小規模貯水槽水道の現状

2021.07.15

財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
営業部 井上 太

貯水槽と呼ばれるタンクに水をためてから飲料水を供給している施設は、貯水槽の適切な維持管理が行われていないと、思わぬ水質汚染事故が発生する可能性があることから、水道法でその管理基準や定期的な給水施設検査、水質検査の実施などが義務づけられている。

しかし水道法では、飲料水を供給する側である「水道事業者」や「水道用水供給事業者」、団地や学校などのような規模の大きな施設に水を供給している「専用水道」、受水槽の有効容量の合計が10立方メートルを超える「簡易専用水道」に対して、施設の維持管理を適切に行うための管理基準や検査の方法などが定められているが、受水槽の有効容量が10立方メートルに満たない「小規模貯水槽水道」については、そのような法規制はない。

このような状況を補うべく各地方自治体においては、小規模貯水槽水道における施設の維持管理に関する条例や要綱などにより規制、指導などを行っているが、それら小規模貯水槽水道施設の管理状況の実態はまったくといっていいほど明らかになっていない。

当科学センターは、設置者や管理者からの依頼があれば小規模給水施設として、受水槽の有効容量が10立方メートル以下の施設についても、簡易専用水道に準じた検査を実施してきた。
検査を希望する施設は、管理会社が施設の維持管理を行っているような比較的規模の大きなビル、学校、病院、福祉施設などがそのほとんどであり、設置者自らが管理を行っている小規模貯水槽水道施設の実態は、見えていないのが現状である。

こうした中、厚生労働省では健康科学総合研究事業として、麻布大学の早川哲夫先生を中心に「貯水槽施設、特に未規制の小規模施設の実態把握と設置者を対象とする管理運営マニュアルの策定に関する研究」をまとめている。

この研究によると、全国で100万件を超える貯水槽水道の衛生を確保するためには、施設の設置者が管理意識を持ち、適切に管理運営が行われることが必要であること。行政や水道事業者は設置者を指導する際の手段を用意すること。
検査機関、貯水槽清掃事業者、行政機関などの連携のあり方について検討し、設置者の立場に立った貯水槽水道の管理運営の適正化マニュアルを貯水槽水道に関係する全ての者に普及していく必要があるとしている。

以上のことから、現在の小規模貯水槽水道施設における衛生管理は、まだまだ十分な状態であるとはいえない。施設の利用者が安心して飲料水を口にすることができる生活環境づくりのためには、簡易専用水道と同等の維持管理に関する規制や基準を、水道法に設けることが必要と考える。

当科学センターのような厚生労働大臣登録検査機関が、簡易専用水道検査機関に属する専門の知識と経験を有した検査員により、定期的に施設を訪問し、管理の状態に関する検査を行うことは、設置者や管理者に、貯水槽や飲料水に対する衛生管理の確認を深め、水質汚染事故を未然に防止するための最も効果的な手段であることは間違いない。

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