遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞 授賞式

平成25年2月5日(火)、ホテルメトロポリタンエドモントにて「遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞 授賞式」が開催されました。

この賞は、当財団の創業者で初代院長である医学博士、遠山椿吉の公衆衛生向上と予防医療の分野における業績を記念し、その生誕150年、没後80年 である平成20年度に創設した顕彰制度です。

公衆衛生の領域において、ひとびとの危険を除き、命を守るために、先駆的かつグローバルな視点で優秀な 業績をあげた個人または研究グループを表彰するものと位置づけています。

遠山椿吉賞は「遠山椿吉記念 食と環境の科学賞」、「遠山椿吉記念 健康予防医療賞」の2部門あり、隔年で選考顕彰いたします。平成24年度は「食と環境の科学賞」において食品の安全と感染症、生活環境衛生を重点課題としました。

遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞は「マイコトキシンの毒性発現機序ならびに健康リスク評価に関する研究」というテーマで小西 良子氏(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部部長)が受賞しました。

 また、シックハウス症候群、化学物質過敏症および関連疾患の診断、治療、疫学、対策に関する研究の功績により、特例として「遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞 功労賞」を特設し、石川哲(元 北里大学医学部長、元 日本臨床環境医学会理事長、北里大学名誉教授)に贈呈されました。

「遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞」
を小西良子氏に授与
 右は当財団・医療法人の山田匡通理事長
「遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞 功労賞」
を石川哲氏に授与

授賞式ではまず、当財団の高橋利之副理事長・公益事業担当理事・当医療法人理事が開式の辞を述べ、選考委員長の柳沢 幸雄氏(東京大学名誉教授)による選考の経緯および講評、受賞者の紹介がありました。

続いて、当財団および医療法人の山田匡通理事長から小西氏に「遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞」、石川氏に「遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞 功労賞」が授与されました。

山田匡通理事長は、小西氏のご研究について、「先見的かつ素晴らしいご研究成果に、そしてまた、人びとの健やかないのちを守るため、我が国の公衆衛生向上にご尽力・ご貢献されたことに感謝申し上げます」と述べ、石川氏のご研究については、「シックハウス症候群、化学物質過敏症患者の苦しみを救うため、また、公衆衛生向上のためご尽力されました、その長年のご労苦に、心から敬意を表します。」と述べました。

祝辞を述べる山田匡通理事長

そして、「1世紀以上の歳月を経て、現代を生きる私たちもまた、遠山博士が追及してやまない「健康ないのち」という高い目標を目指して歩みを続けています。遠山椿吉賞がわが国のこの分野の将来を支える若手の研究者の目標や励みとなり、人材育成に大きく資することを念願し、また、このたび授賞された、小西良子先生、石川哲先生のますますのご活躍と、わが国の公衆衛生、食の安全と生活環境衛生の向上、発展と、皆様のご健康、お幸せを心より祈念いたします。」と 結びました。

山田理事長による祝辞の後、来賓として内閣府食品安全委員会の熊谷進委員長が祝辞を述べ、それに応えて小西氏と石川氏からそれぞれ、受賞についての挨拶があり、授賞式は終了しました。

小西氏による記念講演
石川氏による記念講演
迫力ある記念講演に熱心に聞き入る参列者

記念講演会終了後、会場を変えて行われた受賞記念レセプションでは、山田理事長、選考委員が挨拶し、塩見幸博財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター 統括所長の発声で乾杯が行われました。参加者は大いに交流を深め、レセプションは盛況のうちに終了しました。

レセプション会場にて
山田理事長長による
レセプションあいさつ
塩見統括部長の
発声による乾杯

授賞式祝辞、受賞者あいさつ

開会の辞より

開会の辞

高橋 利之
当財団副理事長、公益事業担当理事、当医療法人理事

当財団および医療法人の基本理念は、「すべての人びとのいのちと環境のために尽くす」ということです。そもそも財団法人東京顕微鏡院は、明治の細菌学者、遠山椿吉博士が120年前に創業し、35年かけてその基盤を築き、昭和2年財団を設立して後世に託したわけですが、戦後に再建された当財団は、すべての人びとに分け隔てなく、健康ないのちと、これを保てる生活環境を作り上げる、ということを究極の目標として、保健衛生の事業に尽力してまいりました。
その創業の精神は、当財団をルーツとする医療法人社団こころとからだの元氣プラザにおいても、時を超えて今に受け継がれています。

