2021.07.15
財団法人東京顕微鏡院 豊海研究所 所長 安田和男
信頼性保証室:生野 美千代
中国国内でメラミンが混入された乳幼児用粉ミルクが原因と思われる腎臓結石や急性腎不全の乳幼児患者が発生し、問題となっています。
そのため、日本では、厚生労働省が平成20年9月20日、「事業者から、中国から輸入した加工食品の原料の一部に、メラミンの混入が確認された業者の牛乳を使用していることが確認されたため、自主回収を行う旨の情報提供がありました」として、このような食品の輸入は認めないとの発表を行いました。
メラミンは食器類、まな板、プラスチック類などの製品にメラミン樹脂として広く使用されている化学物質です。メラミン製造時にできるシアヌル酸と結合して結晶ができると、腎臓結石の原因となるほか、その結晶が腎不全を起こすこともあるという動物実験の結果が知られています。しかし、調理加工や包装の際にそれらの製品からメラミンが溶出したとしてもごく微量で、通常は健康に被害を与える量が食品へ混入する可能性は低いと思われます。
日本だけでなく、FAO/WHO、コーデックス委員会でも食品へのメラミン添加を認めていません。さらに、わが国では、乳・乳製品の成分規格があり、飲用乳や原料乳では、比重の測定、他物の混入禁止、脱脂粉乳ではタンパク質量調整のために添加できるものなどが省令で定められています。
しかし、問題となった中国の企業では、乳幼児用粉ミルク原料の牛乳に意図的にメラミンを添加したことが分かっています。その理由として挙げられるのが、牛乳を水で薄めて容量を増して利用しようとしたことです。牛乳を水で薄めると、タンパク質含量が低くなります。それを調整するために、牛乳に窒素(N)含量が多いメラミンを混入させて、タンパク質含量が多く見せかけるようにした、というものでした。
これまでに、日本国内でもパン、まんじゅう等の中国産加工食品からメラミンが検出されていますが、TDI(耐容一日摂取量)※から見て、直ちに健康被害につながるような量が検出された事例はありません。
厚生労働省は、平成20年9月26日付けで「中国から輸入される乳及び乳製品ならびにこれらを原材料とする加工食品に対して食品衛生法第26条第3項に基づく検査命令を実施すること」を通知しました。検査により、メラミンが検出された食品は、食品衛生法第10条違反として、輸入は認められないこととなります。
現在、当科学センターでは、平成20年10月2日付け厚生労働省通知のLC-MS/MSによる試験法を用いて、食品中のメラミン検査について検討を進めています。
※TDI(耐容一日摂取量)…ヒトがある物質を生涯にわたって継続的に摂取した際に、健康被害がないと推定される1日あたりの摂取量。TDIは、FDA(米国食品医薬局)では、メラミンとして0.63mg/kg bw/day、また、EFSA(欧州食品安全機関)では、メラミン及び関連化合物として0.5mg/kg bw/dayとしている。