遠山椿吉記念 第1回 食と環境の科学賞 受賞者発表

遠山椿吉記念 第1回 食と環境の科学賞 受賞者発表

このたび、厳正なる審査の結果、栄えある第1回遠山椿吉賞受賞者が決定いたしました。

また、特別に奨励賞として顕彰すべき受賞者について選考委員会より推薦があり、遠山椿吉賞の趣旨に鑑み、財団法人東京顕微鏡院および医療法人社団こころとからだの元氣プラザ合同の経営会議において承認されました。心よりお祝い申し上げます。

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遠山椿吉記念 第1回 食と環境の科学賞
受賞者
西尾 治
国立感染症研究所 感染症情報センター 研究員
テーマ名
「ノロウイルスによる食中毒の発生要因の解明と予防策の樹立に関する研究」
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遠山椿吉記念 第1回 食と環境の科学賞 奨励賞
受賞者
川崎 晋
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所
テーマ名
「食品衛生微生物の簡易迅速検査法の開発と有効性の評価、食品衛生向上手法の開発」

授賞式および記念講演は、平成21年2月4日(水)ホテルメトロポリタンエドモントにて開催されました。

授賞式の模様はこちら

「遠山椿吉記念 第2回 食と環境の科学賞」の応募期間は、平成22年2月1日より6月30日です。奮ってご応募ください。

研究成果の概要:遠山椿吉記念 第1回 食と環境の科学賞

受賞者西尾 治 ( 国立感染症研究所 感染症情報センター 研究員 )
テーマ名ノロウイルスによる食中毒の発生要因の解明と予防策の樹立に関する研究

背景

近年、ノロウイルスによる食中毒事件が多発し、厚生労働省に届けられた食中毒事件のうち、ノロウイルスによる患者数は2001年以降第1位であり、2006年は全体の71%、2007年は56%を占めており、ノロウイルスによる食中毒の防止は緊急課題である。

調査・研究のねらい

ノロウイルスによる食中毒の発生要因の解明と予防策を樹立のため以下の研究を実施した。

  1. カキならびに患者便から高感度ノロウイルス検出法の開発:これにより、検査精度を高める。
  2. 生食用カキのノロウイルス汚染要因の解明と食中毒発生の関連性:ノロウイルスによる食中毒の原因食材は二枚貝が最も重要であり、二枚貝のノロウイルス汚染実態と食中毒事件発生との関連性を総合的に解明する。
  3. 輸入生鮮魚介類のノロウイルス汚染の実態解明:わが国には大量に二枚貝が輸入されており、それらのノロウイルス汚染実態を解明すると共に今後の食中毒発生の予防策を樹立する。
  4. 食品取扱者・調理従事者を介する食中毒の発生要因の解明:ノロウイルス患者のウイルス排泄状況から調理従事者を介する食中毒の発生要因を解明し、防止策を樹立する。

調査・研究の成果

  1. カキからのノロウイルス検出法の開発では、アミラーゼ処理、遠心法を改良し、カキからのノロウイルス検出感度を高め、ノロウイルス検出の検査精度を向上させている。
  2. 生食用カキの汚染は、感染者から糞便と共に排泄されたウイルスが河川、海域を汚染し、カキの中腸腺に取り込まれることを分子疫学的に証明した。カキのノロウイルス汚染は人の流行の規模、養殖海域の環境要因として養殖筏の位置、降雨量、海流の影響を受けることを見出している。カキの安全性の確保には、浄化設備の改良が必要で、ノロウイルスを中腸腺から除去する浄化法の開発も不可欠であり、現在この研究に積極的に取り組んでいる。
  3. 輸入生鮮魚介類のノロウイルス汚染は16%に認められ、食中毒発生の危険性を提唱し、わが国に存在しないノロウイルスの遺伝子型も進入してきていることを明らかにした。
  4. 食品取扱者を介する事件の要因では、感染者の糞便1gあたり1億個以上、嘔吐物1gあたり100万個以上を排泄し、排便後あるいは排泄物の処理後の手洗いの不足が原因となっていることを指摘した。不顕性感染者が存在し、ウイルスを大量に排出し、食中毒発生の要因の一つとなっている。また、感染者のウイルス排泄期間が通常2週間程度、長い人では1ヶ月程度続くことを見出し、症状の消失後も、食品の取扱いに徹底した注意が必要であることを報告している。

【 受賞対象業績の概要説明 】

特に食品衛生と感染症対策に対する独創性、将来性、有効性、経済性、貢献度等について

申請者は、厚生労働省のノロウイルスQ&Aの作成の際には中心的な役割を担うと共に、得られた研究成果は多くの部分で作成の基礎データとして活用 された。また、厚生労働省の大量調理マニュアル改正のノロウイルスに関する部分でも得られた研究成果を基に作成された箇所が多く、ノロウイルスによる食中 毒発生防止に大きく寄与している。

輸入食品の汚染実態を明らかにし、輸入二枚貝による食中毒事件も報告している。これらの食品による食中毒発生防止には、過熱して食すること。二枚貝の中腸 腺を取り除くときには感染防止に十分に注意を払うと共に、二枚貝のパック詰めの水もノロウイルスに汚染されている危険性があり、二枚貝の調理は最後に行 い、使用した器具、シンク等の消毒が感染防止に重要であることを広報している。