さて、本日は「遠山椿吉記念 食と環境の科学賞」の第3回目の受賞式となります。小西良子先生が遠山椿吉賞を、石川哲先生が、「遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞 功労賞」を授賞されることとなりました。

遠山椿吉なる人物が、どのような生き方をしたか、どのような実践の中から数多くの実績を上げてきたのかについては、お手元の資料をご覧いただき、この賞の狙うところ、その意義についてご理解いただければ、誠に幸いでございます。
 
本日はお忙しい中、このように多くの皆様方に、遠山椿吉賞授賞式にご参列いただき、共にお二人の受賞を祝福できますことをたいへん幸いに思っております。
今回の受賞が、日本の公衆衛生のますますの発展につながることを、心から祈念申し上げ、開式の辞と致します。
 

選考委員長講評より

選考委員長

柳沢幸雄
東京大学名誉教授 

第3回の選考にあたり、選考委員長を申し付かりました、柳沢幸雄でございます。それでは、選考の過程および講評を申し上げます。

昨年2月より募集告知を行い、6月末日には、8件の応募が寄せられました。今年度の重点課題である「食の安全」に4件、「生活環境衛生」に4件、ご応募いただいたわけですが、その一つひとつが、たいへん優れたご研究であり、幅広い分野にわたっておりました。
選考プロセスは、書類審査・選考委員会という2つのステップで実施しました。審査に際しては、本賞の趣旨と今年の重点課題を確認し、一定の選考のフィロソフィーに従って、受賞者を選んだわけでございます。

また、厳正を期すため、応募者と勤務先が同じ選考委員や推薦者である選考委員は、その応募者の評価や審議から外れることとして、選考を進めることとしました。

書類審査では、選考委員全員が、個別に応募書類を審査し、5段階評価しました。評価の軸は、(1)公衆衛生への貢献度、(2)研究・技術の独自性、(3)技術の普及の可能性、④社会へのインパクト、⑤推薦したいテーマと思うか、という5つです。全員の審査票を集計した資料は、あらかじめ各人がよく読んで、選考当日に臨みました。

選考委員会では、食品の安全分野、生活環境衛生分野において一人ひとりを審議し、最終審議に残す応募者を選び、最後に2つの分野をまとめて審議することとしました。

結果、[先駆的かつグローバルな視点]という遠山賞の趣旨に鑑み、小西良子(こにし よしこ)氏を遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞(遠山椿吉賞)に、また、遠山賞が、「これまで顕彰されることが少なく、公衆衛生向上に貢献した個人又はグループ」を顕彰するという趣旨をもつことから、石川哲(いしかわ さとし)氏の非常に優れた長年のご貢献に対しては、功労賞としてその顕彰を選考委員会から推薦することとなり、決定いたしました。

今年度は、重点課題に、「食品に関する調査研究やこれらの分析法の開発など食品の安全にかかわるもの」、と示されております。

小西先生のご研究は、マイコトキシンの毒性に関して、実験室の実験から厚生行政施策への反映まで、公衆衛生学的視点からシステマティックにアプローチしたものです。強いリーダーシップを持ってその研究をけん引され、国際的にも大きな貢献をした業績として、高く評価できるものであります。
石川先生は、長年にわたり、シックハウス症候群・化学物質過敏症の問題提起から診断法・治療法およびこれらの疾患の対策について多くの業績を残されている研究者であります。そこで、公衆衛生の領域でのグローバルな功績を称え、このたびの「功労賞」特設に至りました。

