2021.07.15
財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
環境検査部 技術部長 瀬戸 博
水道事業体が水質検査を委託する登録検査機関の一部で不正が発覚したことや過度な価格競争に起因するとみられる水質検査の質の低下が懸念されることから、厚生労働省は水質検査の信頼性確保のための方策を検討するため、平成22年5月に検討会を設置し、11月に報告書をとりまとめた。また、このことに関連して水質検査の外部精度管理の見直しが行われた。本稿では、これらの点について概要を紹介する。
水道法第20 条に基づき、水道事業者、水道用水供給事業者及び専用水道設置者(以下、「水道事業者等」という)は水質検査を義務づけられている。自己検査ができない水道事業者等は厚生労働大臣の登録を受けた者(以下「登録検査機関」という)等に委託して検査を行うことが認められており、水道事業者等が水質検査を登録検査機関に委託する機会は年々増加している。
一方、一部の登録検査機関において水質検査の不正行為が発覚するとともに、検査料金の行き過ぎた価格競争に起因した水質検査の質の低下が懸念される等、第8回厚生科学審議会生活環境水道部会(平成22年2月2日)において問題提起された。
こうした背景の下、水道事業者等が登録検査機関に水質検査を委託する際の水質検査の信頼性を確保するための方策を検討するため、厚生労働省健康局水道課内に「水質検査の信頼性確保に関する取組検討会」を設置し、平成22年5月から6回にわたり審議を行い、パブリックコメントも踏まえた報告を11月にとりまとめた。
報告では、水道事業体、登録検査機関に対して行った調査の結果等から、水質検査を巡る課題について整理した。
水道事業体は、水質検査を委託した際に、水質検査結果書だけを受領し、精度管理状況や検査内容の確認を行っていないこと、登録検査機関以外の機関に委託していること、臨時検査の取り決めがないこと、水質検査が困難なほどの低廉な価格で委託している場合があること等が明らかとなった。
登録検査機関については、試験の操作や試料の採取が必ずしも検査法告示や標準作業書に定められた方法で行われていないこと、水質検査を再委託する事例や水道事業者等と直接契約しない等契約形態が不適切であること、検査料金が受注競争や委託者の価格設定に応じて低料金化し、検査設備の保守や人材の確保といった面にしわ寄せが生じかねない状況であること等が明らかとなった。
これらの課題を踏まえ、水質検査を自ら実施する場合も、委託する場合も、水道事業者が検査結果に責任を持つことを前提に、水道事業者、検査機関そして国を含めた関係者が一体となって水質検査の信頼性の確保を図るべきでとした上で、それぞれの取組の方向性や講じるべき具体的な措置を示した。
一定の価格競争が生じる場合においても水質検査の精度を確保するための必要な費用を負担した上で、登録検査機関への適切な業務委託(直接契約、速やかな検査等)と検査実施状況の確認等
試料採取、運搬方法や試験方法の明示、再委託の禁止、検査料金の積算根拠の明確化等
検査機関の登録、更新時の審査の充実、実地調査等による指導及び監督等
信頼性確保取組検討会の提言を踏まえ、平成23年1月に開催した水道水質検査精度管理検討会(以下、「精度管理検討会」という)において、是正措置が不十分な登録検査機関を明確にすべく、平成22年度外部精度管理調査から、(1)これまでの統一試料のZスコアー等によるS、A、B、Cの4段階評価を、検査結果だけでなく、実地調査の結果等を含めた適正、要検証の2段階評価に見直すこと、(2)評価事項の対象となる実地調査に関して、対象機関の選定方法及び調査方法等を見直すこと、(3)適正機関を公表するとともに、要検証機関に該当した機関は、今後、厚生労働省が行う日常業務確認調査等により水質検査業務の改善が見込まれるか確認すべき機関とすることが了承された。併せて、平成23年度外部精度管理調査から、(1)水道事業者等の調査対象機関を拡充すること、(2)試料調製会社から試料を直接有料で購入する機関を参加機関とすることが了承された。
判定手法をGrubbs検定(判定基準:検定統計量が5%棄却限界値以上)に変更する。
実地調査は、Grubbs検定で棄却される項目を含む等、成績が不良であった機関に対して行う。統一資料調査及び実地調査の評価を踏まえ、「適正」、「要検証」の2段階評価を行う。
対象機関の拡充:従来の検査機関に加えて、都道府県認可水道事業者及び水道用水供給事業者も対象とするとともに、調査対象項目の一部項目を自己検査できる水道事業者、水道用水供給事業者及び地方自治体が有する保健所や衛生研究所等の検査機関も参加を認める。
試料は有料とする。
注: Grubbs検定
統計的に異常値を判定するための手法の一つ。n個のデータがあるとき、それを大きさの順に並べる。最大値Xnが異常値であるかどうかを判定するには、(Xn-X)/sを計算し、この値が棄却限界値以上であれば異常値と判定する。ここでXは平均値、sは標準偏差である。