検査法の開発では、平成9年からカキ及び患者の糞便からのノロウイルス検出の改良した検査方法を、全国の地方衛生研究所ウイルス担当者670名に技術研修 を行い、検査法を広く普及すると共に、全国の標準化に努めている。さらに検査に必要な陽性およびインナーコントロールを全国の地方衛生研究所に配布し、ノ ロウイルス診断の正確を保つために寄与している。

最近申請者の研究グループの地方衛生研究所ウイルス研究者3名は国の研究機関の室長に就任しているなど、研究者の育成にも力を注いでいる。

研究成果の概要:遠山椿吉記念 第1回 食と環境の科学賞 奨励賞

受賞者川崎 晋 ( (独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 )
テーマ名食品衛生微生物の簡易迅速検査法の開発と有効性の評価、食品衛生向上手法の開発

背景

昨今の大規模食中毒事例の多発や、HACCP認証を取得した製造業者が大規模食中毒を引き起こすなどという事態は極めて重大な社会不安を与えている。食品製造現場での衛生管理業務は以前に増して重要な責務を持つようになった。食品の品質管理において微生物検査は衛生管理の必至項目であるが、検査結果を得るのに2~数日を要すために、製品の安全性保証や製造現場での衛生状態の改善を困難にしている。加えて微生物検査は専門的知識や技術と多大な労力を必要とされ、食品製造現場では要望があるものの簡単に実施できない現実がある。

調査・研究のねらい

上記の社会的背景から、誰もが実行可能かつ迅速に行える微生物検査法の開発が望まれていた。同時に、新規開発技術は実際に食品製造現場で有効活用出来るのか、科学的根拠に基づいた評価結果の提供が求められていた。候補者は食品製造現場での自主衛生検査の開発・普及を目的として、「食中毒菌検査」「一般微生物検査」「日常検査」の3つに自主衛生検査手法を区分し、各区分において、様々な食品製造現場の要望に見合った検査手法の開発およびその有効性評価結果について研究を行った。

調査・研究の成果

「食中毒菌検査」として、死亡例が報告される病原性大腸菌O157:H7・サルモネラ・リステリアモノサイトゲネスの同時迅速検査法9)を開発・特許出願した。本法では25g中の検体中に1細胞の標的菌が生存すれば検出可能、40種類以上もの食材においても適応できた。現在、試作キットを完成しており普及に向けた妥当性試験を実施している。また、米国農務省と共同でカンピロバクター属についてPCR-RFLPによる迅速種同定法とPCRによる直接検出法1)を開発、特許出願および論文に報告した。本菌は食中毒発生件数が多く、種同定には特殊な培養条件と多数の生化学性状試験を要するが、本法により少量の菌体から簡易迅速に同定可能なことを示した。本技術は疫学調査や汚染リスク解析への活用が、将来期待できる。

「一般微生物検査」では化学発光法による微生物生菌の迅速検査法3,14,17)を開発し農水省の競争的資金プロジェクトで製品化した。本法の活用例として牛乳中の大腸菌群検査を迅速・低コストで行えることを示した。その他、酸素電極法による迅速微生物測定法22)を用いて生野菜中の大腸菌群の迅速測定の可能性を示し、既に食品製造現場での自主検査手法として普及している。

「日常検査」については、タンパク質ふき取り検査法の有効性を評価4)した。実際に食品製造現場で本法を活用して微生物汚染などとの相関を求めたところ、汚染原因との高い一致率が得られ、安価かつ誰もが活用できる迅速汚染判定手法であることを確認、自主衛生管理の向上や食品衛生の啓蒙に活用できることを示した。また、流通段階での温度管理不備を安価・安全に誰でも肉眼で確認可能な温度インジケーター12)を開発・特許化と製品化に携わった。生産現場から食卓までの温度を一括管理できるため、食中毒リスク回避に有用な手段となることを示した。

【 受賞対象業績の概要説明 】

特に食品衛生と感染症対策に対する独創性、将来性、有効性、経済性、貢献度等について

米国FDAによればサルモネラ・大腸菌O157:H7・リステリアモノサイトゲネス・カンピロバクターの病原微生物だけでも、米国内での病院患者数は 30,000人以上、死者数1,600名以上と推定され、経済的損失は60億US$を超えると試算している。食中毒菌対策には迅速な原因物質の同定が重要 であり、迅速検査法の開発は原因究明や感染予防対策に役立つものである。候補者は食品製造現場での普及を見据えて、自主衛生検査法の開発や実際の食品製造 現場での評価試験を行い、積極的に成果を公表している。また、特許出願や実際の製品化に直接携わることで研究成果の普及にも努めており、その成果が導入さ れた実例もある。既に多くの商業雑誌や学術誌の総説・書籍執筆の経験もあり、食品衛生向上のための研究成果が社会的にも評価されている。国内の研究発表は 勿論のこと、国際的活動では国際学会もしくは日米会議に参加し、研究成果を発表している。さらに米国の学術書「Microbial Food Contamination(CRC press)」に遺伝子手法による微生物迅速検査技術に関する章の執筆にも携わり、国際的にも貢献している。

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