遠山椿吉賞は、当財団の創立者で初代院長である医学博士、遠山椿吉の公衆衛生向上と予防医療の分野における業績を記念し、その生誕150年、没後80年である平成20年度に創設した顕彰制度です。公衆衛生の領域において、ひとびとの危険を除き、命を守るために、先駆的かつグローバルな視点で優秀な業績をあげた個人または研究グループを表彰するものと位置づけています。
令和3年度は「健康予防医療賞」において、将来の予防医療のテーマに先見的に着手したものを重点課題としました。
「遠山椿吉記念 第7回 健康予防医療賞」は「フレイル予防を軸とした新しい介護予防実現のための官民協働システム構築」というテーマで飯島勝矢氏(東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授)が受賞しました。 また、40歳以下の研究者を対象とした「遠山椿吉記念 第7回 健康予防医療賞 山田和江賞」は、該当者なしとなりました。
当初、令和4年2月1日(火)、ホテルメトロポリタンエドモントにて授賞式・受賞記念講演およびレセプションを開催の予定でしたが、新型コロナウイルスの感染状況に鑑み、リモートでの授賞式を執り行いました。
山田 匡通 氏
当法人理事長、医療法人理事長
この度『遠山椿吉記念 第7回 健康予防医療賞』を受賞された飯島勝矢先生は、大規模高齢者追跡コホート研究の実施を通じて、フレイル発症の危険度を示すエビデンスを創出するだけでなく、多くの自治体に導入され、実際に現場で活用されており、公衆衛生と予防医療の実践という遠山椿吉賞のコンセプトに合致した点が高く評価されました。受賞を心よりお祝い申し上げます。
遠山椿吉賞は、『公衆衛生向上をはかる創造性』、『予防医療の実践』、『これからの人の育成』を本質とした賞と位置づけており、わが国の公衆衛生、予防医療分野のますますの発展につながれば幸いです。
また、選考委員の皆様の多大なるご尽力に、心から厚く御礼を申し上げます。飯島勝矢先生のますますのご活躍とご健勝を祈念し、お祝いの言葉とさせていただきます。誠におめでとうございます。
門脇 孝 氏
国家公務員共済組合連合会 虎ノ門病院 院長、東京大学名誉教授
「遠山椿吉記念 第7回 健康予防医療賞」の選考についてお話させていただきます。本年度は、将来の予防医療のテーマに先見的に着手したものを重点課題といたしました。
本年度はコロナ禍にもかかわらず、29件の応募がありました。前回に劣らず、本年度もすぐれた研究課題の応募が多かったというのが特徴だと思います。今回は、1)公衆衛生への貢献度、2)公衆衛生向上を図る創造性、3)予防医療の実践、4)これからの人材育成の4つの点から多角的に評価を行い、選考を行いました。
まず若手奨励の山田和江賞ですが、これまでは委員会の強い推薦により候補者を決定してきましたが、今回は強い推薦を得た候補者がいなかったため、今回は「該当者なし」とすることとなりました。
次に遠山椿吉賞ですが、慎重に審議した結果、満場一致で東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター教授の飯島勝矢先生が選出されました。研究題目は「フレイル予防を軸とした新しい介護予防実現のための官民協働システム構築」です。
飯島先生は、大規模高齢者追跡コホート研究の実施を通じて、フレイル発症の危険度を示すエビデンスを創出し、発信するとともに、新たな早期発見・予防プログラムを創出されており、研究成果はすでに多くの自治体に導入され、実際に現場で活用されております。特に、飯島先生の研究成果が、人生100年時代を迎えた超高齢社会において公衆衛生の向上を図る創造性に優れていることはもちろん、予防医療の実践を通じ、実際に公衆衛生の向上への貢献が卓越していると認められ、選考委員会は、飯島先生が授賞に最もふさわしい研究者であるとの結論に至りました。
以上、遠山椿吉賞、山田和江賞の選考の経緯をご紹介いたしました。遠山椿吉賞について本年度も素晴らしい研究者を選ぶことができましたのは、選考委員会にとっても大きな喜びです。山田和江賞については、優秀な研究成果を有する若手研究者の一層積極的な応募を期待します。
改めて受賞された飯島先生にお祝いを申し上げ、選考委員長の経過説明といたします。
辻 哲夫 氏
東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員(同機構元教授)