先駆的テーマであるマイコトキシンの健康被害を防ごうと研究にまい進された小西良子先生、また、シックハウス症候群・化学物質過敏症から患者の苦しみを救おうと、長期に亘って研究してこられた石川哲先生の受賞に、こころより、お祝い申し上げます。

選考委員長として、選考の過程を振り返りますと、この遠山椿吉賞の意義を強く感じます。
公衆衛生や予防医療は、個人個人の先見的な発想力や社会的使命に基づく地道な研究を必要としますが、基礎医学などとは異なり、研究者個人に光があたることの少ない分野であることは否めません。この遠山椿吉賞が、今後とも多くの優れた研究者の業績に光をあて、その偉業を公に称えることで、次世代を担う後進の育成にもつながれば誠に幸いであると思います。 

お二人にあらためて選考委員を代表して心からお祝いを申し上げまして、私の講評を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。
 

授賞式来賓祝辞より

授賞式来賓祝辞

熊谷 進
内閣府食品安全委員会 委員長

財団法人東京顕微鏡院、医療法人社団こころとからだの元氣プラザ、ならびに関係者の皆さま方におかれましては、本日のこの晴れがましい授賞式を迎えられるに当たり、心よりお喜び申し上げます。

さて、この度は、国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部長でおられます、小西良子先生におかれましては科学賞、それから、元北里大学医学部長で、同大学名誉教授でおられます石川哲先生におかれましては、功労賞を受賞されたということに対して、長年来の研究の同志として心よりお祝い申し上げます。

小西先生は、これまで食品衛生上重要な健康被害因子でありますマイコトキシン、これはカビ毒とも言いますが、につきまして、さまざまな角度から研究を進めてこられましたが、この度はその毒性発現機序、それから健康リスク評価についての研究で受賞されました。特にわが国の麦類での汚染が問題となる、いわゆる赤かび病菌が産生する毒素につきましては、動物を用いた免疫機能と内分泌機能に及ぼす影響、それから、その機序について研究を進めまして、その成果は広く国内外の関連研究者により高い評価を受けております。わが国のみならず、国際機関におけるマイコトキシンの健康リスク評価にそれら成果は生かされてきました。

また、食品の検査に必要な分析方法の開発研究や、わが国における食品汚染の実態調査に関しましても、研究班を立ち上げ、そのリーダーとして着実な成果を挙げ、わが国の食品衛生行政に必要な食品の規格基準の設定、あるいはその基礎となります健康リスク評価に貢献されてこられました。こうした業績は食品衛生に貢献するところ極めて大きいものでありまして、まさに今回の受賞にふさわしいものと言えるかと思います。
 
石川先生におかれましては、有機リン中毒をはじめ、微量環境化学物質による健康影響に関する研究分野におきまして、多大な貢献をされてこられましたが、この度は社会的に大変重要であり、また今日的な問題でもありますシックハウス症候群や化学物質過敏症に加えまして、関連疾患の診断、治療、疫学、対策に先駆的に取り組まれてこられたことに対し、功労賞が贈呈されました。

石川先生はこれら研究を先導する中で、基礎医学あるいは臨床医学的な立場から問題提起をされ、診断法や治療法を含め、これら疾患の対策に大きく貢献されてこられました。特に、空気を汚染している微量化学物質の人体影響に関しまして、環境要因を探り、診断法を確立し、世界に発信してこられたことは、まさにこの功労賞にふさわしい、輝かしい功績と言えるのではないかと思います。

以上のように、今回受賞されたお二人の先生方のご業績は、遠山博士が追求された公衆衛生向上、さらに予防医療推進という目標に合致するものでありまして、食と環境の科学賞受賞にまさにふさわしい内容を持つものと言えるかと思います。お二人の先生には、今後のさらなるご発展を祈念いたしまして、お祝いの言葉とさせていただきます。おめでとうございました。
 

受賞者あいさつ

遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞 受賞

小西 良子
国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部部長

このたびは公衆衛生の分野で多大な功績を残された遠山椿吉先生を記念して設けられました食と環境の科学賞という大変に名誉ある賞をいただき、言葉に表せないほど感激を致しております。

