2015.07.29
2015年7月29日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
微生物検査部 技術専門係長 吉川 百合
厚生労働省は5人が死亡した平成23年の焼き肉店の食中毒事件を契機に、平成24年7月に牛レバーの生食提供を食品衛生法によって禁止しました。その陰で患者数を伸ばしてきた感染症があります。それがE型肝炎です。
E型肝炎はE型肝炎ウイルス(HEV)によって引き起こされる急性肝炎で、A型肝炎ウイルスと同じく経口伝播します。免疫不全など特殊な場合を除けば予後は良好で、慢性化することはありませんが、致死率は1~2%とA型肝炎と比較すると高くなっており、特に妊婦では重症化しやすくなります。
開発途上国ではウイルスに汚染された飲料水などを介した大規模な集団発生が知られていますが、先進国では豚や猪・鹿などの野生鳥獣肉の生食による感染例が見られます。
日本での患者数は平成23年頃までは年間50名程度で推移してきましたが、牛レバー刺しの飲食店での提供を禁止した平成24年を境に、E型肝炎患者が100名以上と倍増していることが、国立感染症研究所の感染症発生動向調査により明らかになりました。
牛の代わりに豚の生レバーなどを提供する飲食店の増加により、豚の生食によるE型肝炎の感染が拡大したと考えられています。(平成23年、HEV感染に対する体外診断用医薬品が発売され、診断が容易になったことによる患者数の増加も推定されます)
これらの事態を受け、厚生労働省は平成26年「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」を策定し、猪や鹿などのジビエ肉の生食に対する注意喚起を呼びかけました。また平成27年6月には食品衛生法に基づく規格基準も改正され、牛レバーに続き豚レバーの生食も禁止されました。
元々、日本での肉食の歴史は欧米諸国に比較して浅く、山では猪や鳥を捕まえて食べることはありましたが、国民のほとんどが毎日口にするような物ではありませんでした。一般化したのは明治頃からで、その歴史はほんの150年ほどです。
欧米人が生肉を食べないのは、その危険性を長い食肉の歴史の中で熟知しているからかもしれません。
E型肝炎ウイルスは、70℃10分間又は95℃1分間の加熱により感染力を失います。豚レバー、猪や鹿などのジビエ肉は、充分に加熱してから食べることを心がけましょう。
参照