実際に起こった食物アレルギー事例

2014.08.31

2014年8月31日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品理化学検査部 技術専門科長 渡部 健二朗

はじめに

近年、乳幼児から成人にいたるまで食物アレルギーをもつ人が増えてきています。食物アレルギーに関するニュースがマスコミでも多く取り上げられ、社会的な関心も高まってきています。

今回は実際に起こった事例として「学校給食の誤食事故」、「食後の運動によるアレルギー事例」、「石鹸による小麦アレルギー事件」などについて取り上げます。

学校給食での誤食事故

2012年12月東京都調布市立の小学校で、給食後に食物アレルギーのある5年生の女児が死亡しました。原因はアレルギーによるアナフィラキシーショック注1)とみられました。女児は乳製品にアレルギーがありましたが、女児がおかわりを求めた際に担任教諭は食べられない食材が記入された一覧表を確認しないまま、チーズ入りのチヂミを渡していました。女児が食後に気分が悪い旨を訴え、症状が悪化したため、校長が14分後に女児のもっていたエピペン®(アナフィラキシーの症状を和らげるアドレナリン自己注射製剤)を注射しました。その後、救急車で病院に搬送されましたが、女児は心肺停止になりました。

学校給食での誤食事故はその後もたびたび起きています。2014年7月秋田市立の小学校では給食のキーマカレーを食べた小学2~3年の児童3人が、顔面紅潮やせきなどのアレルギー症状を起こし、うち2人は病院に運ばれました。3人はいずれも牛乳アレルギーがあり、1名は持参していた抗アレルギー剤を服用し、2名はエピペンを養護教諭らが注射して対応しました。職員が誤ってキーマカレーに予定のなかったスキムミルクを使用したことが原因となりました。

注1)アナフィラキシーショック

食物、ハチ毒、薬物などのアレルギー反応により、蕁麻疹などの皮膚症状、腹痛や嘔吐などの消化器症状、ゼーゼー、息苦しさなどの呼吸器症状が、複数の臓器に同時にかつ急激に出現した状態をアナフィラキシーといいます。その中でも、血圧が低下し意識レベルの低下や脱力を来すような場合を特にアナフィラキシーショックと呼び、直ちに対応しないと生命にかかわる重篤な状態になることもあります。

食後の運動によるアレルギー事例

山形市立中学校で2013年8月、3年生男子生徒が給食で小麦を使用したサケのフライを食べた後、昼休みにサッカーをし、腹痛やせきなどの症状が出ました。養護教諭が「エピペン」を打ち、救急車で搬送し、生徒は1日入院し回復しました。この生徒は原因食物の摂取などに運動が加わることで発作が起きる運動誘発性の小麦アレルギー注2)があり、普段、学校ではこの生徒の体育の授業を午前中にするなどして対応していました。

注2)食物依存性運動誘発アナフィラキシー

原因食物を食べただけではアレルギー症状は起こさず、食後に運動が加わることによってアナフィラキシーが起きるタイプです。運動によって腸での消化や吸収に変化が起き、アレルゲン性を残したタンパク質が吸収されて起きるものと考えられています。

石鹸による小麦アレルギー事件

2009年頃から茶の成分を配合した「茶のしずく石鹸」を使用していた人からまぶたの腫れ、顔面のかゆみ、発赤などを主な症状とする小麦アレルギーが多数報告されました。2010年10月15日に厚生労働省医薬食品局から「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について」という注意喚起が出されました。その後も新たに同様な症例が報告されたため、2011年5月20日に自主回収が行われました。

茶のしずく石鹸は2005年から2010年12月までに約4650万個が約467万人に販売され、そのうち2000名以上の人が発症し、2014年7月の時点でも新たな発症者が報告されています。症状の多くは湿疹やかぶれなどの皮膚障害ですが、特徴的なのは、当該石鹸の使用により全身性アレルギーを発症している例が約20%あり、もともとアレルギー体質ではなかった人が突然に小麦アレルギーを発症し、小麦製品を食べられなくなったケースも少なくありません。また、中には呼吸困難や意識不明などのアナフィラキシーを起こした人もいました。

原因は当該石鹸に入っていたグルパール19Sという小麦加水分解製品で、製造工程において原材料のグルテンが、よりアレルギーを起こしやすいアレルゲンに変化したことが明らかになってきました。また、洗顔に使用したため、アレルゲンが眼や鼻の粘膜に付着したことや石鹸の界面作用により、皮膚のバリア機能(皮膚が体外の物質を透過させない機能)が低下し、アレルゲンが吸収されやすくなっていた可能性も考えられています。

小麦製品の摂取によるアレルギーはよく知られていますが、石鹸により小麦アレルギーが発症することは思いもかけないことでした。

豆乳等によるアレルギーの注意喚起

健康志向の高まりにより、豆乳等の人気が高まっていますが、2013年12月5日、独立行政法人国民生活センターは「豆乳等によるアレルギーについて-花粉症(カバノキ科花粉症)の方はご注意を-」との注意喚起を発表しました。

国民生活センターには、豆乳等を飲んで、皮膚や粘膜のかゆみ、腫れ、じんましん、呼吸困難等のアレルギー症状を発症したという相談が2008年度以降の約5年間で15件寄せられています。それまで、豆腐等の大豆加工食品ではアレルギー症状が出なかった人が、豆乳等を飲んだ時に発症したという事例もみられました。大豆による食物アレルギーは、大豆を原材料とした食品を食べたことにより発症する症例と、主にカバノキ科(シラカバ、ハンノキなど)の花粉症の患者が、豆乳等を摂取した際に発症する「口腔アレルギー症候群」注3)が知られています。

近年、花粉症の増加に伴い、「口腔アレルギー症候群」の症例が増加しているとされています。そこで、カバノキ科植物の開花時期(1~6月)を迎えるにあたり、豆乳等によるアレルギーを消費者に注意喚起したものです。なお、リンゴやモモなどのバラ科の果実でも同様の発症の可能性があります。

注3)口腔アレルギー症候群

花粉アレルゲンに対するIgE(免疫グロブリンE)抗体が、果物や野菜アレルゲンにも反応するために起こる即時型アレルギーです。アレルゲンが消化されると反応しなくなるため、通常は口の中がピリピリしたりかゆくなったりするだけの症状ですが、大量に食べて全身症状が出てしまうこともあります。


(参考)

  • 調布市立学校児童死亡事故検証結果報告書 平成25年3月
  • 「茶のしずく石鹸等による小麦アレルギー情報サイト よく寄せられる質問」
    厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)
  • ぜんそく予防のためのよくわかる食物アレルギー対応ガイドブック2014
    独立行政法人 環境再生保全機構 2014年6月

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