2018.03.02
2018年3月2日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター 臨床微生物検査部
安藤桂子 柿澤広美 津藤通孝 岡元満 小林理香 高橋奈央
馬場洋一 田原麻衣子 加藤明子 鈴木智子 渡辺由美子
大腸菌は、家畜やヒトの腸内に存在し、その殆どは害がありません。しかし、中にはヒトに下痢などの症状を引き起こす大腸菌があり、病原大腸菌と呼ばれています。病原大腸菌は、腸管出血性大腸菌,腸管毒素原生大腸菌,腸管組織侵入性大腸菌,腸管凝集接着性大腸菌,腸管病原性大腸菌の5つに分類されています。このうち、腸管出血性大腸菌はベロ毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒素症症候群(HUS)を起こします。代表的な血清型は、O157,O26,O103,O104,O111,O121,O128,O143,O145で、重症化するものの多くはO157です。
また、腸管出血性大腸菌感染症は、三類感染症に定められており、診断した医者は直ちに最寄りの保健所に届け出ることが義務づけられています。
図1は、国立感染症研究所(以下感染研)による病原微生物検出情報の腸管出血性大腸菌の血清型別割合(2000年から2016年)です。年次により変動しておりますが、O157は全体の約半数を占めており、残りの半数はその他の血清型(Non O157)が占めています。
当院では、2014年度よりマルチプレックスPCR法と呼ばれる遺伝子検査法にて、腸管出血性大腸菌,サルモネラ属菌,赤痢菌のスクリーニング検査を実施しています。これにより、ベロ毒素を保有するすべての腸管出血性大腸菌の検出が可能となりました。
マルチプレックスPCR法で腸管出血性大腸菌ベロ毒素遺伝子が陽性となった際は、腸管出血性大腸菌用の培地(CSIE寒天培地,クロモアガーSTEC寒天培地,CT-SMAC寒天培地,クロモアガーO157寒天培地等)に塗抹し、37±1℃18±2時間培養を行います。培養後、腸管出血性大腸菌を疑う集落が発育した場合、この集落から生化学的性状(TSI寒天培地,LIM寒天培地,CLIG寒天培地,シモンズクエン酸塩寒天培地等)を確認します。同時に、ベロ毒素遺伝子の型別を遺伝子検査で調べます。最後に、「デンカ生研」より販売されている病原大腸菌免疫血清を用いて血清反応を行い、血清型を決定します。
2014から2017年の4年間に食品従事者から検出された腸管出血性大腸菌262株は、O157 116株,O26 28株,O103 17株,O121 2株,O 111 2株,O145 5株,O25 1株,O55 2株, O91 2株, O115 1株,O125 1株,O128 2株,O136 2株,O146 5株,O158 1株,O168 1株,血清型不明 74株です。
割合で示すと、O157 44.3%,O26 10.7%,O103 6.5%,O121 0.8%,O111 0.8%,O145 1.9%,その他 6.9%,血清型不明 28.2%です。健康保菌者で検出されるこれらの血清型は、感染研のデータと殆ど同一です。
感染研で解析された腸管出血性大腸菌の殆どが有症者ですが、当院で検出された腸管出血性大腸菌は健康保菌者です。この違いがありますが、O157は全体の約半数、残りの半数はその他の血清型が検出されていることがわかります。
食品業界では、腸管出血性大腸菌の検査は殆どがO157を対象とした依頼で、他の血清型を含む検査も行っている事業所はほんの一部です。検出される腸管出血性大腸菌の約半数はO157ですが、O157以外(Non O157)も半数ほど検出されていることから、O157以外に高頻度に検出されるO26,O103,O121,O111,O145などの血清型を含めた検査が重要であると考えます。
参考文献
1)国立感染症研究所:病原微生物検出情報 36(5)、2015,37(5)、2016,38(5)、2017
2)馬場洋一ら:食品取扱い従事者糞便からのPCRによる腸管系病原保菌者検索の検討、
感染症誌88:685~694、2014