2012.06.01
2012年6月1日
財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
豊海検査事業部 担当理事 安田和男
昨年3月の東日本大震災の影響による原子力発電所の事故以来、放射性物質による農産物や水産物などの食物汚染が次々に明らかにされてきました。今年4月からは暫定規制値に代わる放射性セシウム(Cs-134, Cs-137)の新たな基準値が設定されました。これを超える量が検出された食品は食品衛生法第11条1項の違反として措置されることとなり、それに伴い厚生労働省は検査法について、基準値よりも明らかに低い検体を判別できるとした「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」と、放射性セシウム濃度を確実に定量できるとした「食品中の放射性セシウム検査法」を通知しました。前者はヨウ化ナトリウムシンチレーションスペクトロメータを、後者はゲルマニウム半導体検出器を用いることを基本として、放射性セシウムを分析することとしています。
厚生労働省の集計では、昨年3月から本年3月までに国や県、市町村などの自治体及び登録検査機関など全国で検査された食品は、肉類、野菜類、魚介類、海藻類、穀類、キノコ類、茶葉など多岐にわたっています。その検査総数は、この3月末時点で132,516件、そのうち暫定規制値を超えた食品は1,203件(違反率0.91%)でした。新たな基準値が設定された4月以降の検査総数は、28,655件(5月26日現在)で、そのうち基準値を超えたものは695件(違反率2.4%)となっています。違反率は3月末日までと比べると高まりましたが、基準値がこれまでの暫定規制値に対し、4分の1から20分の1と低く設定されたことに起因していると考えられます。
最近の違反事例を上の表に示しました。キノコ類や魚介類で基準値を超える事例が多く、シイタケ栽培に用いられる原木や菌床用おがくずが放射性物質により汚染を受けていた可能性や、海底の堆積物などへの放射性物質の付着による影響が考えられます。また、基準値が10Bq/kgと低い茶(飲用に供する状態)での事例も見られます。
なお、放射性セシウムであるCs-134およびCs-137の検出量の比率は、原発事故発生当初はCs-134:Cs-137はおよそ1:1でしたが、Cs-134の半減期が2年と短いため、現在その比率はおよそ2:3となっています。
一方、放射性物質は農作物では根による土壌からの吸収、葉物では葉表面への付着が考えられますが、洗う、皮をむく、煮るなどにより汚染が低減されるとの報告があります。また、海水中の放射性セシウム濃度の低減に伴い、ワカメやアオサなどの海藻中の放射性セシウムが急速に減少しているとの調査報告もあります。
食品中の放射性物質の検査は、種々の食品に対し国や自治体、民間検査機関などで継続して実施されており、基準値を超えるものは出荷停止措置がとられています。検査結果は厚生労働省のホームページに掲載され、日々更新されています。
今後は、農作物の栽培期間や収穫時期によって、あるいは海域での放射性物質の挙動などにより、検出される品目、それらの生産・漁獲地域、検出量、違反率は変化するものと考えます。そのため、公表される検査実施状況や基準値超過事例の動向には注目していく必要があると思われます。
【 参考 】