2021.07.15
財団法人東京顕微鏡院 豊海研究所 所長 安田和男
信頼性保証室:生野 美千代
近年、乳幼児から成人に至るまで食物アレルギー症状を引き起こす人が増加しています。食物アレルギーとは、身体が食品中に含まれる特定のタンパク質(アレルゲン)を異物と認識し、それを排除しようとした際に過剰な反応が起き、自分自身を痛めつけてしまうものです。
食物アレルギーは、食品中に微量に含まれるアレルゲンを摂取しても発症する恐れがあり、「じんま疹・湿疹」などの皮膚症状、「下痢・嘔吐・腹痛」などの消化器症状、「咳・喘鳴・呼吸困難」などの呼吸器症状、鼻・目粘膜症状などが現れます。症状が重いアナフェラキシーショックを引き起こすこともあり、呼吸困難や血圧低下、意識消失などの症状が現れ、対応の遅れから死に到る事故も起きています。
こうした食物アレルギーの発症を防ぐには、原因となる食品原材料の摂取を避け、アレルゲンを取り込まないことが重要です。
しかし、食品製造の現場では、原材料や製造工程の管理が不十分であった場合、製品にアレルゲンが混入する可能性があります。そのため、危害を未然に防ぐ目的で、表示を通じた消費者への情報提供の必要性が高まり、厚生労働省は平成14年から、製造・加工・輸入された加工食品に、アレルギー症状を引き起こす物質である食品原材料を表示する制度を始めました。
表示には、アレルギー物質を原材料名の最後に表示する方法、個別の原材料の後に括弧書きで表示する方法が認められています。「○○が入っているかもしれません」などの可能性表示は認められておらず、食物アレルギー物質が混入すると想定される時は、欄外に注意喚起をすることが望ましいとされています(表1)。
表1 表示の例
■ アレルギー物質を原材料名の最後に表示する
例) 「原材料の一部にそばを含む」、「牛肉由来原材料を含む」
■ 個別の原材料の後に()書きで表示する
例) 「ハム(卵・豚を含む)」
■ 食物アレルギー物質が混入されると想定される場合(欄外に記載)
例) 「本品製造工程では小麦を含む製品を生産しています。」
「本製品で使用しているイトヨリダイはえびを食べています。」
「本製品で使用しているしらすは、かにが混ざる漁法で採取しています。」
表示の対象となる食品原材料は、発症頻度や症状の重篤度の点から、表示が義務付けられる「特定原材料」及び、表示が推奨される「特定原材料に準ずるもの」が挙げられています。
表示対象品目は時代の変化とともに実態調査・科学的研究により見直され、平成16年にはバナナが特定原材料に準ずるものに追加、また、えび・かには、症例数が多いことなどから、平成20年6月に特定原材料に準ずるものから特定原材料へと改正されています(表2)。
表2 表示の対象となる食品原材料
食物アレルギーによる事故を最小限に抑えるには、単に対象となる食品原材料を表示するだけではなく、科学的な検出法により、表示が適正であるかを確認することが必要です。検出法としては、抗原抗体反応を利用するELISA法やウエスタンブロット法により、特異的なタンパク質を検出する方法や、遺伝子増幅法(PCR法)により、特定原材料等に含まれる特異的な遺伝子を検出する方法が開発されています。
当科学センターでは、タンパク質の定量が可能なELISA法により、表示が義務付けられている特定原材料のうち5品目(卵・乳・小麦・そば・落花生)の検査の受託をしています。
また、えび・かにの検査についても検討をすすめています。