検査業務における品質保証への取り組み

2020年6月24日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
信頼性保証室 武藤 積弘

国際的な規格ISO/IEC 17025と食品衛生法GLP

検査や校正業界の分析値の品質を保証する国際的な規格として、ISO/IEC 17025(試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項)は広く知られています。この規格は、コーデックス委員会(※1)が発出しているCodexガイドラインCAC/GL27(1997)(※2)の一般要求事項として位置づけられており、試験の信頼性保証として重要な国際規格となっています。

ISO/IEC 17025は2017年11月に改訂されました。2005年版では、要求事項が規範的な(具体的かつ細かい)ものだったのに対し、2017年版ではいくつかの規範的要求事項が見直され、“手順を持ち適用すること” だけが要求事項とされ、試験所が自身の責によって設定し、それに従い運営できることと解釈できます。

一方、わが国では食品の安全性を確保するための規制として食品衛生法があります。1947年に制定され、様々な食中毒事件や食品を通した公害病の経験、近代の食のグローバル化等を背景に度々改正が行われています。その中で、食品分析値の品質保証については、1995年(平成7年)改正(※3)により、食品検査施設における検査データの信頼性を確保するシステムとして食品衛生法GLPの制定がなされ、「GLP(※4)」に基づき食品等の検査を行うことが義務づけられました(※5)

当時、輸入届出された食品等の検査は、厚生労働大臣が指定した検査機関が担っており、「指定検査機関における製品検査の業務管理について」の通知に従って実施されていました。この通知における分析値の品質保証については、検査方法は省令、告示、関係通知等のいわゆる公定法のみでの検査が義務付けられていました。なお、この通知は2004年(平成16年)指定検査機関から登録検査機関に制度変更された際、「登録検査機関における製品検査の業務管理要領(以下「業務管理要領」(※6)」に改訂されました。

さらに2008年(平成20年)の改正により、分析値の品質保証という概念に「妥当性確認」の必要性が加わりました。すなわち、通知等以外の試験法によって検査を行う場合には、当該試験法の妥当性を評価することが定められました。これはいわゆる公定法でなくとも、妥当性のある検査方法であれば検査が可能であることが示されたことになります。

科学センターの品質保証体制

当科学センターでは、現在、食品試験及び放射能試験についてISO/IEC 17025:2017の認定を取得し、食品と環境の安全・安心に関する品質方針を定めた「試験所品質マニュアル」にて検査業務を運営しています。品質管理部門として、「ISO運営事務局」と「ISO委員会」を設置しています。

検査業務に起因する問題が生じた場合には、その原因究明や改善を行うとともに、被害拡大防止のための緊急処置の実施、行政及びお客様への情報の開示、再発防止策の策定などの役割も担っています。

一方、業務管理要領に基づく検査業務システム(以下「食品GLP」)には「信頼性確保部門」の設置が義務付けされています。そのため「信頼性保証室」を設置し、内部点検や内部監査の実施の他、各種精度管理に関する評価や文書記録管理、外部精度管理を定期的に受けるための事務作業等を行い、検査業務の信頼性の維持・向上に関わる検証活動を計画的に行っています。

科学センターの分析値の信頼性保証

分析値の信頼性保証とは、使用目的に対して真の値から離れている確率が極めて低いことを、科学的なエビデンスを持って第三者に示すこととされています。それは分析値に影響を及ぼす様々な要因を推定し管理することであり、科学的な証拠として提示できることです。

ISO/IEC 17025には、「プロセスに関する要求事項」において、適合性表明、方法の選定、検証及び妥当性確認や技術的記録などが規定されており、分析値の信頼性における「実証」を示すことができます。

「食品GLP」では、業務管理要領で記載された事項の実施が義務付けされているため、記載された事項の実施が遵守されることで「分析値の保証」が示せるものであり、科学センターではその両者をもって分析値の信頼性が保証されています。

また、信頼性には各検査担当者の技術的力量が大きく関与します。そのため、科学センターでは教育訓練規定に基づき、個人あるいは職能別の教育研修プログラムを定め、作成した年間教育研修計画に基づいて社内研修や社外研修を行い、その実績を教育・研修記録書に記録し教育状況の管理を行っています。さらに、外部精度管理として、国際的な食品検査技能試験(FAPAS/FEPAS)(※7)にも参加しています。

「試験所品質マニュアル」と「食品GLP」に関わる課題

食品検査の近況として、政府の輸出促進政策(農林水産物・食品の輸出拡大)があります。農林水産省は「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」を2019年(令和元年)公布(※8)しました。日本の農林水産物・食品を世界に発信する試みとなり、国内のみならず、海外へも食に関する安全性確保が重要となります。当然、検査の精度保証も海外に配慮したものになり、科学センターでも国際的に説明できるISO/IEC 17025に基づく検査の実施が必要です。

そこで、ISO/IEC 17025の2017年改訂に伴い、「試験所品質マニュアル」についても改訂を行っています。改訂ポイントとして、①食品GLPとの統合を目指すこと。②検査業務における主体性及び自律性を規定文書に表記すること。③苦情処理規定、情報共有手段をマニュアルに盛り込むこと。に留意しました。

おわりに

登録検査機関である科学センターでは、分析値の品質保証として「食品GLP」が基本となります。しかし、今後は国内的な品質保証に留まらず、国際的に合理的な説明を可能にする品質保証が求められていると思います。そのための手段の一つとして、「食品GLP」にISO/IEC 17025を取り込むことにより、国内規則の中に国際的な規格をできるだけ融合させ、国際的にも妥当性のある品質保証システムを構築することが必要であると考えます。


※1:Codex Alimentarius Commission (CAC) HP より
消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963年にFAO及びWHOにより設置された国際的な政府間機関であり、国際食品規格の策定等を行っています。我が国は1966年より加盟しています。

※2:「食品の輸出入規制にかかわる試験所の能力評価に関するガイドライン」 
食品の輸出入管理に関わる試験所の能力を保証するため、「ISO/IEC 17025に挙げられる試験機関に関する一般的なクライテリアを遵守すること」とされています。

  • ※3:「食品衛生検査施設に関する事項」は1997年(平成9年)施行
  • ※4:国際機関である経済協力開発機構(OECD)が1981年に国際的な合意として決めた試験所の基準(優良試験所規範)
  • ※5:1996年(平成8年)食品衛生施行令改正/施行規則一部改訂
  • ※6:業務管理要領は、制定当時の国際的な文書であるISO/IEC Guide25(ISO/IEC 17025の前身)を基礎として作成されています。その背景として、FAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)において、精度管理、検査業務管理等の手法がとりまとめられていたことや、輸出国政府からわが国の輸入届出された食品等に関わる検査の信頼性について問題が提起されるケースがあったためです。
  • ※7:英国環境食料農村地域省(Department for Environment, Food and Rural Affairs, 略称DEFRA)傘下の独立行政法人である英国食料環境研究庁(The Food and Environment Research Agency, 略称Fera)が、1990年に国際調和プロトコールに沿って開発した信頼ある食品検査及び水質検査の技能試験スキームです。試験所の検査技能を証明する方法として、これまで世界99ヶ国以上、3000以上の試験所が参加しており、国内では250ヶ所以上の試験所が参加しているとされています。
  • ※8:2020年(令和2年)施行
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