遠山椿吉賞は、当財団の創立者で初代院長である医学博士、遠山椿吉の公衆衛生向上と予防医療の分野における業績を記念し、その生誕150年、没後80年である平成20年度に創設した顕彰制度です。公衆衛生の領域において、ひとびとの危険を除き、命を守るために、先駆的かつグローバルな視点で優秀な業績をあげた個人または研究グループを表彰するものと位置づけています。
令和2年度は「食品の安全」「食品衛生」「食品の機能」「食品媒介の感染症・疾患」「生活環境衛生」を重点課題としました。
「遠山椿吉記念 第7回 食と環境の科学賞」は「大気汚染物質、環境化学物質によるアレルギー悪化メカニズムの解明と悪化影響スクリーニング法の開発」というテーマで高野裕久氏(京都大学大学院 地球環境学堂 地球益学廊長、環境健康科学論分野 教授)が受賞しました。
「遠山椿吉記念 第7回 食と環境の科学賞」を受賞した高野裕久氏
また、40歳以下の研究者を対象とした「遠山椿吉記念 第7回 食と環境の科学賞 山田和江賞」は「水中病原ウイルスの浄水処理性の詳細把握とウイルス処理に有効な浄水技術の新規開発」というテーマで白崎伸隆氏(北海道大学大学院 工学研究院 環境工学部門 准教授)が受賞しました。
「遠山椿吉記念 第7回 食と環境の科学賞 山田和江賞」を受賞した白崎伸隆氏
当初、令和3年2月2日(火)、ホテルメトロポリタンエドモントにて授賞式・受賞記念講演およびレセプションを開催の予定でしたが、新型コロナウイルスの感染状況に鑑み、中止となりました。
山田 匡通
当法人理事長、医療法人理事長
この度「遠山椿吉記念 第7回 食と環境の科学賞」を受賞された高野裕久先生は、ディーゼル排気微粒子(DEP)の気管支喘息への悪影響を世界で初めて明らかにし、その主要因物質の報告を行うなど、動物および細胞レベルの公衆衛生分野で貢献されたことに対し、感謝とともに、受賞を心よりお慶び申し上げます。
「山田和江賞」は、浄水処理過程において、ウイルスの検出や除去技術の開発を行い、iPCRの検出技術を水処理過程に応用するなど、高感度検出法としても意義が高い研究をされた、白崎伸隆先生が受賞されました。今後ともそのご活躍に強く期待したいと思います。
遠山椿吉賞は、「公衆衛生向上をはかる創造性」「臨床現場での予防医療の実践」「これからの人の育成」を本質とした賞と位置づけています。奨励賞の趣旨を持つ「山田和江賞」もあり、若い研究者の方々の積極的なご応募を通して、ますますわが国の公衆衛生、予防医療分野の発展につながれば幸いです。
また、選考委員の皆様の多大なるご尽力に、心から厚く御礼を申し上げます。
高野先生、白崎先生の、ますますのご活躍・ご健勝を心より祈念し、お祝いの言葉とさせていただきます。誠におめでとうございます。
渡邉 治雄 氏
国立感染症研究所 名誉所員〈前所長〉、元国際医療福祉大学大学院 教授
「遠山椿吉記念 第7回 食と環境の科学賞」の選考経過について、お話しさせていただきます。選考委員会では、公平性を保つため、選考委員が応募者と利害関係者に当たる場合には評価から外れております。また、①公衆衛生への貢献度、②研究技術の独自性、③技術の普及およびその可能性、④社会へのインパクトという四つの選考基準を主軸に厳正に評価を行っております。
本年度の遠山椿吉賞には、京都大学大学院 地球環境学堂 地球益学廊長、環境健康学論分野 教授の高野裕久先生「大気汚染物質、環境化学物質によるアレルギー悪化メカニズムの解明と悪化影響スクリーニング法の開発」に決まりました。
高野先生は、アレルギー疾患に対するディーゼル排気粒子(DEP)等の環境因子の影響を、動物および細胞レベルで調べた独自性・新規性の高い研究成果を上げられました。特に大気汚染物質であるディーゼル排気微粒子(DEP)が気管支喘息を悪化させることを世界で初めて明らかにし、DEP中の有機化学物質(群)のキノン類が悪化の主要因であることを報告しました。選考委員会としては、今後公衆衛生学的な研究をさらに促進していただき、ヒトの健康増進に貢献していただくことを期待しております。
続いて山田和江賞は、北海道大学大学院 工学研究院 環境工学部門 准教授 白崎伸隆先生「水中病原ウイルスの浄水処理性の詳細把握とウイルス処理に有効な浄水技術の新規開発」に贈呈されることになりました。
白崎先生は、浄水処理過程においてノロウイルス等のウイルス検出にiPCR法を用いた技術の開発を行うとともに、その除去技術の開発を行い実際の現場における応用を目指されております。37歳という若手の研究者ですが、すでに英文論文を54編発表しており、将来性が高い研究者であると評価されました。まさに山田和江賞に相応しい研究者であります。