この度の遠山椿吉記念 健康予防医療賞のご受賞、誠におめでとうございます。 厚生労働省退官後東京大学で飯島先生と職場を同じくした私は、これまでの間、寝食を忘れるがごとくの精力的な先生のお仕事ぶりに接してきました。
今後85歳以上の人口が1,000万人に達するという超高齢社会を迎えるにあたり、健康寿命の延伸は、国家的課題です。このような認識を胸に、飯島先生は地域住民のフレイルの実態を総合的な視点に立って克明に調査・解析し、データに根拠をおいたフレイル予防のポピュレーションアプローチの展望を明らかにされました。
このことは今後のわが国の介護予防政策の一層戦略的な構築の重要な土台になると思います。とりわけ、地域住民への深い思い入れの下でその互助の力を見事に引き出しつつ、データによるフレイルの見える化やフレイル予防のまちづくりへの展開を図るフレイルチェックという方式を開発され、その普及に注力されていることは、わが国の地域予防活動実践のエポックを画するものであると思っております。
日本の高齢化はこれからが本番です。今回のご受賞を機に、飯島先生が研究・実践の両面で更に大きく羽ばたかれることを心より祈念しております。
飯島 勝矢 氏
東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授
この度は、遠山椿吉賞(第7回健康予防医療賞)を賜り、誠にありがとうございます。 光栄の至りに存じます。
私は、もともと循環器内科医としての臨床経験を積み、その後、老年医学へ大きく踏み出す決意をいたしました。その流れでお世話になった教室(東京大学医学系研究科加齢医学講座)では、幅広くかつ柔軟に対応を行う高齢者医療における臨床を学び、さらに多様な研究を通して洞察力を磨いたり、若手人材の教育を行うなど、様々な経験をさせていただきました。
自分自身の医師人生をステージに分けてみますと、循環器内科医として心臓カテーテル治療を主に行っていたのが第1ステージ、老年医学を通して臨床・研究・教育を推し進めたのが第2ステージであったのだろうと振り返ります。
その後、ご縁があり、東京大学内に新設された分野横断型の「高齢社会総合研究機構(ジェロントロジー:総合老年学)」に学内異動し、少子高齢化の進む日本全体および各地域コミュニティーに存在する多岐にわたる課題に触れ合うことができました。まさに第3ステージに入ることができたのです。
高齢者も含めて地域住民は多層的に存在しておりますが、生きがいおよびやりがいを持ちながら、日々の生活を送ることができているのか、地域貢献も含めた住民主体活動を今まで以上に推進できる地域の安定基盤を構築できるのか、少しでも長く自立期間を延ばし、個人および地域の両面から真の健康長寿社会を実現できるのか、たとえ多病により心身機能が弱っても、住み慣れた自分の地域と家で住み続けられる社会保障制度や、地域でのセーフティーネットの在り方とは、さらには前述の全てを具現化し持続的なまちづくりを実現するための産官学民連携の姿とは、以上のような地域課題を頭に描きながら、全国の複数の自治体が参加するフィールドを活用し、課題解決型実証研究(アクションリサーチ)を実践してきました。
なかでも、「フレイル(虚弱)」をいかに早期から予防し、個人における健康長寿実現だけではなく、地域社会での住民主体による健康長寿まちづくりを実現するために、大規模高齢者コホート研究を10年前から行ってきました。そこからのエビデンスを活用し、全国の多くの自治体における高齢住民に対し、新たなスタイルの住民ボランティア(いわゆるフレイルサポーター)が主体的に活躍しながら、自助・互助の考え方のもと、エビデンスベースで作成したフレイルチェック活動の全国基盤を構築しました。また、このフレイル予防戦略は、厚生労働省の新たな政策「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」、なかでも通称フレイル健診とも言われている行政施策にも反映されております。これらの取組を包括的に評価していただいたことが今回の受賞につながったと思い、大きな誇りに思います。
今後も、国民一人ひとりの健康長寿実現のため、そして快活な地域コミュニティーの再構築のため、多面的な課題解決型実証研究を通して、エビデンスベースでの政策提案および地域実装を推進していく所存でございます。本研究にご協力いただいた諸先輩方および産官学民連携での関連諸氏、そして私の所属で一緒に汗をかいてくださった研究者や事務職の方々に深く感謝申し上げ、受賞の御礼の挨拶に代えさせていただきます。