貯水槽水の従属栄養細菌汚染の実態

2015.12.04

2015年12月4日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
臨床微生物検査部 検査チーム 津藤 通孝

水道法では、飲料水の安全性の指標として一般細菌や大腸菌群検査が義務化されています。しかし水道水中には一般細菌が検出されない場合でも細菌が多数存在しています。

その一つが従属栄養細菌です。飲料水を汚染する原因の一つである従属栄養細菌は国内の貯水槽中を対象とした調査は殆どないことから、飲料水供給工程及び処理方法の質的評価に資するために、実験モデル貯水槽水や設置されている貯水槽水について従属栄養細菌の汚染の実態調査を行いましたのでその成績を紹介します。

1. 従属栄養細菌〔Heterotrophic Plate Count〕とは

従属栄養細菌は、一般細菌より低濃度の有機物を含む培地(R2A寒天培地)を用い、低温度(20~30℃)で長期間(7日)培養したときに集落を形成する細菌の総称です。従属栄養細菌は病原微生物の存在とは直接関連はないが、一般細菌よりも多数検出されるため、浄水処理による微生物除去や消毒効果の判断指標、また配水系統での細菌繁殖等による水質劣化の評価指標となることから水道法では1mLあたりの集落数が2,000個以下を目標値とされています。

2. モデル貯水槽における従属栄養細菌の動態

モデル貯水槽(大きさ1m3)を設置し、市水道水を入れ残留塩素と水温、一般細菌及び従属栄養細菌を経日的に調査しました。貯水槽水の従属栄養細菌検査はR2A培地を用いて、30℃、7日間培養を行い、培養3日以降に発育してきた集落を従属栄養細菌としました。

夏季の調査(水温25℃以上)

従属栄養細菌数は検査開始時から1ml中に1個含まれていた。1日で96個検出され、その後6日までは、ほぼ同じ菌量であった。残留塩素濃度が0.1mg/l以下減少した7日以降は従属栄養細菌数が顕著に増殖し、15日後で104/mlでありました。

秋季の調査(水温15℃以上)

従属栄養細菌数は検査開始時から5個含まれていたが、10日まではほぼ同一菌数で経過した。15日で12個検出、以降25日まではほぼ同じ菌であったが、残留塩素濃度の減少と共に104個にまで増殖しました。

冬期の調査(水温12℃以下)

従属栄養細菌数は2日後で2個/10ml検出されたが、以降7日までは陰性であった。11日からは5個以下の菌数で毎回検出されたが、顕著な増殖は認められませんでした。

3. 水槽壁面に付着した従属栄養細菌 

モデル貯水槽の壁面の従属栄養細菌数は壁面と底部では10cm2 当たり 104個で、一般生菌数はそれに比して低く300個 以下でした。繋ぎ目の従属栄養細菌数は菌数が高く105個でした。

4. 設置貯水槽からの従属栄養細菌の検出

2012年1月から2013年11月まで東京都内の学校、事務所、診療所、飲食店、病院、高齢者施設、給食センター、教育施設の貯水槽、計114件を調査対象としました。東京都内の設置貯水槽、計114件を対象に従属栄養細菌を検査した結果、112件(98.2%)から検出され、検出菌数は15件が1個以下/ml、55件が1~10個/ml、28件が11~100個/ml、14件が101~1000個/mlで大多数が10個以下でした。気温の高い夏季や秋季の従属栄養細菌数は100個以上が12件(16.9%)であり、冬季の成績より高い。

まとめ

水道水に含まれる従属栄養細菌の経時的変動を明らかにするためにモデル貯水槽で検討した結果、従属栄養細菌は残留塩素が含まれる水道水から検出され、塩素抵抗性の高い菌であることを明らかにしました。貯水槽中での従属栄養細菌の増殖は残留塩素の低下や水温の影響があることが分かりました。

また、貯水槽壁面には大量の従属栄養細菌汚染が認められ壁面にバイオフィルムを形成していることが推察されました。設置されている貯水槽からは98.2%から従属栄養細菌が検出され貯水槽の水には普遍的に本菌汚染があることを明らかにしました。また、貯水槽の回転数、有効容量、清掃日、残留塩素などの管理面では残留塩素が低い場合や回転数が低い場合に従属栄養細菌の菌数が高い傾向にありました。

これらの基礎的調査から貯水槽水の従属栄養細菌の増殖抑制やバイオフィルム形成阻止など衛生管理の重要性を指摘することができました。

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