選考委員の諸先生方および「東京顕微鏡院」と「こころとからだの元気プラザ」の両法人には、心よりお礼を申し上げます。

受賞対象となりましたマイコトキシンの研究は、農薬や食品添加物と比べますと、その危害性は一般にはあまり認識されていない分野であります。しかしながら、この分野における我が国の研究者は、私がマイコトキシンの研究をはじめる遙か昔から世界に誇る数々の功績を挙げて参りました。1936年に台湾で収穫された米から黄変米毒の存在を見いだし、さらに1954-55年におこった黄変米事件では、黄変米毒を発見しその発がん性を提唱して国民の健康被害を未然食い止めたのは、マイコトキシン分野の研究者でした。また、麦類に汚染するトリコテセン系マイコトキシンであるデオキシニバレノールやニバレノールの発見および構造解析も我が国の研究者でした。

このような輝かしい歴史と先達の研究者達の情熱があったからこそ、今回の受賞につながる研究に発展出来たと思っております。

私が僭越ながら受賞させていただくことになりましたが、対象となった研究は、多くの共同研究者によってもたらされたものです。食品衛生や食の安全に関する研究は、毒性学、分析学、リスク解析学など、広い分野の研究者の共同研究が欠かせません。特にマイコトキシンのような生物由来の危害物質の場合は真菌学の分野は不可欠です。これらの共同研究が、システマティックに行われたことが、高く評価されたものと考えます。そして、このような地道な研究に光を当てていただきまして、本当にありがとうございました。

今後とも引き続き、広い分野の研究者とともにマイコトキシンを対象に、健康危害の防止に向けて微力を尽くして参りたいとおもいます。これをもって受賞の挨拶とさせていただきます。

遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞 功労賞 受賞

石川 哲
元北里大学医学部長、北里大学名誉教授

この度は遠山椿吉博士の業績を記念して設立された名誉ある「食と環境の科学賞:功労賞」を戴く事となり、大変光栄に思っております。

私が奉職した北里大学学祖である北里柴三郎博士は、遠山椿吉先生と同じ微生物学を研究されお互いにとても緊密な学者間の交流があった事を承りました。今回私がお話するテーマは先人の先生方が研究された微生物を一部化学物質に置き換えて考えて戴けば現代の複雑な疾患を御理解し易くなるかもしれません。  

私事になりますが、私の父は2代目の眼科医でした。父は東北大学眼科助教授を経て渋谷で開業しておりましたが、良き臨床家になる為には大勢の人を救う事ができる独創的研究をせよと教えられ育ちました。私も東北大学卒業後東京大学眼科にお世話になり「瞳孔」「毛様体筋」「輻輳」(目を内側に寄せる)機能の研究に熱中いたしました。この機能は脳幹にある自律神経中枢と大脳視覚領野と関係しもしもその回路に故障が起きると、眼と体の自律神経系機能に異常を来しとくに視覚系異常を起こすことが解明されつつありました。ここで、有機リン化合物の神経毒性と関係ができ学位も総合医学賞,米国環境医学会最賞:Jonathan Forman Awardもその研究で受賞いたしました。

皆様は化学物質過敏症、シックハウス症候群などを発症させる原因として「有機リン殺虫剤」が35%以上の大きな原因の1つである事を御存じでしょうか?その慢性毒性作用の結果、多くの患者さんが世界中で悩んでいる事を御存じないかも知れません。私はこれらの患者さんを救うことが最も大切な事であると現在でも思っております。これらの研究の推進には、東大、東北大、北里大および私の父の研究費援助など多数の方々の御援助により可能となりました。その研究発展の歴史は決して容易な道ではありません。苦悩と圧迫を跳ね返す事でした。私はその研究に携わってから約50年になります。今回その一部を皆様にお話しできるのは大変光栄に思っております。

今回の功労賞の御選考にあたり私をお選び戴いた関連の先生方に心から御礼を申しあげます。

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