児、高齢者及び慢性呼吸器疾患や慢性心疾患、慢性腎疾患、糖尿病、高血圧などの基礎疾患を持つ人で、健康な成人と比較して100~1000倍感受性が高いとの算定があります。感染初期は、急性胃腸炎症状よりも、インフルエンザのような症状を示すことが多く、38~39℃の発熱、頭痛、嘔吐などの症状が出ますが、健康な成人では無症状のまま経過することが多いです。
ただし、妊婦(胎児)、新生児、高齢者及び免疫力が低下している方は、症状が重くなる場合が多いので注意が必要です。おおむね3週間と長い潜伏期間の後、髄膜炎や敗血症などの重篤な全身性の症状を示します。意識障害や痙攣が起こる場合もあります。重症化した場合の致死率は20~30%と非常に高いです。また、妊婦が感染すると本菌が胎盤を通過して胎児へ垂直感染し、流産や早産及び死産の原因ともなります。妊婦は発熱、悪寒、背部痛を主徴とし、胎児は出生後死亡する例も見られます。
症状からリステリア症を診断することは難しく、病巣の検体からリステリア・モノサイトゲネスの分離を必要とします。
表:リステリア症の推定感染源として報告された食品
乳、乳製品 | 食肉加工品 | 魚介類加工品 | 野菜・その他 |
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メキシカンスタイルチーズ (ソフトタイプチーズ) |
ポークタンのゼリー寄せ | スモークムール貝 | コールスロー (キャベツサラダ) |
ブリードモー (ソフトタイプチーズ) |
リーエット(ポークパテ) | スモークした魚 | ライスサラダ |
ヴァシュランモンドール (ソフトタイプチーズ) |
ミートパテ | エビ(シュリンプ) | コーンサラダ |
ポンレヴェック (ソフトタイプチーズ) |
サラミソーセージ | カニカマ (Imitation Crabmeat) |
ポテトサラダ |
青カビタイプのチーズ | コンビーフ | 各種サンドイッチ | |
ハードタイプのチーズ | ホットドッグ | 冷凍野菜 (ブロッコリー・カリフラワー) |
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ヤギ乳のチーズ | チキン(加熱不足) | ||
ヤギ乳のチーズ | チキン(加熱不足) | ||
バター | 七面鳥のフランクフルトソーセージ | ||
未殺菌乳 | 七面鳥のスライス | ||
殺菌乳 | デリカテッセン(調理済み食品) | ||
フレッシュクリーム | |||
チョコレートミルク | |||
アイスクリーム |
出典:防菌防黴Vol.36, No.3, pp.173-182, (2008)