最近のシックハウスの特徴(続) ~アセトアルデヒドの発生源は何か、その対策は?

2021.07.15

財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
環境衛生検査部 部長 瀬戸 博

前報で、最近は、各省庁のシックハウス対策によりホルムアルデヒドやトルエンなどの基準や指針値が設定されたため、これらの物質を避け、別の物質を使う傾向があると述べました。その結果、指針値の設定された物質では、軒並み指針値超過率が低下したのですが、一つ例外があります。

それは、アセトアルデヒドです。アセトアルデヒドについては、発生源となる建材や発生機構が明確になっていないため、製品安全データシート(MSDS)や成分表などでアセトアルデヒドを含まない材料を使用したのにもかかわらず、施工後指針値を超過する例がみられます。ここでは、アセトアルデヒドの発生源や発生機構さらに低減化対策についてこれまでの知見を整理してみたいと思います

全国実態調査の結果から

国土交通省による全国の新築住宅居室を対象にした調査結果をみると、平成14年度から平成17年度までの室内空気中のアセトアルデヒド濃度は平均0.015ppmから0.018ppmで顕著な変動はありません。しかし、指針値超過率は平成14年度から順に9.2%、9.5%、9.7%、11.6%と徐々に増加しています。また、同調査で平成12年度にホルムアルデヒド濃度が指針値を超えた住宅(89軒)を対象にした追跡調査によるアセトアルデヒド濃度の経年変化を表1に示しました。

表1 同一住宅におけるアセトアルデヒド濃度の経年変化

単位:ppm , n=89軒

定時期 * 平均濃度 標準偏差 最大濃度
2002夏 0.014 0.014 0.11
2002冬 0.017 0.011 0.07
2003夏 0.017 0.016 0.10
2003冬 0.014 0.014 0.06
2004夏 0.019 0.014 0.08
2004冬 0.018 0.016 0.07
2005夏 0.014 0.013 0.08
2005冬 0.018 0.018 0.10

* 測定時期の表示は原報のままとした

この結果から、3年を経過したにもかかわらず平均濃度、標準偏差、最大濃度のいずれについても、大きな変化はないことがわかります。通常、新築後は急激に減少するトルエンなどと比較すると、明らかに異なっており、発生源を考えるうえでも大変興味深い現象といえます。

なお、厚生労働省の室内空気中アセトアルデヒド濃度の指針値は48μg/m3、(0.03ppm)ですが、国土交通省はWHOがガイドライン値0.03ppmを0.17ppmに訂正する動きがあるとして住宅性能表示基準からアセトアルデヒドを除外しました。

アセトアルデヒドの発生源について

北海道立林産試験場が小型チャンバー(JIS A 1901)やデシケータ法(JIS A 1460)などを用いて、木材や接着剤など各種の建材から発生するアセトアルデヒドを調べていますので、その結果を紹介します。

木材では、トドマツやカラマツなどの針葉樹や広葉樹のヤチダモからのアセトアルデヒドの放散が認められ、7日後には当初の5割から7割程度に低下しました。ブナからの放散は認められませんでした。(独)森林総合研究所でも、アセトアルデヒドの放散量は樹種によって大きく異なり、ベイマツやオウシュウアカマツなどから多量に放散することを報告しています。

接着剤では、酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤からの放散が多く、同じ系統の酢酸ビニルエマルジョン接着剤であっても、アセトアルデヒドの放散量は大きく異なっていました。水系合成塗料やエタノールが使用されていた自然系塗料からもアセトアルデヒドが多量に放散していました。これらの接着剤や塗料には、アセトアルデヒドの成分表示がありませんでした。溶剤では、工業用エタノールから多く放散することが認められました。

表2 アセトアルデヒドの主な発生源

木材 トドマツ、カラマツ、ヤチダモ、ベイマツ、オウシュウアカマツなど
接着剤 酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤
塗料 水系合成塗料、自然系塗料
溶剤 エタノール

アセトアルデヒドの発生機構

以上のように、室内には多くのアセトアルデヒドの発生源があることが判明しました。しかし、どのような機構で発生し、放散するのかは必ずしも明確ではありません。木材については、乾燥などの熱履歴がアセトアルデヒドの放散を促進するというデータもありますが、樹種による相違を説明するには至っていません。代謝によって植物体に蓄積されたものであれば比較的速やかに放散するものと推測されます。

次に、樹脂や塗料などの溶剤として使用されたエタノールは表面から揮発するまでの間に一部が酸化され、アセトアルデヒドとして放散すると考えられます。酢酸ビニル樹脂や塗料では、不純物としてアセトアルデヒドやエタノールが混入しているのではないかという指摘もあります。

一方、酢酸ビニル樹脂そのものが分解し、アセトアルデヒドが生成するとの意見もあります。東京都健康安全研究センターによれば、酢酸ビニル樹脂からのアセトアルデヒドの放散は水分(相対湿度50%以上)とコンクリートそのものやコンクリートに由来するアンモニアによって加速するとされ、これは酢酸ビニル樹脂の加水分解反応によるものと考えられています。

この酢酸ビニル樹脂の加水分解によって生成するアセトアルデヒドの放散は長く続くものと推測されます。数ヶ月あるいは1年経過後にも同様な高い濃度であれば、酢酸ビニル樹脂の分解によると考えてよいでしょう。しかし、酢酸ビニル樹脂製品の種類ごとにアセトアルデヒドの放散量が異なる理由はまだよくわかっていません。

低減化対策

木質系材料からもアセトアルデヒドが発生しますので、使用する前に確認しておきましょう。また、酢酸ビニル系接着剤についてもアセトアルデヒド発生量の少ないものを選択し、できるだけ使用量を少なくする設計としましょう。施工後は、窓あけによる換気を積極的にしていただくのが最もよい方法です。

排気ファンのみによる換気システムでは室内が陰圧になるため床下や壁裏に溜まった汚染物質を室内に吸引することもありますので注意が必要です。ベークアウトは表面の汚染物質を除去するのには効果がありますが、分解反応を促進し、却って逆効果になる場合もあります。酢酸ビニル樹脂接着剤が多量に使用された空間または放散面が当該室内と容易に空間的につながっていて外部に排気されない場合、高濃度になることが想定されます。

「食と環境の科学センター」では、厚生労働省による室内空気濃度の指針値が設定されている13物質以外に総揮発性有機化合物(TVOC)の検査のご要望にもお応えしています。

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