このたび、たいへん多くの優れた研究テーマが応募されました。選考委員会による厳正なる審査を経て、当法人の経営会議にて協議した結果、栄えある第9回 食と環境の科学賞の受賞者を決定いたしましたので、発表いたします。
受賞された方々には、こころよりお祝い申し上げます。
※ 「山田和江賞」は、当財団が戦後10年間休止していた事業を再建し、平成26年に享年103で亡くなられた故山田和江名誉理事長・医師の50余年の功績を記念して創設されました。40歳以下の遠山椿吉賞応募者に対し、その優秀な研究成果を顕彰するとともに、研究の更なる発展を奨励する制度です。
受賞者 | 馬 建鋒 岡山大学 資源植物科学研究所 教授 |
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テーマ名 | 穀物有害元素集積機構の解明と低集積品種の育成 |
工業化や都市化によって、世界的に多くの農地がカドミウムやヒ素のような有害元素によって汚染されている。これらの有害元素は作物に吸収され、食物連鎖を介して我々の健康に悪影響を与える。公害病の一つであるイタイイタイ病は、高濃度のカドミウムを含むコメを摂取し続けたことが原因である。またヒ素の慢性中毒は世界で4000万人もの被害者がいるとされている。したがって、食品中のこれら有害元素の軽減は我々の健康上きわめて重要である。
受賞者は、主なカドミウム摂取源であるイネとオオムギにおけるカドミウムとヒ素の集積機構を分子レベルで解明し、これら有害元素の吸収、根から地上部への転流及び種子への分配に関与するカギ遺伝子を世界に先駆けて発見した。またカドミウム集積の品種間差を利用して、関連する遺伝子を同定し、繰り返し交配で安全でカドミウム低集積のイネやオオムギ品種の育成に成功した。これらの新品種は収量や品質にほとんど影響なく、種子中のカドミウム濃度が大幅に低減されていた。またこれらの素材は、今後多くの有害元素フリーの安全な作物の作出にも大きく貢献できる成果となった。
受賞者 | 平田 祐介 東北大学大学院 薬学研究科 助教 |
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テーマ名 | 食品中の多様なトランス脂肪酸の生体作用機構に関する研究 |
トランス脂肪酸は、循環器系疾患などの諸疾患との疫学的関連性から、食品中含有量や摂取量に対する様々な対策や規制が行われてきた。しかし、脂肪酸種間の機能的な違いや、関連疾患の詳細な発症機序は不明であった。
受賞者は、工業的な製油・食品製造過程で産生される人工型トランス脂肪酸が細胞死や炎症を促進する一方、天然由来の食品に由来する天然型トランス脂肪酸には上記のような毒性作用が認められないこと、トランス型の多価不飽和脂肪酸(PUFA:EPAやDHAなど)には、脂質酸化に伴う細胞死を抑制する効能を見いだした。
本研究成果は、トランス脂肪酸の分子種間で異なる生体作用の包括的な理解、適切なリスク管理・コミュニケーションや、疾患予防・治療への応用に貢献可能である。
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