2021.07.15
財団法人東京顕微鏡院 豊海研究所 所長 安田和男
信頼性保証室:生野 美千代
中国産乳及び乳製品を使用した加工食品中にメラミンが混入していた問題に関して、厚生労働省は、国内での検査の実施状況や、メラミンが検出された加工食品について公表をしています(※表1参照)。
さらに、平成20年9月25日付け通知で、中国産だけでなくインド、インドネシア、シンガポール、タイ、韓国及び台湾産などの乳及び乳製品や、これらを原料とした食品を検疫所で検査をすることとしています。また、10月7日付けで中国産の米、小麦、大豆等を原料とするタンパク(グルテンを含む。)を主要な原料とする食品に対して自主検査の指導を行っています。
メラミンが問題となったのは、今回の乳及び乳製品への混入がはじめてではありません。平成19年3月、FDA(米国食品医薬局)は、イヌやネコが死亡したなどの苦情のあったカナダ産ペットフードからメラミンを検出し、原料に使用されていた中国産小麦グルテンがメラミンに汚染されていたことを明らかにしました。
その後の調査で、中国産の米タンパク濃縮物からもメラミンが検出されたことや、これらが食用の豚、鶏、魚の飼料にも配合されていたことを明らかにしました。そして、これらの小麦グルテン等にメラミンが添加された理由は、製品中のタンパク質量を調整するためとわかりました。これは、タンパク質量の測定法が、窒素量を測り、タンパク質量に換算する方法であるため、窒素含量の多いメラミンを添加して、製品中のタンパク質量が多くみえるようにしたものと考えられます。
日本ではこうした情報を受け、メラミンの混入が判明している製品以外にも植物性タンパク質にメラミンが含まれる可能性があるとして、厚生労働省は平成19年5月2日付けで「中国産の米及び小麦を原料とするタンパク(グルテンを含む)、小麦粉並びに小麦粉を使用した調製粉類」の輸入を保留し、検疫所における検査をすることとしました。また、平成20年4月1日には上記のタンパクと調製粉類に対し、自主検査を行うように通知しています。
メラミンの毒性は、問題となったペットフードが原因で死亡したネコの体内で、メラミンとそのメラミン関連化合物であるシアヌル酸が結合した結晶が発見されたことから、メラミン単独の毒性は低いものの、関連化合物と結合すると毒性が高くなることが示唆され、人へのTDI(耐容一日摂取量)※の設定や暴露評価が行われました。また、メラミンが混入された小麦グルテンなどはペットフードや家畜飼料に使用されていたため、人が直接メラミンを摂取する危険性は少なく、TDIから見て、人へ与える影響は少ないものとされました。
しかし、この約1年半後、今回の中国産粉ミルクへのメラミン混入問題が発覚し、多くの国々で種々の食品からメラミンが見つかっています。ペットフード原料の問題が起きた時点で、小麦グルテンや米タンパク濃縮物等以外にも幅広い食品に不正にメラミンが添加される可能性について検討して、検査対象とする食品の範囲を広げておく必要があったものと考えます。
メラミン混入問題は、食品の輸入割合の特に高いわが国にとって、今後の食の安全への考え方、取り組み方に大きな教訓となったものと考えられます。
表1 :日本国内における検出事例一覧
(厚生労働省発表資料より)2008年10月10日現在
公表日 | 製品名 | 検出値(mg/kg) | 参考(HPでの情報) |
---|---|---|---|
9月26日 | 抹茶あずきミルクまん | 4.0 | 厚生労働省 |
グラタンクレープコーン | 13.6 | ||
14.0 | |||
クリームパンダ | 37.0 | ||
業務用クリームパンダ | 3.7 | ||
36.6 | |||
0.8 | |||
9月29日 | 業務用クリームパンダ | 23.2 | |
4.6 | |||
9月30日 | エッグタルト | 1.4 | 厚生労働省 |
10月3日 | 業務用クリームパンダ | 2.2 | 厚生労働省 |
1.5 | |||
チョコピローズ(準チョコレート菓子) | 54.0 | ||
10月6日 | コーンチュール110g(スナック菓子) | 2.1 | 厚生労働省 |
ポテトチップス(濃厚わさび醤油味) | 0.5 | ||
10月7日 | たこ焼き(4製品) | 0.7~1.1 (7件) |
厚生労働省 |
10月8日 | ホイロ後冷凍チョコクロワッサン | 17.0 | 厚生労働省 |
ホイロ後冷凍あんこクロワッサン | 15.0 | ||
ホイロ後冷凍パンオレザン | 18.0 | ||
ホイロ後冷凍クロワッサン | 36.0 | ||
10月10日 | ミルクソフトキャンディー | 11.0 | 厚生労働省 |
※TDI(耐容一日摂取量)…ヒトがある物質を生涯にわたって継続的に摂取した際に、健康被害がないと推定される1日あたりの摂取量。TDIは、FDA(米国食品医薬局)では、メラミンとして0.63mg/kg bw/day、また、EFSA(欧州食品安全機関)では、メラミン及び関連化合物として0.5mg/kg bw/dayとしている。