2021.07.15
財団法人東京顕微鏡院 理事、 麻布大学客員教授
獣医学博士 伊藤 武
平成7年に食品衛生法が一部改正となり、食品製造工場の衛生管理に国際的に活用されてきたHACCPの概念を導入した総合衛生管理システムの認証制度が立ち上がった。本制度は食品事業者の自主衛生管理ではあるが、高いレベルの衛生管理システムであり、社会的にも高く評価されてきた。
平成9年に通知された大量調理施設衛生管理マニュアルは大量調理施設における衛生管理を徹底させるためにHACCPシステムの概念に基づいて各調理工程ごとに重要管理点を明確にし、管理基準を設定した。平成20年に改訂された本マニュアルも基本的には平成9年に制定されたマニュアルのHACCP概念を基本としている。
ここでは今回の改訂された主な箇所を中心に解説するが、ところどころに個人的な見解も述べた。
今回の改訂では特に改正点はない。
食中毒微生物は原材料の食肉、魚介類、野菜、香辛料などや各種加工食品(一次加工食品を含む)に汚染がみられ、これらの原材料を介して調理室内に搬入されてくる。さらに、原材料に汚染した残留農薬などの化学物質やヒスタミンなどは加熱などによる調理工程では無毒化できないことから原材料の衛生管理が重要となる。
従って本マニュアルでは平成9年の制定時から原材料の受け入れ時からの衛生管理の徹底が必要であり、重要管理事項として盛り込まれた。また、平成15年の一部改訂でも生産履歴を明確にすることと事故が起きた際のトレサビリティーを可能にするために、原材料の品名、所在地、生産地、ロット確認、仕入れ年月日並びに記録の1年間保管とした。
生で喫食する野菜や果物については制定時から流水による洗浄と消毒薬による殺菌の規定がある。
これまでのマニュアルでは細菌性食中毒を防止するために、加熱温度条件は中心温度が75℃、1分以上とされていた。今回の改訂ではノロウイルスの熱抵抗性が高いことから二枚貝などノロウイルス汚染のある場合は85℃、1分間以上の加熱条件が追加された。
ノロウイルス食中毒の感染はこれまでは二枚貝の喫食による事例が多数認められ、二枚貝対策を推進してきた結果、カキなどを原因食品とする食中毒事例は激減したが、調理従事者を介するノロウイルス食中毒が問題とされてきた(図1)。従って今回の改訂では調理従事者対策に重点が置かれている。
図1:ノロウイルスの感染経路
調理従事者がノロウイルスを保有し、手洗い不備によりノロウイルスが加熱調理済みの食品や調理器具機材などへ2次汚染となり、ノロウイルス食中毒の発生が認められることから、手洗いに関してはより具体的な規定となった(図2)。すなわち、これまでのマニュアルでは手洗い方法が具体的に記載されていなかったが、改訂版では調理従事者等は流水、石けんによる手洗いによりしっかりと2回以上の繰り返し手指の洗浄をし、最終的にアルコールによる消毒を行うこととされた。調理従事者等には食品の盛りつけ、配膳など食品に接触する可能性のある人を含む。
図2:調理従事者の手指などを介するノロウイルス食中毒
手洗いを必要とする作業は(a)作業開始および用便後、(b)汚染作業区域から非汚染作業区域に移動する場合、(c)食品に直接触れる作業に当たる前、(d)生の食肉類、魚介類、卵殻等微生物汚染源となるおそれのある食品などに触れた後、他の食品や器具などに触れる場合の他に今回の改訂では(e)配膳前、が追加となった。
具体的な手洗い方法は添付2標準作業書「手洗いマニュアル」に記載されている。
なお、ここで示された手洗い法は文科省が平成20年3月に示した《学校給食調理場における手洗いマニュアル》に具体的な洗い方や衛生的手洗いの意義あるいはアルコールに主眼をおいた消毒について詳細に記載されているので参考とすること。
従来のマニュアルではシンクは用途別に設置するとされたが、改訂ではこの他にシンクからの二次汚染を防止するために洗浄、殺菌、清潔に保つことが追加された。
原材料搬入時の温度管理、冷蔵庫・冷凍庫の温度管理、調理済みの食品の保存温度は微生物が増殖しない10(C以下、65℃以上の管理など改訂版でも特に追加項目はない。
※ 本稿は、東京電力の「電化厨房ドットコム」メルマガに2008年9月~2009年2月(10月は除く)まで連載されたものです。