高野先生、白崎先生の研究が今後さらなる発展を遂げますことを祈念いたしまして、ご挨拶とさせていただきます。どうもおめでとうございます。
大塚 柳太郎 氏
一般財団法人 自然環境研究センター 理事長、元国立環境研究所 理事長、
東京大学 名誉教授
環境中のアレルゲンおよび病原ウイルスによる健康影響は、人々のライフスタイルが変化し、大気・水・化学製品など身近な環境因子も変化する中で急増し重篤化する傾向にあり、重大な医学・公衆衛生学的脅威になっています。 これらの健康影響を予防・軽減・根絶するには、医学・生命科学・公衆衛生学と環境科学に基づくアプローチを総合することが必要で、大規模な組織的取組が有効になる一方、広範な分野に造詣が深く旺盛な探求心をもつ研究者の独創的な取組も不可欠といえます。
高野裕久氏は内科医の臨床経験をもつ研究者で、2010年まで10年余にわたり勤務した国立環境研究所では、環境健康研究領域の領域長として、その後は京都大学教授としてCREST(科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業)のプロジェクト代表者を務めるなど、環境学と医学を統合する研究のパイオニアとして活躍しています。
高野氏の中心テーマは「大気中微粒子」「アレルギー」「免疫」であり、環境測定・臨床観察による健康影響の実態把握、分子機構に基づく原因究明、予防・軽減のための手法開発等で画期的な成果をあげてきました。同氏の研究対象は、ディーゼル排気微粒子、ダニアレルゲン、食品・包装容器・難燃剤・樹脂材料等に含まれる広範な化学物質におよび、広く国民の健康の維持増進と安全・安心に寄与しています。
山田和江賞の受賞者の白崎伸隆氏は、培養が困難な水系感染症の処理性をテーマとし、ノロウイルスについてはウイルス様粒子の作製とともに、粒子の定量を可能にする免疫PCR法の開発に世界に先駆けて成功しました。さらに、浄水処理過程における病原ウイルスの不活性化に取り組むなど、水道水の安全性の向上を通し国民の健康と安全・安心に貢献しています。
本年度の『遠山椿吉記念 第7回 食と環境の科学賞』を受賞された両氏のさらなる活躍を祈念し、祝辞といたします。
高野 裕久 氏
京都大学大学院 地球環境学堂 地球益学廊長、環境健康科学論分野 教授
この度は、遠山椿吉記念 食と環境の科学賞を賜り、誠にありがとうございます。
光栄の至りに存じます。
私は、内科医としての臨床経験を活かしつつ、環境医学研究を続けてまいりました。特に、臨床の現場より得た問題意識を基に環境医学研究を展開し、『環境要因が健康に及ぼす影響とその分子機構を明らかにし、得られた知見を健康影響の予防・軽減・治療に応用する』ことをめざしてまいりました。
今回、生活環境を広く汚染する環境化学物質や大気汚染物質のアレルギー悪化影響を指摘し、分子メカニズムを解明した点、多くの環境汚染物質や消費者製品の悪化影響をスクリーニング、評価できる方法、システムを開発、構築した点等を評価していただいたことを、大きな誇りに思います。
今後も、アレルギーの医学的、環境学的対策の提案を含め、国民、特に、将来を担う若者の健康に役立てるため、公衆衛生、予防医学的研究や実践に精進してまいりたいと存じます。本研究にご協力いただいた関連諸氏に深く感謝申し上げ、受賞の御礼のあいさつに代えさせていただきます。
白崎 伸隆 氏
北海道大学大学院 工学研究院 環境工学部門 准教授
この度は、大変栄誉ある山田和江賞を授与いただきまして誠にありがとうございます。ご選考いただきました先生方、ならびに東京顕微鏡院関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
水道における病原微生物対策として、細菌については、水道水質基準項目に一般細菌および大腸菌が規定されており、浄水処理効果の評価や水道水の水質管理が行われています。また、原虫については、水道におけるクリプトスポリジウム対策指針により、水道水のリスク管理が行われています。その一方で、ウイルスについては、細菌や原虫に比べて、水道に関わる科学的知見が限定されているのが現状です。
このような状況を踏まえ、ウイルスについての水道水の安全の根拠を科学的にしっかりと示すことができる枠組みを作るべく、ウイルスの検出・定量技術、浄水処理性評価手法、浄水処理技術に関する研究・開発を行ってまいりましたが、これらの成果を高く評価していただき、大変に嬉しく思っております。
今後も、本受賞を励みとして、実社会への適用に資する研究・開発を実施していけるよう、努力と挑戦を続けていく所存です。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。