遠山椿吉記念 第7回 健康予防医療賞 受賞者発表

遠山椿吉記念 第7回 健康予防医療賞 受賞者発表

このたび、たいへん多くの優れた研究テーマが応募されました。選考委員会による厳正なる審査を経て、当法人の経営会議にて協議した結果、栄えある第7回 健康予防医療賞の受賞者を決定いたしましたので、発表いたします。

受賞された方々には、こころよりお祝い申し上げます。

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遠山椿吉記念
第7回 健康予防医療賞
受賞者
飯島 勝矢
東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授
テーマ名
フレイル予防を軸とした新しい介護予防実現のための官民協働システム構築
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遠山椿吉記念 第7回 健康予防医療賞
山田 和江賞
該当者なし

※ 遠山椿吉賞応募者のうち、優秀な研究成果をあげており、これからの可能性が期待できる40歳以下の方に対して、平成27年度に「山田和江賞」を創設しました。「山田和江賞」は、当財団が戦後10年間休止していた事業を再建し、平成26年に享年103歳で亡くなられた故山田和江名誉理事長・医師の50余年の功績を記念して創設されました。

研究成果の概要:遠山椿吉記念 第7回 健康予防医療賞

受賞者飯島 勝矢(東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授)
テーマ名フレイル予防を軸とした新しい介護予防実現のための官民協働システム構築

背景

人生100年時代を見据え、生涯を通じて健康で生きがいを持って暮らし続ける社会づくりが求められる。地域共生社会を推し進める中で、何歳になっても住み慣れた地域で過ごせる支援の仕組みと環境づくりが必要である。

高齢者の健康増進を図り、できる限り健やかに過ごせる社会としていくため、高齢者一人ひとりに対してきめ細かな保健事業と介護予防を実施することは大変重要である。しかし、現在の特定健診・保健指導制度にも諸問題が存在する。

具体的には、受診率が低く、制度として国民に十分に定着しているとは言えない。また、それにより健診でスクリーニングできる者が限られ、個人データが蓄積されないという課題もある。

調査・研究のねらい

従来の高齢者向けの健康診査においては、メタボリック症候群(以下メタボ)を軸とした生活習慣病予防のための保健指導を必要とする者を抽出し、その保健指導により有病者の滅少および重症化予防に力を入れてきた。

しかし、特に後期高齢者(75歳以上)の充実した日常生活を基盤とした健康のあるべき姿を考えるにあたり、後期高齢者の特性を踏まえて、各疾患の有無や管理状況の視点に加えて、総合的に心身状態及び日常生活を把握する必要がある。

そこで受賞者が注目したのが、全国の自治体において汎用性のある形で『フレイル(虚弱)』 状態を評価するシステム構築を目指すことである。多面的な視点(身体的・精神心理的・社会的など)から包括的に本人の健康状態を捉え、地域社会に根ざした形で、日常生活の見直しを促すことを可能とする新たな健康診査手法の開発、及び地域実装を通した汎用性のあるシステム構築を研究開発の狙いとした。

特に、以下の2つの狙いを設定した。①住民同士の集いの場を活用し、自助・互助の考えの下に、高齢住民主体の「フレイル予防への早期の気づき・自分事化」できる場を構築する、②既存の後期高齢者健診にフレイル予防の概念を盛り込んだ形で、新たな制度設計に関わり、全国の自治体に実施してもらう。

調査・研究の成果

研究①

高齢者の心身状態と日常生活を総合的に評価し、高齢者が自分事と感じる新たな健康診査(フレイル度の見える化)の仕組みを構築するため、2012年から大規模高齢者縦断追跡コホート研究(柏スタディ:無作為抽出自立高齢者2,044名、開始時平均年齢73歳)を実施し、サルコペニア(筋肉減少症)の自己簡易測定法開発及び要介護認定や死亡リスク予測能、オーラルフレイルという新概念構築と将来リスク予測、孤食も含めた社会性の多面的な低下とフレイルの危険性、など多様なエビデンスを創出した。

これらの新知見を活かし、地域高齢者をフレイルサポーターとして活用・養成し、高齢住民同士でのフレイル早期発見・予防プログラム『栄養(食/口腔機能)・運動・社会参加の包括的フレイルチェック活動』を考案した。すでに全国7 3市区町村で導入されており、2021年も多くの新規導入自治体が予定されている。また、この住民主体フレイルチェック活動システムを活用し、モデル自治体において以下の研究にも発展している。

(1)行政保有の国保データとフレイルチェックデータを突合し人工知能AI解析も利用した、介護予防を中心とした保健師地域活動の質向上研究。

(2)コロナ禍での生活不活発によるフレイル化 (いわゆる「コロナフレイル」) の新知見も見出し、現場でのリアルな集いとオンライン型の両面を融合した、アフターコロナ社会を見据えた地域での新しい集い方やつながり方を目的としたハイブリッド型フレイル予防システムを開発した。

研究②

厚生労働省保険局が主導する2020年4月からの新制度「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」の作成コアメンバーとなり、上記フレイル予防研究の知見や経験を活用して、後期高齢者向けの新質問票(15問) の作成に参画し、受賞者が考案したフレイルチェックからオーラルフレイル項目も含め採用された。

メタボ予防が軸であった従来の質間票から大きく変容し、多面的なフレイルの視点でチェックし日常生活の底上げを促す内容となっており、通称『フレイル健診』として各自治体の健診に導入されている。

受賞対象業績の概要説明

特に独創性、将来性、有効性、経済性、貢献度等について

  1. 健康寿命延伸のため、フレイル予防の概念を踏まえ、「①住民主体のフレイルチェック及びフレイル予防活動」と 「②自治体行政が主導するフレイル健診」の2つの流れを構築した。これは住民主体活動によるボトムアップ型と自治体の公的アプローチ型の両面をカバーしており、どの自治体でも導入可能な独創的なプラットフォームである。
  2. 高齢住民主体のフレイル予防活動システムに関して、単なる病気探しではなく、高齢住民同士が楽しく、かつ継続性を重視した新しい健康診査のスタイルであり、 全ての自治体に向けて汎用性のある全国共通基盤を構築した。 実際にフレイルチェックは半年毎の継続参加を必須としており、専門職の介入では実現できない行動変容も起こっている。
  3. 各自治体では、既存の国保データベースとフレイル健診データ(15問)との突合が精力的に進んでおり、疾患管理を軸とする保健事業と身体機能を軸とする介護予防の融合により、改めてハイリスク高齢者の抽出および適切な介入に向けての新しい方法論を打ち出すことが出来ている。 フレイルチェックデータとの突合にも発展している。
  4. 以上のように、まさに自助・互助による住民主体活動の促進と公的な予防施策を融合させたシステム基盤の創成であり、人生100年時代を健やかに過ごし生き切るための、 介護予防の有効的な機能強化にも結実する先進的な予防医療研究である。官民協働で地域を動かすこの取り組みが社会保障費の抑制にもつながることを期待し、現在、モデル自治体において医療経済的な視点での検証も併行して行っている。

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